172 / 176
終章 嗚呼、色事の日々
騎士団長と言付け
しおりを挟む
「あなたが……ワイマーレ騎士団長……ですか?」
愕然とした顔のパームの口から零れた呟きに、岩にめり込んだワイマーレは、小さく頷いた。
「……如何にも。……傭兵輩に敗れ、……陛下から預かりし騎士団を――壊滅させ……、更に、死して後まで身体を操られ、傭兵の走狗へと成り下がるとは……。晩節を汚すどころではない……死後にとんだ醜態を――晒してしまったようだな……」
時折、言葉を詰まらせながら、ワイマーレは痛恨の表情を浮かべて、苦々しげに言う。
「まあ――、しょうがないんじゃないか? 相手は、あの“銀の死神”だ。ただの騎士団長程度が、敵う相手じゃなかったって事だ」
「――ジャスッ! 言い方!」
失意の騎士団長に対し、ジャスミンがかけた言葉を、アザレアがきつく窘める。
ワイマーレは、二人のやり取りに苦笑を浮かべながら、言葉を続けた。
「貴殿らが……バルサ王国の危機を救い……、我らの恥辱を雪いでくれ、私を呪縛から解き放ってくれた――。この、ロイ・ワイマーレ……心から、貴殿らに礼を言おう。――ありがとう」
「……止せよ。俺は別に、あんたらや国の為に、ここまでやった訳じゃあない。単に、フジェイルへの個人的な借りを返す為――。それ以外の成果は、ただの副産物だよ」
「……そうか、君は、キチンと生きたままで、雪辱を果たす事が出来たのだな。――それは、何より。……こんな身に堕とされた私にとっては……少々、羨ましい事だが……な」
そういった所で、ワイマーレは激しく咳き込んだ。口を押さえた掌から、腐臭を放つどす黒い腐敗液が、糸を引いて零れ落ちる。
彼は、手の甲で口を拭きながら、縋るような目で、パームを見た。
「そこの神官……殿。――迷惑ついでに……私の最期の頼みを……聞いていただきたい」
「……分かっております、ワイマーレ騎士団長様……」
彼の言葉に、哀しい表情を浮かべたパームは、目の端に涙の珠を浮かべ、頷いた。
ワイマーレは、彼の目を見ると、安堵の表情を浮かべ、その厳つい顔を緩ませる。
「……忝い。――恩に着る」
「いえ……。それこそが神官の責務と心得ております」
パームは、ワイマーレにニコリと優しく微笑みかけ、彼の前で片膝をついた。
「……僕の全身全霊を込めて、貴方の魂を浄化させて頂きます」
「――頼む」
ワイマーレは、目を閉じ、穏やかな顔で頷く。
と、それまで黙ったままだったヒースが、顎をポリポリと掻きながら、彼に言葉をかける。
「おい、騎士団長サンよ……。あー、何だ、その……楽しかったぜ、さっきの戦い。――強かった、アンタは」
「……戦士にとっては、何より嬉しい言葉だ。……私も楽しかったぞ。――巨大な戦士よ」
「――ヒースだ。冥土の土産に覚えて逝け」
「分かった。……また戦い合おうぞ、ヒース。――冥界でな」
「ああ。死んでからの楽しみにとっておくぜ」
そう言って、彼はニヤリと不敵に笑ってみせた。
ワイマーレも、その笑みに笑い返し、そして、パームに頷きかけた。
「……お待たせ致した。神官殿……宜しく頼む」
「あ……。ワイマーレ様……ひとつ、お言付けを預かっているのを忘れていました」
「……言付け?」
ワイマーレは、怪訝な表情を浮かべて、首を傾げる。
「国王陛下か? ……いや、しかし――」
「はい、バルサ二世陛下ではありません」
パームは静かに頭を振り、言葉を継いだ。
「――バールさんという……年老いた騎士の方です」
「な――っ!」
ワイマーレの目が、驚愕で見開かれた。
「そ……そんなはずは……! 奴はあの時に、死神に喰われて――」
「はい……、ワイマーレ様の仰る通りです」
取り乱すワイマーレに、静かに頷きかけるパーム。
「バールさんの魂は、ゼラさん……銀の死神の中に残っていたのです。僕が彼女にノリトを施した際に……彼も居ました」
「……なるほど」
ワイマーレは、沈痛な表情を浮かべて呟いた。そして、彼は様々な感情が複雑に混じり合った目をパームに向けて、微かに震える唇から、言葉を紡ぎ出す。
「……で、バールは……何と言っていた?」
「……僕に、『ワイマーレ様を頼む』と……。あと、言葉にはなされなかったので、正確に言うと“言付け”とは言えないのかもしれませんが――あの方を浄化した際に、僕の中に流れ込んできた感情は……」
そこで一旦、言葉を切ったパームは、ワイマーレの目を真っ直ぐに見てから、再び口を開いた。
「――貴方への感謝と友愛の情で満ちていました」
「……ッ!」
パームの言葉を聞いた瞬間、ワイマーレの顔が歪み、その目から、一筋の黒い涙が流れた。
彼は、目を閉じ、歯を食いしばって、嗚咽を漏らすのを堪える。
そして、目を閉じたまま、パームやジャスミン達の方へ向けて、深々と頭を下げて言った。
「……神官殿、ヒース殿。……そして、我々ワイマーレ騎士団に成り代わり、傭兵団討滅の任を果たしてくれた貴殿ら……。改めて、バルサ王国ワイマーレ騎士団長として、――そして、ロイ・ワイマーレ個人として、貴殿らに対して、心の底からの深い感謝の意を述べさせて頂く」
彼はそう言うと、被っていた兜を脱ぎ捨て、言葉を続けた。
「――ありがとう。これからを生きゆく貴殿らの前途に、数多の神々の祝福と、萬の御恵みがあらん事を……!」
愕然とした顔のパームの口から零れた呟きに、岩にめり込んだワイマーレは、小さく頷いた。
「……如何にも。……傭兵輩に敗れ、……陛下から預かりし騎士団を――壊滅させ……、更に、死して後まで身体を操られ、傭兵の走狗へと成り下がるとは……。晩節を汚すどころではない……死後にとんだ醜態を――晒してしまったようだな……」
時折、言葉を詰まらせながら、ワイマーレは痛恨の表情を浮かべて、苦々しげに言う。
「まあ――、しょうがないんじゃないか? 相手は、あの“銀の死神”だ。ただの騎士団長程度が、敵う相手じゃなかったって事だ」
「――ジャスッ! 言い方!」
失意の騎士団長に対し、ジャスミンがかけた言葉を、アザレアがきつく窘める。
ワイマーレは、二人のやり取りに苦笑を浮かべながら、言葉を続けた。
「貴殿らが……バルサ王国の危機を救い……、我らの恥辱を雪いでくれ、私を呪縛から解き放ってくれた――。この、ロイ・ワイマーレ……心から、貴殿らに礼を言おう。――ありがとう」
「……止せよ。俺は別に、あんたらや国の為に、ここまでやった訳じゃあない。単に、フジェイルへの個人的な借りを返す為――。それ以外の成果は、ただの副産物だよ」
「……そうか、君は、キチンと生きたままで、雪辱を果たす事が出来たのだな。――それは、何より。……こんな身に堕とされた私にとっては……少々、羨ましい事だが……な」
そういった所で、ワイマーレは激しく咳き込んだ。口を押さえた掌から、腐臭を放つどす黒い腐敗液が、糸を引いて零れ落ちる。
彼は、手の甲で口を拭きながら、縋るような目で、パームを見た。
「そこの神官……殿。――迷惑ついでに……私の最期の頼みを……聞いていただきたい」
「……分かっております、ワイマーレ騎士団長様……」
彼の言葉に、哀しい表情を浮かべたパームは、目の端に涙の珠を浮かべ、頷いた。
ワイマーレは、彼の目を見ると、安堵の表情を浮かべ、その厳つい顔を緩ませる。
「……忝い。――恩に着る」
「いえ……。それこそが神官の責務と心得ております」
パームは、ワイマーレにニコリと優しく微笑みかけ、彼の前で片膝をついた。
「……僕の全身全霊を込めて、貴方の魂を浄化させて頂きます」
「――頼む」
ワイマーレは、目を閉じ、穏やかな顔で頷く。
と、それまで黙ったままだったヒースが、顎をポリポリと掻きながら、彼に言葉をかける。
「おい、騎士団長サンよ……。あー、何だ、その……楽しかったぜ、さっきの戦い。――強かった、アンタは」
「……戦士にとっては、何より嬉しい言葉だ。……私も楽しかったぞ。――巨大な戦士よ」
「――ヒースだ。冥土の土産に覚えて逝け」
「分かった。……また戦い合おうぞ、ヒース。――冥界でな」
「ああ。死んでからの楽しみにとっておくぜ」
そう言って、彼はニヤリと不敵に笑ってみせた。
ワイマーレも、その笑みに笑い返し、そして、パームに頷きかけた。
「……お待たせ致した。神官殿……宜しく頼む」
「あ……。ワイマーレ様……ひとつ、お言付けを預かっているのを忘れていました」
「……言付け?」
ワイマーレは、怪訝な表情を浮かべて、首を傾げる。
「国王陛下か? ……いや、しかし――」
「はい、バルサ二世陛下ではありません」
パームは静かに頭を振り、言葉を継いだ。
「――バールさんという……年老いた騎士の方です」
「な――っ!」
ワイマーレの目が、驚愕で見開かれた。
「そ……そんなはずは……! 奴はあの時に、死神に喰われて――」
「はい……、ワイマーレ様の仰る通りです」
取り乱すワイマーレに、静かに頷きかけるパーム。
「バールさんの魂は、ゼラさん……銀の死神の中に残っていたのです。僕が彼女にノリトを施した際に……彼も居ました」
「……なるほど」
ワイマーレは、沈痛な表情を浮かべて呟いた。そして、彼は様々な感情が複雑に混じり合った目をパームに向けて、微かに震える唇から、言葉を紡ぎ出す。
「……で、バールは……何と言っていた?」
「……僕に、『ワイマーレ様を頼む』と……。あと、言葉にはなされなかったので、正確に言うと“言付け”とは言えないのかもしれませんが――あの方を浄化した際に、僕の中に流れ込んできた感情は……」
そこで一旦、言葉を切ったパームは、ワイマーレの目を真っ直ぐに見てから、再び口を開いた。
「――貴方への感謝と友愛の情で満ちていました」
「……ッ!」
パームの言葉を聞いた瞬間、ワイマーレの顔が歪み、その目から、一筋の黒い涙が流れた。
彼は、目を閉じ、歯を食いしばって、嗚咽を漏らすのを堪える。
そして、目を閉じたまま、パームやジャスミン達の方へ向けて、深々と頭を下げて言った。
「……神官殿、ヒース殿。……そして、我々ワイマーレ騎士団に成り代わり、傭兵団討滅の任を果たしてくれた貴殿ら……。改めて、バルサ王国ワイマーレ騎士団長として、――そして、ロイ・ワイマーレ個人として、貴殿らに対して、心の底からの深い感謝の意を述べさせて頂く」
彼はそう言うと、被っていた兜を脱ぎ捨て、言葉を続けた。
「――ありがとう。これからを生きゆく貴殿らの前途に、数多の神々の祝福と、萬の御恵みがあらん事を……!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる