57 / 66
第5章
幕間5・エルウィンside
国王陛下がアルバートに対し、一ヶ月以内にエマの聖女としての力を示すように告げてから22日目。
キキョウたちがガーデンティーパーティーに出向いていた日、エルウィンは国王の代わりの政務に追われていた。
(リシャルトのやつ、今日は休暇をとっているからなぁ……)
いつもであれば政務の補助をしてくれている宰相閣下は今日は不在だ。なんでも、愛しの新妻を連れて、フォート公爵家の茶会に参加するとのこと。
(羨ましいことだ)
エルウィンは執務机の上に山となって重なっている書類を見て、大きく息を吐き出した。
(にしても、あの宰相閣下……。本当に食えないな)
先日フォルスター別邸に行った時のことを、エルウィンは思い出していた。
リシャルトとエルウィンはそれなりに長い付き合いになるが、あそこまで一人の人間に固執し独占欲を示しているリシャルトを見るのは初めてだった。
キキョウの前でのその姿と、エルウィンが間近で見てきた、策を張り巡らし相手が気づかないうちに陥れる宰相閣下が同一人物とはなかなか思えない。
今回だって……。国王陛下が精神的に体調を崩しているのだって、リシャルトの思惑通りだというのに。
(突然味方が誰一人いなくなり、やることは全て否定され、指示には誰も従わず、挙句夜は毎晩怪異に襲われつづけていればそりゃ気も狂うな)
国王の周囲にいる人間、というか、王城内の人間と貴族はすべてリシャルトによって買収され、エルウィン派になっている。
もともと国王の支持率は、貴族・民衆ともに地を這うような低さだったし、アルバートを支持する貴族などはなからいなかったので造作もないことだった。
民衆の支持を取り付けるのはエルウィンが主体となって行った。この国の多くの民は、戦争を望んでいない。エルウィンが和平を取り付け外交上活躍する、それを新聞で報じてもらえれば、あっという間に民はエルウィンを支持してくれた。
国王のまわりにはもう、誰一人として味方はいなかった。
(そもそもこれは、父上と兄上が自分で蒔いた種だ)
エルウィンは幼い頃からずっと、父親である国王陛下のことが嫌いだった。
エルウィンの母は伯爵家の令嬢で、当時国一番の美女と謳われていた。そんな彼女を、望んでもいない国王の愛妾にし日陰の身にした。そればかりか、彼女が病気になっても国王は一度も面会に来なかった。葬式にさえ。
エルウィンの母は、最期に言った。
『あなたが国王になって、国を変えて欲しい』と。
彼女は戦争しか頭にない国王のことを、そして自分を孕ませ人生を狂わせた男を憎んでいた。
母が亡くなり、王家に引き取られた時、エルウィンは誓ったのだ。必ず母の願いを叶えると。
それがようやく叶いそうだ。
(それもこれも、リシャルトと利害が一致しているおかげだ)
たった一人の少女を自由にするためだけに宰相閣下にまでなったのだと、リシャルトから聞いた時は本当に驚いた。リシャルトがそこまでする魅力のある女性は、どんな人なのだろうと、エルウィンはずっと気になっていたのだ。
そんなリシャルトの想い人が、黒髪黒目で有名な聖女様だと知った時は、ある意味納得がいったものだった。
(会ってみるとなかなか普通の女の子だった)
エルウィンはキキョウのことを思い出す。
興味深そうにエルウィンの外国での話を聞いてくれて、くるくると表情が変わって面白い子だった。
(あれは、リシャルトが気に入るのもわかる気がするな)
エルウィンはふっと笑った。
アルバートは本当に惜しいことをしたと思う。もし自分がアルバートの立場なら、あんな面白そうな女性との婚約を破棄したりなんてしないのに。
エルウィンがキキョウに対してこんな風に思っていることがリシャルトにバレたら、速攻で裏切られて破滅させられそうだ――。
そんなことを考えながら、エルウィンは執務机に山積みになった書類をまた一枚手に取った。
◇◇◇◇◇◇
――アルバートとエマ、そして国王への断罪の日まで、あと二日。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません
綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」
婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。
だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。
伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。
彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。
婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。
彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。
真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。
事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。
しかし、リラは知らない。
アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。
そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。
彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。
王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。
捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。
宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――?
※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。
物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!!
隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!?
何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。