颱風の夜、ヤクザに戀して乱れ咲く【R18】

真風月花

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一章

4、停電【1】

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 天井からぶら下がる電燈が、ちかちかと明滅したと思うと。次の瞬間、辺りは真っ暗になりました。

 え? 停電。
 畳にしゃがみ込んでいたわたしは、辺りを見回しました。
 暗闇に慣れていない眼には、何も見えません。

「な……名原、さん。いらっしゃるの?」

 不審者に頼るしかない自分が恨めしいのですが。わたしはおろおろと周囲に手を伸ばしました。
 ふと、指先に何かが触れました。
 少しひんやりとしたそれが、名原さんの指であるとすぐには気付きませんでした。
 きゅっと指を掴まれて「大丈夫やで。ちゃんとおるから」と耳元で囁かれたんです。

「ひっ」
「いや、怖がらんでも。すぐに闇に眼も慣れるやろけど。それまで動いたらあかんで」

 声のする方向に顔を向けても、名原さんの姿は確認できません。
 でも、彼にはわたしのことが見えているようです。

「ほな、今の内に拭いとこな」
「きゃあ。なんですか?」
「ほら、動かんと。三つ編みも外すで」

 本当に真っ暗なんですよ。なのに視界の効かない中で、名原さんの指はわたしの三つ編みを解いていったんです。
 一度も絡まることもなく。なんて器用なんでしょう。

◇◇◇

「嫌やろけど、着物も脱いどこな。襦袢まで濡れてへんかったらええんやけど」
「……中までびしょ濡れです」
「あちゃー、そらそうやろな」

「動かんときよ」と言い置いて、俺は立ち上がり箪笥へと向かった。
 元々、夜目が効くから暗いとこは平気や。
 しかも停電になるとか事前に分かっとったから、片目を閉じて闇に慣れさせとった。

 確か襦袢は上から三番目の抽斗やったな。
 つるりとした手触りのモスリンの襦袢を取り出して、貴世子に手渡す。

「あの。真っ暗なのに、どうしてわたしの襦袢の場所が分かるんですか?」
「んー、千里眼やで」

 冗談やったのに。貴世子は「すごいんですね」と素直に信じた。
 あー、もう。あかんやん。人の言うことはまず疑わんと。
 
 ほんまにおっとりと育ったお嬢さんなんやな。なんかもう放っとかれへんし。
 俺は面倒ごとはほんまに嫌なんやけど。

「どうせ暗いから見えへんけど、後ろ向いとくから。その間に着替え」
「はい」

 見えなくはない、とは言われへんかった。
 背中を向けると、背後でするするという衣擦れの音がした。
 音と気配だけで、帯が畳に落とされ、ついで着物も彼女の足元に落ちたんが分かった。

 あかんで、俺。振り返ったら。
 女の裸なんか、遊郭で見慣れとうから珍しいもんでもあらへん。
 もしここで興味本位に振り返って、それで暗がりに目の慣れた貴世子と視線があったら、信用を失う。
 まぁ、元々さほど信用されてもないけど。

 するりという軽く滑らかな音。多分、畳の上に置いた乾いた襦袢を拾たんやろ。
 
 ふいに激しい雨風が、雨戸を叩きつけた。今にも雨戸が壊れそうにガタガタと音を立てている。
「きゃっ」という短い悲鳴。

「おい、大丈夫か」

 返事はない。俺は慌てて貴世子に駆け寄った。
 畳の上で座り込んだ貴世子は、白い肩と肌を露わにしとった。
 さっきまで三つ編みにしとった黒髪が、今はうねるように広がっとう。

 まるで西洋の絵画を思わせる妖艶な姿やった。

「名原……さん」
「うわっ」
 
 びっくりしたなんてもんやない。立ったままの俺の足に、貴世子がしがみついてきたからや。
 しかも裸やで。

 風の音にびくびくしながら、貴世子は俺を逃がすまいと腕に力を込める。
 ズボンの布地越しに彼女の胸を感じる。
 ふわっと柔らかくて、なんか弾力があって。

 あかん、これ。まずいやつや。
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