【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那

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第2章

23・揺らぐ真実の愛(sideミレシア)

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 フランヴェール伯、ローヴェン伯それぞれの使用人が総出で二人を探す中、当のミレシアたちはというとあちこちを点々としていた。
 ミレシアとて、今頃捜索されているだろうことは分かっていた。一応の変装と、1つの町に長居をしないようにして、王都から離れるように移動を続けていた。

「ねぇ、アレクシス様ぁ、あたし甘いものが食べたーい」
 
「……ここじゃ無理だよ、ミレシア」

 乗り合いの馬車の中、平民の姿に扮したミレシアは、髪の先を指先でくるくるともてあそびながら隣に座るアレクシスの肩にもたれかかる。
 幸か不幸か、乗り合い馬車には人が少なく、二人が注目されるようなことはなかった。

「ふふ、見てアレクシス様、あそこにうちの使用人がいるわ! あたしたちを探してるのかしら。滑稽ね!」

 馬車の窓から見慣れたフランヴェール家のお仕着せをきた使用人を見つけたミレシアは、口元に手を当てくすくすと笑う。
 その瞬間、アレクシスが不快そうに眉を寄せたのを、ミレシアは見逃さなかった。
 
 (なに、そのつまらない顔。あたしがしていることに文句がありそうね)

 以前のアレクシスは、ミレシアのわがままにいつも「仕方ないなぁ」とどんなことでも従ってくれた。ミレシアがいないと寂しい、一緒にいたいと、甘い言葉を囁いてくれた。

 それが今はどうだ。
 家出に付き合ってくれてはいるが、暗くつまらない表情ばかりしている。
 ミレシアが屋敷を飛び出したあの日、アレクシスはミレシアの気持ちを受け止め、「じゃあ落ち着くまでしばらく一緒に出かけようか」と言ってくれたはずなのに――。

 (あたしが隣にいるのに、不安そうな顔でおろおろしてばっかり。あたしたちの間にあるのは真実の愛じゃなかったの?)
 
「……ミレシア、いつまでこんな生活を続けるつもり?」

 アレクシスは沈んだ顔つきのまま、ミレシアに問いかけた。
 ミレシアとアレクシスがお互い家を飛び出してから、既に三日以上が経過していた。

「あたしとアレクシス様のことを認めてもらえるまで帰らないって言ったじゃない。アレクシス様も、落ち着くまで一緒にいようって言ってくれたでしょ?」

「……確かにあの日、言ったよ。でも僕は君の気持ちが落ち着くまでだと思って……!」

 言いながら、アレクシスは膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめる。
 その態度に、ミレシアはなんだか嫌な予感がしていた。自分のことを否定されるようなそんな予感が。

「……なによ! あたしのことが好きなら付き合ってくれるのは当然でしょ!? あたしが他の男と、それも悪魔みたいな騎士と結婚させられてもいいわけ!?」

「…………僕は帰るよ。家族に迷惑かけてまで、君のわがままに付き合うのはごめんだ」

「アレクシス様!?」

 (何を言ってるの? あたしを捨てるっていうの? 一緒に来てくれるんじゃなかったの? あたしより、家族や家を取るってこと?)

「すみません、この町で降ります」

 突然、アレクシスは御者にそう声をかけた。馬車は徐々に速度を落とし、やがて町外れの広場の端へ止まる。

 アレクシスが席を立ち上がり、出入口の戸へ手をかける。降りる直前、ミレシアの方を首だけで振り返った。
 
「ミレシア。僕は確かに、君を愛していた。君のわがままなところも愛おしかった。でも、人を小馬鹿にして笑う態度は苦手だ」

 (アレクシス様は何を言っているの? あたしが人を小馬鹿にした? いつ?)

 本気で思い当たる節が見つからなくて、ミレシアは一瞬ぽかんとしてしまう。
 なぜアレクシスに責められなればならないのか、理由が分からない。
 
「家族に認められないなら、僕たちはそれまでなんだよ。……それじゃあ元気で」

「……何、言ってるのよ、アレクシス様……! そんなの聞いてないわ……!」

 引き止めるミレシアの言葉は、アレクシスに届かない。
 真っ直ぐに前を見据えて、アレクシスは馬車の外へ降りていく。

「降りるのはおひとりだけで?」

「……ええ。ありがとう」

 アレクシスが振り返ることはもうなかった。
 御者とひとことふたこと話し、そのまま街の中へ消えていく。

 ミレシアが慌てて降りようとしても、もう馬車は出発してしまい、降りることが出来なくなる。

「今すぐ止まって! あたしも降りるわ!」

 強く叫ぶと、御者が驚いた様子で手網を引いた。
 ミレシアはアレクシスの後を追おうと、すぐに馬車から飛び出す。だが、アレクシスの姿はもうどこにも見当たらなかった。
 閑散とした広場の隅に、ミレシアだけが取り残される。

 (どうして? どうしてどうしてどうして? あたしは、アレクシス様と一緒に自由に……幸せになりたかっだけ。どうして上手くいかないのよ!)
 
 ミレシアは湧き上がる苛立ちのまま爪を噛み、いらいらと靴のかかとで石畳の地面を打ち付けていた。
 
 
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