【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那

文字の大きさ
60 / 66
最終章

48・宰相の妻は晴れ舞台に立つ①

しおりを挟む

 アルバート様とエマ様の騒動から、さらに一ヶ月後。

 この一ヶ月の間、王城ではエルウィン様の即位式の準備でバタつき、リシャルト様はとても忙しそうにしていた。
 政権がエルウィン様に移っても、リシャルト様は変わらず宰相の任に就くらしい。今後この二人が中心となって、国の政策を回していくのだろう。

 ちらと噂で聞いたことだが、前国王が周辺諸国にふっかけていた戦争は、全てエルウィン様とリシャルト様の力によって和平が結ばれたそうだ。
 今後は、以前のような聖女や治癒士が大活躍する世界になりませんように。私はそう全力で願っている。まぁ、あの二人ならきっと大丈夫だろう。
 
 私はというものの、宰相の妻としての勉強に追われる日々が続いていた。
 
 リシャルト様とあまり二人きりで過ごすことが出来ないまま時間が過ぎて……。
 そして、とうとう私とリシャルト様の結婚式、お披露目パーティーの日がやってきた。


 ◇◇◇◇◇◇

 
 私は以前試着をした、花の刺繍が美しいレースのドレスに身を包んでいた。
 仕立て屋の手によってしっかりとサイズ調整されたドレスは、私の体ピッタリになっている。
 教会の控え室の中、いつもより着飾ったメイドさんたちが私の周りで歓喜の声をあげた。

「奥方様、可愛いです~」

「奥方様、似合ってます」

「ささ、ティアラもつけちゃいましょ!」

 私の身支度を整えてくれているメイドさんたちは、いつも以上に楽しそうだ。
 ウキウキとした様子で私の周りをウロウロとしている。
 私たちの幸せを自分のことのように喜んでくれているメイドさんたちこそ、可愛らしい。
 今日はメイドさんたちがブライズメイドの役割もしてくれるので本当に助かる。

「本当に、私で良いのですか……。奥方様」

 ハーバーさんが、控え室の片隅で心配そうにそう言ってきた。
 黒装束の男たちに傷つけられた首の傷は浅かったおかげですぐに治癒することができ、今はもう普段通りのハーバーさんにもどっている。
 
「むしろ、ハーバーさんだからを頼んでいるんですよ」

 私は何度目かの返事を繰り返した。
 
 前世ならともかく、今世の私は孤児だ。身よりもない。式のエスコート役を誰に頼むかとなった時に、頼めそうな相手はハーバーさんしか思い浮かばなかった。
 いつも私のレッスンのスケジューリングをしてくれて、穏やかに見守ってくれる。時には厳しいことを言ってくることもあるが……。まるでお父さんみたいだと私は感じていた。実際の歳は、おじいちゃんと孫くらいに離れてるんだけども。

 だから何度も「ハーバーさんにお願いしたい」と言っているし、ハーバーさんだってそれを承知してくれたはずなのに……。

「奥方様にそう思っていただけるなど、ありがたき幸せです……」

 なんだか、式の前に既に泣き出してしまいそうなハーバーさんに私もメイドさんたちも苦笑していた。

「キキョウ、用意はできましたか?」

 扉の外からリシャルト様の声が聞こえる。

「は、はい」

 返事をすると、リシャルト様は控え室の中に入ってきた。
 
 ――かっこいい。

 思わず、リシャルト様の姿に見とれてしまう。
 リシャルト様は白のタキシードに身を包んでいた。少し長めのジャケット丈が大人っぽくてかっこいい。

「やっぱりそのドレス……。あなたによく似合いますね」

 とても幸せそうに、リシャルト様が笑う。
 その視線があまりにも優しいから、私は少し恥ずかしくなってつい下を向いてしまった。
 
「リシャルト様も、その、素敵です……」

 ――ああ、私……。今まで生きてきた中で、この人たちのそばにいるのが一番幸せかもしれない。

 リシャルト様も、屋敷の使用人の人たちも。温かくて、優しい。
 今世では家族がいなかったので前世の遠い記憶しかないが、まるで家族みたいだ。
 
「行きましょうか。こんなに可愛らしいあなたは僕のものなのだと見せつけなくては」

「リシャルト様、それは恥ずかしいです」

 見せつけなくては、とリシャルト様は言ったが、今回の結婚式とお披露目パーティーは内々のもので済ませる予定だった。
 というのも、悲しいことに私の方の参列者はニコラくらいしかいない。リシャルト様も多くの人を呼ぶつもりはなかったようで、身内と親しい友人のみ招待していた。

「キキョウ」

 リシャルト様がいつものように手を差し伸べてくれる。

「はい」

 私は躊躇うことなく、リシャルト様の手を取った。
 
 ――この世界の私の家族は、この人たちだ。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。 そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。 ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。 なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。 やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。 シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。 彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。 その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。 家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。 そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。 わたしはあなたの側にいます、と。 このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。 *** *** ※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。 ※設定などいろいろとご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...