ステージの裏側

二合 富由美(ふあい ふゆみ)

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05 報道

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 何処にでも、勘の良い人間の一人や二人は居るものである。
 だが、その勘を表面化して行動に移すか、気付かないふりをして危機回避するかは個人差がある。

 一ノ瀬 京子は、前者の新聞記者だった。
 そのお陰で多くのスクープを掲載し、営業成績は良い。

「編集長!ニューフェイスの過去について取材してきたいので、予算を下さい」
「フリーパスを持ってるのに、何に必要なんだ?」

 この社の新聞記者には、都内を自由に動くための、都内公共機関用のフリーパスが渡されていた。
 また、タクシー用には履歴記録機能のあるプリペイドガードが貸し出されている。

「ニューフェイスを開発した博士達の過去を調べるのに、地方回りするんです」
「過去だと?」

 現在のニューフェイス達の情報は、メディア各社で同じ情報源ソースを使っている為に、内容は大差ない。
 抜きん出る為には、他社にない情報源が必要となるのだ。
 だが、国家事業でもあるニューフェイス関係は、セキュリティが厳しく、独占インタビューなどできないし、関係者には箝口令がでているらしい。

「ダメだダメだ!人間、過去には知られたくない事の一つや二つはある。この時期にニューフェイス絡みでネガティブニュースはマズイんだよ」
「ネガティブな話とは限りませんが?まさか、噂は本当なんですか?」
「噂?」
「会社の株主や上層部が、かなり入れ替わったらしいって聞きました」
「その噂に間違いはないが、俺の口からは何とも言えん。ただ、俺もお前も結局はサラリーマンだ。他社もネガティブニュースをやってない理由を察しろ。業界でやっていけなくなるぞ」
「それは脅しですか?」
「単に社会の現実を語ったに過ぎんよ。予算は出せんし、取材しても掲載はできんだろう」

 編集長も、眉間に皺を寄せている。

「分かりました。気分転換に旅行するので、有給休暇と休みを下さい」
「いいか?俺は止めたからな?」
「有給使って旅行に行くのまで止めないでくださいよ」

 一ノ瀬は、自分のデスクに戻って、休暇申請書を書き始めた。

 編集長は胃を押さえながら、何処かへと電話を掛けている。

「ああ、俺だ。一ノ瀬が休暇を取るらしい。穴埋めを頼めるか?」

 トップクラスの記者が欠けると新聞社としても困るのだろう。
 編集長は他にも何件かに電話を掛け、椅子に深く身を沈めて眉間を押さえた。

「俺は止めたんだ。止めたんだぞ一ノ瀬」

 彼の独り言は、彼女の身を気遣っている様だった。



 有給休暇を取る前に、取材と称して公的プロフィールにある、ニューフェイス関係者の昔の施設を幾つか回り終えた一ノ瀬は、その支援者や支援団体の施設をリストアップしていた。

「何か、ネタが有るとすれば、今は使われていないけど、封鎖された施設かな?不動産登記されてて、リストにも無い場所って怪しいわよね?」

 彼女は公的役職の者にも幾つかコネがある。
 紙面の関係上などで、わざとスキャンダルネタを握りつぶした事があるのだ。

「大手企業や資産家の使われてない別荘や保養所の不動産登記を調べて欲しいのよ。朽ち具合を知りたいのよ」
「ゴーストハウス?とても、スクープのネタになるとは思えないけどね?」

 それに、この役人にも企業や支援者の不動産登記情報が、ニューフェイスや開発者に直接関係のあるものには見えないだろう。

「その中には、乱交パーティの会場に使われてる物があるって情報があってね。土地だけのもお願い出きるかしら?いつの間にか別荘が立ってるってのも有るから」
「やはりスキャンダルネタか?俺の周りに関わる事なら、連絡くれよ」
「その辺りは承知してるわ」

 ニューフェイス関連は、大物や大企業が関わっている。
 それに加えて、依頼した企業にはダミーの企業も複数いれてあるので、登記情報から【ニューフェイス絡み】と分かる事はないだろうと一ノ瀬は考えていた。

 ある程度の、ポジティブな取材内容を同僚に引継ぎ、編集長に話した事の既成事実を作った彼女は、有給休暇に突入した。



 公的役職の者との情報の引き渡しは、とある古本屋だ。
 データガードを決めた本にシオリの様に挟んでおく。
 一方的に情報を貰っても恨みを買うだけなので、同じ役所のスキャンダルネタや、敵対者のネタを報酬として渡している。
 これで彼の立場も良くなるのだろう。

 彼女は取り引きしたデータに記載された位置を、新聞社の使っている衛星画像サテライトビューサービスで検索し、何か建物が無いか探す。
 有給休暇中に職場に顔を出すのは『ちょっと忘れ物をしちゃって』ての言い訳で何ともなる。

「ここは更地になってるわ。コッチは雑木林?これは建物が残ってるみたいね」

 こうして膨大なデータを一つ一つチェックして、幾つもの候補を絞りだしていく。衛星画像の携帯端末への転送も忘れない。

「一番効率の良い廻り方は、北海道で大手のレンタカーを借りて、九州で返すパターンかしら?」

 候補地は十程度に抑えたが日本中に広がり、電車の駅から現地までの交通機関は皆無の物がある。
 タクシーで到着しても、帰りまで待っててもらう事はできない。下手して迷えば野宿すらあるのだ。
 駅近くだからと言って、レンタカーが手配できるとも限らない。

 だが、大手のレンタカー会社では、日本中の営業所ならば何処で返してもOKなサービスがある。
 新聞記者達は、取材対象の尾行に使ったりしていた。

「先ずは新幹線で札幌ね」

 一ノ瀬は、取材張り込み用の装備にアウトドア用の荷物を加えて、上野駅へと向かった。




「ここもハズレね!そろそろベッドで寝ようかしら?」

 金網を破った不法侵入の末にたどり着いた施設跡で、一ノ瀬はグチっていた。
 北海道から中部地方まで走破した彼女の身体は悲鳴をあげていた。
 慣れない山歩きに加えて車の運転。費用と時間節約の為の車内泊でクタクタだったのだ。

 薄暗くなった森の中を、蛍光目印マーカーを回収しながら車へと向かう。

 だが一瞬、彼女は足を止めて振り返った。
 自分以外の足音が聞こえた気がしたからだ。

「誰か居るの?」

 姿は見えないが、野犬や熊かも知れないので、急いで車に帰った。
 殆ど道のないココまでに、他の車も見掛けないので人間である筈は無い。

 ナビの履歴を確認しながら、大通りまで彼女は車を走らせた。

 一抹の不安を感じた彼女は、駅前の大きなホテルへと宿を取った。
 電話をかけたところ、偶然にも部屋が取れたのだ。

「やっと風呂に浸かれるわ」

 荷物を車に残して、身体ひとつでフロントのあるラウンジへと向かった。

「あれっ?新聞記者さんですよね?ヤバイな!」

 ラウンジでソファに腰かけて居たのは、ニューフェイスの笹生 界人だった。
 彼は【追っかけグルービー喰い】とも言われ、自由恋愛を唄って多数の女性ファンと肉体関係を持っていると噂されている。
 彼は急いで電話をかけ始めた。

 どうやら、誰かと待合せをしていた様だ。

「どうして、ここがバレたんですか?そうか!企業秘密ですよね?」

 確かに、ニューフェイスの記者会見に参加した事のある一ノ瀬だが、顔を覚えられていたとは驚きだった。
 今の一ノ瀬は、とても記者と言える姿をしていなかったからだ。メイクもしていないし、下手をすれば同僚でさえスルーしかねない風貌だ。

「まさか、ラウンジで鉢合わせするとは、こちらも予定外でしたよ。これではスクープは無理ですね」

 本当は偶然だったが、彼女は笹生の言葉に話を合わせた。

「せっかく部屋まで取ったんだから、泊まらないと勿体無いわね」

 わざと悔しそうな顔をして、一ノ瀬はフロントでチェックインを行ない、笹生に軽く御辞儀をしてからエレベーターに乗った。

「こんな所で鉢合わせなんて、有り得ないわ。こっちの行動がバレたら邪魔されかねないじゃない!」

 ふと、彼女は山歩き用の靴を履いていたのを思いだし、コメカミを押さえた。

「なるべく接触しないように、部屋に籠るしかないわね。食事は我慢するしか無いわ」

 部屋で風呂に入り、備え付けの冷蔵庫にあるビールを飲んで、酔い潰れるようにして一ノ瀬は寝た。
 車に携帯食料は有るが、ラウンジを通らないと駐車場へは行けないし、駐車場で鉢合わせも有り得る。
 疲れが溜まっていたのか、彼女がベッドに入ってから意識を失うまでに、数分とかからなかった。

 翌朝は、部屋で次の施設跡を確認し、その通り道にあるファミレスに目星をつけてチェックアウトをした。
 いくら何でも、話題のニューフェイスが、ファミレスに居たら騒ぎになるだろうから、そこで鉢合わせは無いと考えたのだ。

「案の定、ここには来てないわね」

 一ノ瀬は、二食分近い食事を取り、次の目的地に向かった。
 携帯食料は十分に車に積んであるが、たまには温かい食事を取りたいものだったからだ。

「風呂にベッドに温かい食事。久々に生き返ったわ」

 とは言え、車での寝泊まりで体の各所が居たい。
 休みたいが休みが無制限にある訳でもない。

 ゆっくりと珈琲を飲んで、一ノ瀬 京子は、車のキーを握りしめた。
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