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序章
序
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怖い、怖いんです。
がたがたと噛みあわない歯。わたしは座敷牢の中で脅え、縮こまっておりました。
今は宵……ええ、まだ夜も更けていないはず。
とろんと澱んだ熱気の中で、人々はひたいに汗を滲ませながら、颱風が過ぎ去るのを息をひそめて待っていることでしょう。
なのに、今のわたしは格子の中で後ろ手に縛られ、畳の上に転がされているのです。
しかも襦袢姿で。
なんてみっともないの。
己の姿を想像するだけで、羞恥のあまり消えてしまいたくなります。
「では、高く売れるように調教を始めるか」
「ちょうきょう?」
着流しを着て、香炉を持つ男に問いかけるわたしの声は、掠れておりました。
「大丈夫だ。気持ち良くなるだけだからな。感度が低い木偶の坊は、いくら可愛かろうが値が安いんだ」
「仰っている意味が、分かりません」
「ふん。落ちぶれてもお嬢さまか。要は客を楽しませる為に性技を覚えろと、言っているんだ」
ああ、この男は何を言っているの?
ご主人さま? わたしは女中となって売られるの?
香炉からくゆる煙は、肌にまとわりつくような甘ったるい香り。
だめ、この匂いはきっといけないもの。
畳に転がされたまま息を吸うのを我慢するわたしを、男は立ったままでにやにやと眺めています。
「強情だなぁ。お嬢さまは」
部屋の中ですから、外の颱風は関係がないはずなのに。
わたしの顔は風圧を感じました。
突然の痛みと熱。頬がじんじんと痛み始めます。
その時、足首を掴まれたんです。
「や、やめてください」
声を上げた時、甘ったるい煙を吸ってしまいました。鼻も喉も、べったりとした香が侵入してくるのが分かります。
「ほら、どんどん吸いな、いい気持ちになるから」
「……や、めてください」
呼吸を我慢すると、今度はお腹を殴られました。
痛くて言葉を発することも出来ず、わたしはただ呻きました。
「ぐ……っ、うぅ」
だめ、体が重いの。
深い水底へ引きずり込まれるよう。
抗う術もなく、わたしの両足はみっともなくも開かされ。そして棒に縄で括りつけられたんです。
ああ、なんてはしたない格好なの。かろうじて襦袢で腿から上は隠れているけれど。
こんな姿を誰かに見られたら、舌を噛んで死にたくなります。
「恨むんなら俺じゃなくて、借金を背負った両親を恨むことだ。あんたを遺して死ななければ、遊郭に売られることもなかったろうにな」
蛇や蜥蜴を思わせる、冷たいてのひらがわたしの膝を撫でています。
気持ちが悪いの。
男の両手が、わたしの襦袢に隠れた腿を露わにしました。そして腰紐をするりと解いて。
ああ、お願い。見ないで。
わたしは胸も臍も何もかもを、男にさらす羽目になったのです。
「処女は面倒がる客が多いからなぁ。気持ち良くなるまで、何度でもしてやるから」
「……やめて」
「怖いのは最初だけだ。その内、自分から腰を振って欲しがるようになるさ」
両手も両足も拘束されたわたしは、逃げることも叶いません。
体を持ち上げられたと思うと、腰の部分に枕を差し入れられました。
「お前よりも小さい子も、やっていることだ。なに、痛いのは最初だけだ」
ごめんなさい。ごめんなさい。
わたし、あなたを……幾久司さんを信用しなかったから。
だから、こんな目に。
これは自業自得なのね。
がたがたと噛みあわない歯。わたしは座敷牢の中で脅え、縮こまっておりました。
今は宵……ええ、まだ夜も更けていないはず。
とろんと澱んだ熱気の中で、人々はひたいに汗を滲ませながら、颱風が過ぎ去るのを息をひそめて待っていることでしょう。
なのに、今のわたしは格子の中で後ろ手に縛られ、畳の上に転がされているのです。
しかも襦袢姿で。
なんてみっともないの。
己の姿を想像するだけで、羞恥のあまり消えてしまいたくなります。
「では、高く売れるように調教を始めるか」
「ちょうきょう?」
着流しを着て、香炉を持つ男に問いかけるわたしの声は、掠れておりました。
「大丈夫だ。気持ち良くなるだけだからな。感度が低い木偶の坊は、いくら可愛かろうが値が安いんだ」
「仰っている意味が、分かりません」
「ふん。落ちぶれてもお嬢さまか。要は客を楽しませる為に性技を覚えろと、言っているんだ」
ああ、この男は何を言っているの?
ご主人さま? わたしは女中となって売られるの?
香炉からくゆる煙は、肌にまとわりつくような甘ったるい香り。
だめ、この匂いはきっといけないもの。
畳に転がされたまま息を吸うのを我慢するわたしを、男は立ったままでにやにやと眺めています。
「強情だなぁ。お嬢さまは」
部屋の中ですから、外の颱風は関係がないはずなのに。
わたしの顔は風圧を感じました。
突然の痛みと熱。頬がじんじんと痛み始めます。
その時、足首を掴まれたんです。
「や、やめてください」
声を上げた時、甘ったるい煙を吸ってしまいました。鼻も喉も、べったりとした香が侵入してくるのが分かります。
「ほら、どんどん吸いな、いい気持ちになるから」
「……や、めてください」
呼吸を我慢すると、今度はお腹を殴られました。
痛くて言葉を発することも出来ず、わたしはただ呻きました。
「ぐ……っ、うぅ」
だめ、体が重いの。
深い水底へ引きずり込まれるよう。
抗う術もなく、わたしの両足はみっともなくも開かされ。そして棒に縄で括りつけられたんです。
ああ、なんてはしたない格好なの。かろうじて襦袢で腿から上は隠れているけれど。
こんな姿を誰かに見られたら、舌を噛んで死にたくなります。
「恨むんなら俺じゃなくて、借金を背負った両親を恨むことだ。あんたを遺して死ななければ、遊郭に売られることもなかったろうにな」
蛇や蜥蜴を思わせる、冷たいてのひらがわたしの膝を撫でています。
気持ちが悪いの。
男の両手が、わたしの襦袢に隠れた腿を露わにしました。そして腰紐をするりと解いて。
ああ、お願い。見ないで。
わたしは胸も臍も何もかもを、男にさらす羽目になったのです。
「処女は面倒がる客が多いからなぁ。気持ち良くなるまで、何度でもしてやるから」
「……やめて」
「怖いのは最初だけだ。その内、自分から腰を振って欲しがるようになるさ」
両手も両足も拘束されたわたしは、逃げることも叶いません。
体を持ち上げられたと思うと、腰の部分に枕を差し入れられました。
「お前よりも小さい子も、やっていることだ。なに、痛いのは最初だけだ」
ごめんなさい。ごめんなさい。
わたし、あなたを……幾久司さんを信用しなかったから。
だから、こんな目に。
これは自業自得なのね。
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