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04 策略
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誘拐拉致者の救出以来、主に狭山 暁がテレビに出ていた。
「それにしても凄い装備らしいですね?いずれは警察にも?」
「まだまだ試作段階で、安全性や使い勝手に問題がありますので、警察官への普及は先になると思います」
「素晴らしい活躍でしたが、そもそも、どうやって被害者を発見したんですか?」
「独自の情報網を、迅速化とプライバシー保護の観点からAIに検索させた結果です。ですが、これ以上は捜査に支障がでますので御勘弁下さい」
特集の番組では、助けられた科学者の家族からの御礼や、いまだに拉致されたままの技術者の家族が嘆願を述べていた。
報道では【ニューヒーロー誕生】として各所で報じている。
「これは警察の暴走だ」
ポジティブなメディアとは逆に国会では、狭山達の捜査協力が問題になっていた。
「警視庁の行動は、国会で裁決された法案に準じたものです」
警視庁側も、既に用意された答弁に揺らぎはない。
法案が通ったのは、警察の非力さを指摘した議員達が騒いだが、警視庁の出した法案に代替案も出せなかったからだ。
それを与党が過半数で可決した。
その騒いだ議員の多くが野党で、ニューフェイスに反対を叫んでいた者でもあった。
「警察の存在意義が問われますな」
「国会議員に弁護士がついている様に、専門家や技術者の助力を得るのは正しい行為と判断します」
ニューフェイスの単独行動ならば問題だが、彼等は法案に準じて警官と一緒に行動している。
公務員が専門家や技術者の助力を得られないのなら、政治家に付いている弁護士や会計士、ボディガードに家政婦まで使用禁止という話になるのだ。
「そもそも、試験体であるニューフェイスを投入するのはどうなのですかな?」
「遺伝子治療を受けているとは言え、彼等とて日本人の血を持ち、日本人から産まれて日本国籍を持つ日本人です。今の発言は明確な差別。人権侵害として記録をお願いします」
「いや、そんなつもりは・・・」
ニューフェイス肯定側は、【遺伝子組み替え】ではなく、【遺伝子治療】として言葉を統一していた。
元々、生物学的に【人間】の定義が明確でないし、一般的な人間に必須の遺伝子をニューフェイス達は持っている。
それに、例えば彼等はビタミンを自分で作れるが、現在の人間はビタミンの大半を自分で作る事ができない。だが、それは人間の先祖が遺伝子の疾患で失った能力と言えなくはないのだ。
能力の全てがソウではないが、義手やペースメーカーを埋め込んだ人、美容整形をした者を【人間ではない】と言うのと同じ扱いだと、肯定側は追い詰めていく。
ニューフェイスは日本にとって益こそあれ、害は生み出していないのだから。
これらの戦法は、前もってニューフェイスにより準備されたものだ。
「世論でも、彼等を認める動きは活発で、街頭アンケートでは自分の子供をニューフェイスにしたいと言う回答が七割近いとか」
「あからさまな意識操作をしといて、何を言うか!」
「何と言われようが、これが世論です」
先の報道の後に、ニューフェイスの特徴や有用性が、改めて各テレビ局で特集され、誕生以来二十年近く経って論議が再燃していた。
そして今回の国会では、今まで遺伝子組み替え反対派として発言していた議員も、挙手しない者が増えた。
反対派議員の後援者にも、謎の施設破壊や拉致に狙われる可能性がある企業が含まれるからだ。
もしくは、企業の株が何者かに独占されているのかも知れない。
「どうしたんですか、先生まで?傲慢な与党にガツンと言ってやって下さいよ」
国会の最中、小声で話し合っている議員が居た。
「君こそ静かじゃない?ああ、君も京都の件には関わっているんだったな。君も脅されているんだろ?今日は発言するなと」
「先生もなんですか?しかし、どうやって嗅ぎ付けたんでしょうね」
大人になれば、悪い事の一つや二つは起こしている。
それをネタに脅されれば、場合によっては政治生命すら断たれる事もあるのだ。
「他に意見が無い様でしたら、次の議題に移りたいと思います」
議長も、早々に終わらせる気だ。
恐らく、議長にも手が回っているのだろう。
そして、日が経つにつれて、反対派は声を潜めてしまっていくのだった。
国会中継を見ていた狭山達は特殊部隊の研究室で、僅かな笑みを浮かべていた。
「散々、自然を破壊して汚染して、改竄してきた人間が、自分だけ【自然のままに】なんて虫がいいんだよ」
「そうだな。アイツ等の服も腕時計も作られる時に、『決して自然を破壊していない』とは言えないものな」
「アイツ等は遺伝子組み替えに対して頻繁に『神にでもなったつもりか?』って言うが、それこそコッチのセリフだよな」
「そもそも、憲法20条【政教分離規定】があるのに違反しちゃあマズイよな」
人間の文明は、自然破壊と傲慢の産物と言えなくもない。
その高度な生活を維持する為に砂漠化が進み、気象すら狂ってしまっている。
そして、ニューフェイスの肉体能力は、そんな文明を捨てて山篭もりしても生きていけるものだった。
「もし、私達の様な遺伝子組み替えの結果として人類が滅んでも、自業自得や因果応報だと言えるでしょう。まぁ、私達は加害者側ではなく、被害者側なんだけど」
現在のニューフェイス自身が遺伝子組み替えをした訳でも、望んだ訳でもない。
そして誕生を許可したのは国連や日本の政府だ。
「ただ、ポジティブに言えば、放っておいても滅びるならと、最後の足掻きが私達を産んだと言えるわね」
産まれてきた彼等には生きる権利が有り、生きる為に足掻くことは正当と言える。
日本人が生き残る為に産み出したニューフェイスを、日本人が反対する理由を、彼等は理解できずにいた。
理由と言っても、自分より優れた者が産まれる事への【嫉妬】であり、未知なものに対する【恐怖】でしかないのだが。
「兎に角、今の所はプラン通りだ」
「【敵】の殲滅も、やってしまって良いんだよな?」
「ああ!だがソレもプラン通りに頼むよ」
ニューフェイスはニューフェイスで、何かを計画している様だった。
「今回の成果は、仮面を付けた犬との雑種25体、熊との雑種3だっけ?馬鹿ばっかりじゃん」
「ああ、そうね。知能の高いキメラは難しいのよ」
不知火と、バイオ技術に精通した山梨が話している。
「だからと言って、生存者を残すなよ。知能には個体差があるらしいからな」
「分かってるわよ。でも暁って、本当に性格悪いわよね?そんなんじゃモテないわよ」
「割合からしても、誰かは溢れるだろ?ソレもいいさ」
狭山は、仲間内でもあまり、好印象を持たれていない様だった。
ニューフェイスは同世代だが、男性が三人の女性が二人だ。
カップルを作ると、単純に男性が一人残る。
次世代のニューフェイスが生まれるとしても二十歳以上の年齢差となるだろう。
笹生が女性陣と狭山の交互に目をやって、顔を歪める。
「まさか、暁はクラッシック趣味なのか?」
「いくら発情していても、【猿】を抱く気はないよ」
一般的にも、ペットを【家族】と呼び、他人の生命よりもペットを優先する者は居る。
だが、それと【交尾】するかと言えば、別の話である。
だが、狭山は話題を変える事にした。
「コンバットスーツの改良は、来週くらいに終わる。『事件』があっても、それまでは待機だ。警察やマスコミにも通達してある」
「その間に事件が起きても手段が無いし、情報漏洩していたとすれば、警察とマスコミのせいってか?本当に性格悪いな、暁は」
情報端末をいじりながら、黙っていた木村が、狭山へと口を開いた。
「で、例のリストは出来上がってるんだろ、暁?俺にも分けてくれよ。投資の参考にする」
「良いが、富明。あからさまにやるなよ!関係がバレる可能性が出るからな」
「当然、幾つものダミーを噛ませるさ」
「そのデータ、俺にもくれよ。情報操作の手間が省ける」
狭山暁は木村富明と笹生界人に、モバイルツールからデータコピーしたメモリーカードを渡した。
その後、企業や施設を襲う事件が多発し、警察とマスコミに監査が入ったが、事件が増えた真の理由を知る者は少なかった。
「それにしても凄い装備らしいですね?いずれは警察にも?」
「まだまだ試作段階で、安全性や使い勝手に問題がありますので、警察官への普及は先になると思います」
「素晴らしい活躍でしたが、そもそも、どうやって被害者を発見したんですか?」
「独自の情報網を、迅速化とプライバシー保護の観点からAIに検索させた結果です。ですが、これ以上は捜査に支障がでますので御勘弁下さい」
特集の番組では、助けられた科学者の家族からの御礼や、いまだに拉致されたままの技術者の家族が嘆願を述べていた。
報道では【ニューヒーロー誕生】として各所で報じている。
「これは警察の暴走だ」
ポジティブなメディアとは逆に国会では、狭山達の捜査協力が問題になっていた。
「警視庁の行動は、国会で裁決された法案に準じたものです」
警視庁側も、既に用意された答弁に揺らぎはない。
法案が通ったのは、警察の非力さを指摘した議員達が騒いだが、警視庁の出した法案に代替案も出せなかったからだ。
それを与党が過半数で可決した。
その騒いだ議員の多くが野党で、ニューフェイスに反対を叫んでいた者でもあった。
「警察の存在意義が問われますな」
「国会議員に弁護士がついている様に、専門家や技術者の助力を得るのは正しい行為と判断します」
ニューフェイスの単独行動ならば問題だが、彼等は法案に準じて警官と一緒に行動している。
公務員が専門家や技術者の助力を得られないのなら、政治家に付いている弁護士や会計士、ボディガードに家政婦まで使用禁止という話になるのだ。
「そもそも、試験体であるニューフェイスを投入するのはどうなのですかな?」
「遺伝子治療を受けているとは言え、彼等とて日本人の血を持ち、日本人から産まれて日本国籍を持つ日本人です。今の発言は明確な差別。人権侵害として記録をお願いします」
「いや、そんなつもりは・・・」
ニューフェイス肯定側は、【遺伝子組み替え】ではなく、【遺伝子治療】として言葉を統一していた。
元々、生物学的に【人間】の定義が明確でないし、一般的な人間に必須の遺伝子をニューフェイス達は持っている。
それに、例えば彼等はビタミンを自分で作れるが、現在の人間はビタミンの大半を自分で作る事ができない。だが、それは人間の先祖が遺伝子の疾患で失った能力と言えなくはないのだ。
能力の全てがソウではないが、義手やペースメーカーを埋め込んだ人、美容整形をした者を【人間ではない】と言うのと同じ扱いだと、肯定側は追い詰めていく。
ニューフェイスは日本にとって益こそあれ、害は生み出していないのだから。
これらの戦法は、前もってニューフェイスにより準備されたものだ。
「世論でも、彼等を認める動きは活発で、街頭アンケートでは自分の子供をニューフェイスにしたいと言う回答が七割近いとか」
「あからさまな意識操作をしといて、何を言うか!」
「何と言われようが、これが世論です」
先の報道の後に、ニューフェイスの特徴や有用性が、改めて各テレビ局で特集され、誕生以来二十年近く経って論議が再燃していた。
そして今回の国会では、今まで遺伝子組み替え反対派として発言していた議員も、挙手しない者が増えた。
反対派議員の後援者にも、謎の施設破壊や拉致に狙われる可能性がある企業が含まれるからだ。
もしくは、企業の株が何者かに独占されているのかも知れない。
「どうしたんですか、先生まで?傲慢な与党にガツンと言ってやって下さいよ」
国会の最中、小声で話し合っている議員が居た。
「君こそ静かじゃない?ああ、君も京都の件には関わっているんだったな。君も脅されているんだろ?今日は発言するなと」
「先生もなんですか?しかし、どうやって嗅ぎ付けたんでしょうね」
大人になれば、悪い事の一つや二つは起こしている。
それをネタに脅されれば、場合によっては政治生命すら断たれる事もあるのだ。
「他に意見が無い様でしたら、次の議題に移りたいと思います」
議長も、早々に終わらせる気だ。
恐らく、議長にも手が回っているのだろう。
そして、日が経つにつれて、反対派は声を潜めてしまっていくのだった。
国会中継を見ていた狭山達は特殊部隊の研究室で、僅かな笑みを浮かべていた。
「散々、自然を破壊して汚染して、改竄してきた人間が、自分だけ【自然のままに】なんて虫がいいんだよ」
「そうだな。アイツ等の服も腕時計も作られる時に、『決して自然を破壊していない』とは言えないものな」
「アイツ等は遺伝子組み替えに対して頻繁に『神にでもなったつもりか?』って言うが、それこそコッチのセリフだよな」
「そもそも、憲法20条【政教分離規定】があるのに違反しちゃあマズイよな」
人間の文明は、自然破壊と傲慢の産物と言えなくもない。
その高度な生活を維持する為に砂漠化が進み、気象すら狂ってしまっている。
そして、ニューフェイスの肉体能力は、そんな文明を捨てて山篭もりしても生きていけるものだった。
「もし、私達の様な遺伝子組み替えの結果として人類が滅んでも、自業自得や因果応報だと言えるでしょう。まぁ、私達は加害者側ではなく、被害者側なんだけど」
現在のニューフェイス自身が遺伝子組み替えをした訳でも、望んだ訳でもない。
そして誕生を許可したのは国連や日本の政府だ。
「ただ、ポジティブに言えば、放っておいても滅びるならと、最後の足掻きが私達を産んだと言えるわね」
産まれてきた彼等には生きる権利が有り、生きる為に足掻くことは正当と言える。
日本人が生き残る為に産み出したニューフェイスを、日本人が反対する理由を、彼等は理解できずにいた。
理由と言っても、自分より優れた者が産まれる事への【嫉妬】であり、未知なものに対する【恐怖】でしかないのだが。
「兎に角、今の所はプラン通りだ」
「【敵】の殲滅も、やってしまって良いんだよな?」
「ああ!だがソレもプラン通りに頼むよ」
ニューフェイスはニューフェイスで、何かを計画している様だった。
「今回の成果は、仮面を付けた犬との雑種25体、熊との雑種3だっけ?馬鹿ばっかりじゃん」
「ああ、そうね。知能の高いキメラは難しいのよ」
不知火と、バイオ技術に精通した山梨が話している。
「だからと言って、生存者を残すなよ。知能には個体差があるらしいからな」
「分かってるわよ。でも暁って、本当に性格悪いわよね?そんなんじゃモテないわよ」
「割合からしても、誰かは溢れるだろ?ソレもいいさ」
狭山は、仲間内でもあまり、好印象を持たれていない様だった。
ニューフェイスは同世代だが、男性が三人の女性が二人だ。
カップルを作ると、単純に男性が一人残る。
次世代のニューフェイスが生まれるとしても二十歳以上の年齢差となるだろう。
笹生が女性陣と狭山の交互に目をやって、顔を歪める。
「まさか、暁はクラッシック趣味なのか?」
「いくら発情していても、【猿】を抱く気はないよ」
一般的にも、ペットを【家族】と呼び、他人の生命よりもペットを優先する者は居る。
だが、それと【交尾】するかと言えば、別の話である。
だが、狭山は話題を変える事にした。
「コンバットスーツの改良は、来週くらいに終わる。『事件』があっても、それまでは待機だ。警察やマスコミにも通達してある」
「その間に事件が起きても手段が無いし、情報漏洩していたとすれば、警察とマスコミのせいってか?本当に性格悪いな、暁は」
情報端末をいじりながら、黙っていた木村が、狭山へと口を開いた。
「で、例のリストは出来上がってるんだろ、暁?俺にも分けてくれよ。投資の参考にする」
「良いが、富明。あからさまにやるなよ!関係がバレる可能性が出るからな」
「当然、幾つものダミーを噛ませるさ」
「そのデータ、俺にもくれよ。情報操作の手間が省ける」
狭山暁は木村富明と笹生界人に、モバイルツールからデータコピーしたメモリーカードを渡した。
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