女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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七章

10、お腹の中の赤ん坊

 医者から説明を受けた俺は、嬉しさのあまり天に召されそうになった。

 絲さんにぶっとい注射を刺そうとしたじいさんやけど。そのじいさん……先生が言うには、絲さんのお腹には赤ちゃんがおるということやった。

「ほんまか? ほんまにか」
「ええ、おめでとうございます」
「俺の子やんな」
「いや、存じ上げませんが。そうなんじゃないですか?」

「よっしゃあぁっ」と拳を握りしめて声を上げたもんやから。あちこちから看護婦が飛び出して来て「しーっ」「静かに」と叱られた。

 女に叱られるんなんか、絲さん以外に経験ないわ。

 病室に入り、絲さんの寝とう寝台の側に椅子を置いて、俺はそわそわしとった。

「あ、あのな。赤子がおるらしいで」
「はい。伺いました」

 注射の所為やろか。絲さんの顔色がようなってきてる気がする。

 俺は上半身を起こした絲さんの両手を、ぎゅっと握りしめた。
 いつもよりも体温が低そうや。
 そうや。急いどったからひざ掛けを持ってきてへんかった。
 明日にでも持ってきたげよ。

 大事で大好きな絲さん。その絲さんが、俺の子を宿してくれるやなんて。
 すごい嬉しい。けど、絲さんに多大な負担を強いることになるのは、やっぱり心苦しい。

「大丈夫ですよ。ちゃんと産めます」
「うん」
「不思議ですね。留年するのが寂しくてならなかったのに。嬉しさが上回ってしまいました」
「……うん」

 けど、あんなにも苦しそうやったやんか。
 俺は絲さんの体を引き寄せて、きゅっと抱きしめた。
 今にも壊れてしまいそうな彼女を腕の中に閉じ込めて、優しく頭を撫でる。

「頑張ってな……頑張ろな」
「はい」

◇◇◇
 
 それからの日々は、わたしは入退院を繰り返しました。

 季節はすでに春になり、庭の甘く香り高い白梅の花が、ぬくい風にはらはらと散っています。

 ついこの間まで降っているのは雪だったのに。わたしの知らない間に季節が移っていたんですね。

 縁側にお座布団を敷いて、蒼一郎さんお手製のひざ掛けを羽織ります。

「それ、肩掛けやのうてひざ掛けなんやけど」
「だって肌触りが心地いいんですもの」

「俺がこしらえたひざ掛けに頬ずりするよりも、俺に頬ずりしてほしいなぁ」

「ふふ、また今度ですよ」と、わたしはやはりひざ掛けに頬を寄せます。
 
 以前お願いしていた指輪もすでに届いていて。今日はそれを薬指に嵌めていました。

 でも、勿体ないから。すぐに小箱にしまってしまって、蒼一郎さんに呆れられてしまいました。

「だって蒼玉が割れたら大変ですもの」
「硬い宝石やから、割れへんって」

「絲さんはお嬢さんやのに、貧乏性なん?」なんて失礼なことを仰るのよ。

「けど、桜を見に行くんは難しいかなぁ。汽車に乗らなあかんし。汽車は揺れるからなぁ」
「でも梅の花も綺麗ですよ。それにこの家の庭には枝垂桜もありますし」

「せやったなぁ」と蒼一郎さんは懐かしむように目を細めます。

「絲さんがこの家に来て間もない頃も、枝垂桜で釣ったよなぁ」
「釣りですか?」
「せやで。絲さんに俺の傍におってほしくて。この家で暮らしたら枝垂桜、それも夜桜が見れるでって唆した気がするわ」

 そうでしたかしら。
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