好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
173 / 176
終章 嗚呼、色事の日々

情勢と類推、そして確信

しおりを挟む
 ダリア山を根城に、バルサ王国東部を跳梁跋扈し荒らし回っていたダリア傭兵団の本拠が、一夜にして灰燼に帰したあの日から三ヶ月が経った――ある日の深夜。

「ふう……」

 夜闇に沈む王都チュプリ。その中心にそびえ立つ王城――白亜の宮の一室で、豪奢な玉座に座る男が、傍らのローテーブルに置いたゴブレットを持つと、中を満たす瑪瑙色の液体を飲み干した。

「……東部地方の状況も、随分と落ち着いたようだな、サーシェイル」

 と、バルサ王国国王バルサ二世――トロウス=ラル=バルサは、書類を流し読みしながら言った。

「は。その通りで御座います」

 その声に応じ、階の下で恭しく傅いた軍服姿の男が、大きく頷く。

「――ダリア傭兵団の残党の掃討も、大方済みました。引き続き、騎士隊をリオルスの村に駐留させますが、もう、東部地方がごたつく様な事はないでしょう」
「……クレオーメ公国の動きはどうだ?」
「はい」

 サーシェイルは、小さく返事をすると、懐から巻紙を取り出し、床に広げた。

「彼の者たちが、ダリア傭兵団の団長シュダ……正確には、フジェイルと言いましたか……を討ち取った直後には、一個師団を国境近くに配置したりと、かなり活発な動きをしておったようですが……。最近は、その軍勢も引き上げたようで御座います」
「……つまり、ダリア傭兵団が勢力を広げる前に戻った――そんな感じか?」
「御意」

 サーシェイルは、口髭に手をやりながら頷いた。

「――と、言いますか……そもそも、シュダ死亡後の、公国側の動きは……侵攻と言うよりは、だったと考えた方が宜しいかと」
「……防衛? 我々に対する――か?」
「……いえ」
「ホッホッホ。――それは恐らく」

 と、ふたりの会話に割り込んで、暢気な笑い声が部屋に響いた。ふたりが声の方に目を遣ると、扉の前で、純白の神官服を着た老人が、ニコニコと笑いながら顎髭を撫でている。
 老人――大教主は、王に向かって深々と一礼すると、言葉を続けた。

「――恐らくそれは、“しろがねの死神”への対策だったのでしょう」
「――! “しろがねの死神”……」

 大教主の言葉に、ふたりは目を見開いた。大教主は小さく頷く。

「――左様で御座います。主を喪った“しろがねの死神”が暴走し、自国領に被害を及ぼす事の無いように……そういう動きだったのではと思われます」
「……なるほど」
「そ、そういえば、その“しろがねの死神”は、どうしたのだ? 一切話を聞いて居らぬが……!」

 と、思い出したように、バルサ王は顔面を青ざめさせた。
 そんな主君に向かって、大教主は穏やかな笑みを向ける。

「ご安心下さい、陛下。“しろがねの死神”は、あれ以来、影も形も見せておりませぬ。――今後、彼女が再び現れ、我らの脅威になる恐れは低いと思われます」
「そ、そうなのか? 何故、そうと言い切れる?」

 なおも不安げな表情を浮かべるバルサ二世。そんな彼に、大教主は力強く頷いてみせた。

「――これは、死神と直接対峙したパームの言葉の受け売りではありますが……、彼女の心に直接触れた上で確信しておりました故、信用に足る言葉かと存じまする」

 そう言うと、大教主はつとその表情を緩め、小さく頷きながら言葉を継ぐ。

「……『彼女も、心が弱い、可哀相な人だったんです』――彼は、そう言ってました」
「可哀相? 数万年前に、前文明を滅ぼし去ったという『銀の死神』を、可哀相な人と評するか……」
「……当時の彼女にも、様々な葛藤があったのでしょう。――そして今回も、“冒瀆者”フジェイルという非情な屍術師に利用され、意に染まぬ殺戮を余儀なくされた――と」
「それも、あいつ……パームの話の受け売りか?」

 大教主の言葉に、冷たい口調で口を挟んだのはバルサ二世だった。
 無言で頷く大教主をジロリと睨みつけ、彼は憤怒を圧し殺した声で静かに言う。

「……だからと言って、このまま見過ごす訳にもいかぬ。――第一、銀の死神によって、我らは甚大な被害を被っておるのだ。ワイマーレ騎士団の精兵たちと……ロイ・ワイマーレという不世出の英雄を、な」
「……御意」

 王の言葉に、サーシェイルも深く頷いた。
 大教主も威儀を正して、深々とその禿頭を下げる。

「無論……彼女が再び世に出で、暴虐を働くのであれば、必ず打ち滅ぼさねばなりませぬ」

 だが、大教主はそう言うと、ニコリと優しく微笑ってみせた。

「――ですが、ダリア傭兵団壊滅後、銀の死神はただの一度も、その姿を見せてはおりませぬ。それは、パームの直感が当たっている証左ではございませぬでしょうか?」
「……」

 王は、大教主の言葉に考え込みながらも、その顔には微かな安堵の色が浮かんでいた。そして、大教主は、そんな王の安堵感を裏付けようと言葉を継ぐ。

「――私も、今ではパームの確信を信じてみようと思います。なに、万が一、また彼女が悪さを働こうとするならば、今度は私が出向いて、浄化してやりますわい。ホッホッホ!」

 ◆ ◆ ◆ ◆

 「ギャオォンッ!」

 人里から遠く離れた深い森の奥で、巨大な狼の断末魔が響き渡る。

「あ……あぁ……」

 今まさに、狼に喉を食い破られんとしていた少女は、真っ青な顔でガタガタと震えながら、両断された狼の骸を凝視した。
 そして、絶体絶命だった彼女の命を救った人影に目を遣る。

「あ……あの……」

 恐怖でカラカラに乾いた舌をぎこちなく動かしながら、少女は人影に向かって声をかけた。

「あの……あ、ありがとうございます……。お、お姉ちゃん……」
「……」

 だが、その背の高い女性らしきシルエットは、彼女の感謝の言葉に応える事無く、ゆらりとを伸ばした。

「え……?」
「……この方向に真っ直ぐ進め。そうすれば、じきに森を抜けられる」

 女はそれだけ言うと、振り返りもせずにその場を去ろうとする。

「あ……あの! あ……ありがとうございました!」

 そう、少女が慌てて声を張り上げるが、女は歩みを止める事は無かった。
 ――が、

「……」

 無言のまま、軽く手を挙げて、少女の声に応えてみせた。
 その後ろ姿をボーっと見つめながら、少女はポツリと呟く。

「さようなら……本当に綺麗な……銀色の髪のお姉ちゃん――」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...