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最終章
48・宰相の妻は晴れ舞台に立つ①
アルバート様とエマ様の騒動から、さらに一ヶ月後。
この一ヶ月の間、王城ではエルウィン様の即位式の準備でバタつき、リシャルト様はとても忙しそうにしていた。
政権がエルウィン様に移っても、リシャルト様は変わらず宰相の任に就くらしい。今後この二人が中心となって、国の政策を回していくのだろう。
ちらと噂で聞いたことだが、前国王が周辺諸国にふっかけていた戦争は、全てエルウィン様とリシャルト様の力によって和平が結ばれたそうだ。
今後は、以前のような聖女や治癒士が大活躍する世界になりませんように。私はそう全力で願っている。まぁ、あの二人ならきっと大丈夫だろう。
私はというものの、宰相の妻としての勉強に追われる日々が続いていた。
リシャルト様とあまり二人きりで過ごすことが出来ないまま時間が過ぎて……。
そして、とうとう私とリシャルト様の結婚式、お披露目パーティーの日がやってきた。
◇◇◇◇◇◇
私は以前試着をした、花の刺繍が美しいレースのドレスに身を包んでいた。
仕立て屋の手によってしっかりとサイズ調整されたドレスは、私の体ピッタリになっている。
教会の控え室の中、いつもより着飾ったメイドさんたちが私の周りで歓喜の声をあげた。
「奥方様、可愛いです~」
「奥方様、似合ってます」
「ささ、ティアラもつけちゃいましょ!」
私の身支度を整えてくれているメイドさんたちは、いつも以上に楽しそうだ。
ウキウキとした様子で私の周りをウロウロとしている。
私たちの幸せを自分のことのように喜んでくれているメイドさんたちこそ、可愛らしい。
今日はメイドさんたちがブライズメイドの役割もしてくれるので本当に助かる。
「本当に、私で良いのですか……。奥方様」
ハーバーさんが、控え室の片隅で心配そうにそう言ってきた。
黒装束の男たちに傷つけられた首の傷は浅かったおかげですぐに治癒することができ、今はもう普段通りのハーバーさんにもどっている。
「むしろ、ハーバーさんだからエスコート役を頼んでいるんですよ」
私は何度目かの返事を繰り返した。
前世ならともかく、今世の私は孤児だ。身よりもない。式のエスコート役を誰に頼むかとなった時に、頼めそうな相手はハーバーさんしか思い浮かばなかった。
いつも私のレッスンのスケジューリングをしてくれて、穏やかに見守ってくれる。時には厳しいことを言ってくることもあるが……。まるでお父さんみたいだと私は感じていた。実際の歳は、おじいちゃんと孫くらいに離れてるんだけども。
だから何度も「ハーバーさんにお願いしたい」と言っているし、ハーバーさんだってそれを承知してくれたはずなのに……。
「奥方様にそう思っていただけるなど、ありがたき幸せです……」
なんだか、式の前に既に泣き出してしまいそうなハーバーさんに私もメイドさんたちも苦笑していた。
「キキョウ、用意はできましたか?」
扉の外からリシャルト様の声が聞こえる。
「は、はい」
返事をすると、リシャルト様は控え室の中に入ってきた。
――かっこいい。
思わず、リシャルト様の姿に見とれてしまう。
リシャルト様は白のタキシードに身を包んでいた。少し長めのジャケット丈が大人っぽくてかっこいい。
「やっぱりそのドレス……。あなたによく似合いますね」
とても幸せそうに、リシャルト様が笑う。
その視線があまりにも優しいから、私は少し恥ずかしくなってつい下を向いてしまった。
「リシャルト様も、その、素敵です……」
――ああ、私……。今まで生きてきた中で、この人たちのそばにいるのが一番幸せかもしれない。
リシャルト様も、屋敷の使用人の人たちも。温かくて、優しい。
今世では家族がいなかったので前世の遠い記憶しかないが、まるで家族みたいだ。
「行きましょうか。こんなに可愛らしいあなたは僕のものなのだと見せつけなくては」
「リシャルト様、それは恥ずかしいです」
見せつけなくては、とリシャルト様は言ったが、今回の結婚式とお披露目パーティーは内々のもので済ませる予定だった。
というのも、悲しいことに私の方の参列者はニコラくらいしかいない。リシャルト様も多くの人を呼ぶつもりはなかったようで、身内と親しい友人のみ招待していた。
「キキョウ」
リシャルト様がいつものように手を差し伸べてくれる。
「はい」
私は躊躇うことなく、リシャルト様の手を取った。
――この世界の私の家族は、この人たちだ。
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