【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那

文字の大きさ
18 / 71
第2章

16・マーサと始めるお片付け

しおりを挟む

 翌朝、目を覚ますとそこは今までのバクスター家の自室ではなく、ヴェルナー家で与えられた新しい私の部屋だった。
 カーテン越しに柔らかな朝日が差し込み、部屋全体が優しい金色に染まっている。

 起こした身体がいつもよりも軽い。
 久しぶりによく眠れた気がする。
 
 ここ最近、眠れない日々が続いていたから余計にそう感じた。

 (……今日から本当に、ここで暮らしていくんだな――)

 そんなことを考えながら、ベッドから体を起こす。

 部屋に置かれた姿見で自分の顔を確認すると、思っていたよりもすっきりとした顔つきをしていた。
 きっと、昨日のシリウス様の言葉のおかげだろう。

 (……明日から仕事なんだから、今日は頑張らないと)

 昨日は結局、シリウス様と夕飯を食べたあと、疲れ切っていたのかそのまま眠りについてしまったのだ。
 
 主に部屋の片付けを終わらせなくてはならない。
 もってきたショルダーバッグの中には、私物が詰め込まれたままだ。

 とりあえず着替えて部屋の外へ出るための準備をしていると、軽快なノックの音とともに、扉の外から声がかけられた。

「奥様ー! 入ってもよろしいですかー?」

「どうぞ」

 返事するやいなや扉が開く。
 室内へと入ってきたのはマーサだ。

「おはようございます、奥様! よくお眠りになられました?」

「ええ、とても」

 とても、安心して眠れた。
 きっと、シリウス様を始めとしたヴェルナー家の人達が温かく迎え入れてくれたおかげだ。


 食堂に移動して、マーサが用意してくれた朝食を取る。
 昨日の夕食ではキッチンにいたマーサが、今日は私の後ろへ控えていた。
 シリウス様がこの場にいないから、その代わりなのだろう。

「ねぇマーサ、そういえばシリウス様はどうされているの?」
 
 温かいスープを飲みながらマーサに尋ねる。

「旦那様は、仕事にいかれましたわ。夕方には戻られるそうです」

 さすが魔術師長、忙しい人だ……。
 シリウス様はきちんと休めているのだろうか。
 
 (……もう少し、これからのこととか話したかったな)

 そういえばシリウス様にはまだ、私が仕事を続けたいと考えていることを伝えていないはずだ。
 夕方に戻ってくるなら、できればその時に伝えたい。
 
「まったくもう、せっかく奥様がこられたばかりだと言うのに仕方がない方なんですから」

 マーサは不満を隠すことなく、頬をふくらませてぼやいている。
 年上のはずなのにどこか可愛らしくて、私はくすりと笑いをこぼしてしまった。

「奥様は、本日はどうなさるご予定ですか?」

「ええと……。部屋の片付けでもしようかなと思っているわ。明日から仕事だし……」

「いいですね! わたくし、シリウス様より奥様のお手伝いをするように、と仰せつかっております。なんでもお手伝いいたします!」
 
 マーサは腕まくりをする仕草をして、ぐっと拳を握りしめている。やる気満々だ。

 (そ、そんな意気込むほどの荷物はないからなんだか申し訳ない……)

 持ってきた荷物を思い浮かべ、私は苦笑を浮かべるしかなかった。


 食事を終え、マーサとともに自室へ戻る。
 案の定と言うべきか、ショルダーバッグを前にしたマーサはぽかんとしていた。目はまん丸に見開かれ、手は頬に添えられている。
 
「……まぁまぁ、お荷物は本当にこれだけなんですか?」

「……ええ。だから、片付けと言ってもすぐに済むと思うわ」
 
 言いながら、ショルダーバッグの口を開き、中身をひとつずつ取り出していく。
 ベッドの上へ並べると、余計にその少なさが際立つ気がした。
 衣服はただでさえ色あせているのに、無理やり詰め込んでいたせいでシワができてしまっている。

 (せめて昨夜のうちに出しておくべきだったわ……)

 後悔先に立たずだが、惜しいことをしてしまった。

「……奥様、これはずいぶん大切に使われたのですね」

 ドレスの一つ拾い上げ、マーサはぽつりとこぼした。
 指先で、そっと布の端を撫でている。
 ドレスを見つめるその瞳は、責めるでも呆れるでもなく、ただ労わるように優しかった。
 
「……そうね」

 古い、汚いと言われる覚悟をしていた。
 マーサの優しい指や瞳に、私の心まで労られているような気分になるのを感じていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。 そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。 最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。 そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。 上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。 貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。 実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、 上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。 そこで知ったルーカスの秘密。 彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。 元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。 戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。 シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。 所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。 そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。 心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。 けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。 シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか―― ※他サイトでも公開しています

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

水錵 咲
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

処理中です...