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第1章
7・元お飾り聖女はお飾り妻にジョブチェンジする①
「ここが、僕の屋敷です」
リシャルト様は先に反対側の扉から馬車を降りる。
どうしたのかな、と思っているとがちゃ、と私の座っている方の扉が開いた。
「キキョウ、お手をどうぞ」
紳士だ…………。
「あ、ありがとうございます」
差し出された手を断るわけにもいかず、私は素直にリシャルト様の手を借りて馬車を降りた。
目の前には、白い壁の美しい左右対称なお屋敷が建っている。
……凄い。さすがは宰相閣下の住まう場所だ。とても大きい。
屋敷までの道のりは庭を突き抜けるような形になる。様々な種類の花が咲き誇り、風でゆらゆらと揺れていた。手入れの行き届いた庭につい、見とれてしまう。
「すごいお庭ですね……!」
「気に入りました? あとで一緒に見に行きましょうか」
「ありがとうございます」
屋敷の中へはいると、ロマンスグレーが美しい老紳士が出迎えてくれた。
この屋敷の執事だろうか?
「リシャルト様、そして奥方様もおかえりなさいませ」
「ただいま」
「お、奥方様…………」
慣れない呼称に戸惑いを隠せない私に、リシャルト様がくすりと笑う。
「ハーバー、客間に書類と紅茶の準備をしてくれ」
「かしこまりました」
リシャルト様はハーバーと呼ばれた老紳士にそう指示を出すと、私の方に向き直った。
「キキョウ、それでは客間に行きましょうか」
◇◇◇◇◇◇
リシャルト様は、屋敷の中を案内してくれながら歩く。
それにしても広いなぁ……。
王城ほどではないのだろうが、部屋がたくさんあるし、高級そうな花瓶やらなんやらが飾ってある。
客間に入ると、そこには既にハーバーさんが、紅茶の用意をしてくれていた。
リシャルト様に座るように促され、部屋の中央にあるソファに座る。私の対面にリシャルト様も座った。
ハーバーさんが、静かに机の上へ紅茶を出してくれる。
「さっそくで申し訳ないのですが、こちらの書類に名前を書いて頂けますか?」
すっ、とハーバーさんが横から私の目の前に書類とペンを置いてくる。
書類に並ぶ文字を読むと、婚姻に必要な提出書類だった。リシャルト様の名前は、もう既に書かれている。
「分かりました」
私はリシャルト様の名前の横の欄に、さっき自分でつけ直した名前をこの国の言語で書いた。
ペンを机に置く。リシャルト様は書類を確認すると、とても嬉しそうにしていた。
「これで、あなたは僕の妻となったのですね。嬉しいです」
「……っ」
本当に、何なのだろうか。この宰相様は。
こんな言動ばかりされては、好かれているのでは? と勘違いしてしまいそうだ。
そんな、馬鹿な。
「この書類、すぐに提出してきますね」
リシャルト様はすくっと立ち上がる。
「先ほども言ったとおり、あなたの自由は僕が保証します。僕のことは気にせずに、キキョウはキキョウの思うまま、自由にしてください」
せっかくハーバーさんが入れてくれたのに、リシャルト様はゆっくり紅茶を飲むこともなく書類を片手に部屋を出ていった。
慌ただしい人だ……。
リシャルト様が出ていって、私は紅茶を頂きながら考える。
この結婚は、一体なんなのだろうかと。
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