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二章
1、緊縛【1】
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木に縛り付けた男から聞きだした調教の場所は、でかい屋敷やった。
人が住んどう気配はない。
前栽の木なんか伸び放題で、しかもひどい風の所為で枝はしなり葉は地面に叩きつけられて落ちてしもとう。
なるほど、この屋敷の主も家を取られたんか。
傘なんか役に立ちもしない颱風や。目を開けるんもしんどい向かい風の中、俺は庭を進みぼんやりと燈の灯る屋敷の奥の方へ歩いていった。
「なんや、幾久司。あんたも来たん」
「は?」
なぜか目の前に立っていたのは、伯母の雪野姐だった。
なんか軍用の合羽みたいなごついのんを着て、傍に組の若い奴を二人控えさせとう。
護衛か。にしてもわざわざ雪野姐が来るとは。
「雪野姐。面倒やったんとちゃうん?」
「面倒やで。こんな重たい合羽着て、髪も顔も濡れるし散々や」
「ほな、何しに来たん」
俺が問いかけると、雪野姐はにっこりと艶やかに微笑んだ。そして俺に近づいて来たんや。
「可愛い甥っ子の手助けに来たに決まってるやん」
「うそや。ほんまに可愛いと思てるなら、最初からここの場所を俺に教えたやろ」
「うっ。鋭いところを突いてくる子やで」
雪野姐は顔をひきつらせた。
まぁ、言いたいことは分かる。
実際に現場を押さえれば、奴らも言い逃れができないというところだろう。
だが、その所為で貴世子を危険にさらした。
俺に事情を知らせたら、事が運ばへんと踏んだんやろけど。正直面白くはない。
というか、今も中で貴世子が怖い目に遭うてると思うと、気が気やない。
「俺、先に行くから」
「もーぉ、ちょっとはうちの言うことも信じてぇや。ほんまはお嬢さん達を苦界に突き落とす輩が嫌いやから、この機会に叩き潰そかと思たんやん」
「あ、二割くらいはあんたのことも可愛いと思ってるで」と嬉しくもない補足がついた。
この人はお嬢さん達を救う為に、その張本人を危ない目に遭わせても平気なところが、ほんまに食えへん。
◇◇◇
車に乗せられ、わたしが連れてこられた場所は行灯がともっていました。
広さにして六畳。格子で隔てられているので座敷牢なのだと思いますが。
それにしては、妙な物が置いてあります。
縄に赤い蝋燭。それに棒。×印の形に組まれた板。
「ほら、ここに入っていろ」
男に突き飛ばされたわたしは、畳の上に倒れました。
赤いものが畳にこびりついていて、もしや血なのかと身を竦めましたが。
よく見れば、それは溶けて垂れた蝋燭の塊でした。
「あなた達が欲しているのは、わたしの家でしょう? わたしは関係ありません」
ともすれば震えてしまうのを堪えるために、拳を握りしめます。
けれど、男はにやりと笑ったんです。
「娘は家の付属物。父親や兄の慰み者になることも珍しくはない」
「そんなこと、されていませんっ」
「お嬢さまはそうだろうなぁ。あんたはぬくぬくと育ってきたようだから。これからは玩具扱いされるんだ。他の娘のようにな」
娘を玩具扱いと聞いて、思い浮かぶのはせいぜい着せ替え人形でした。
でも、違ったんです。
男は、がさがさした指でわたしのあごを掴みました。
「性玩具だよ。あんたを素っ裸で縛り上げて、吊るして。そこに蝋燭を垂らしたり、鞭で打ったりするんだ」
「なぜ……そんなことを」
「楽しいからだろ。愛らしい清純な娘を穢し、暴力を振るい、そして犯す。あんたが綺麗な涙を流せば流すほど、男はあんたを泥の中に引きずり込んで滅茶苦茶にしたくなるのさ」
何を言っているのか理解が出来ませんでした。
けれど、わたしが売られる遊郭では、女性を鞭打ちゴミのように扱うことで興奮する男が通っているのだと、その男は説明したんです。
人が住んどう気配はない。
前栽の木なんか伸び放題で、しかもひどい風の所為で枝はしなり葉は地面に叩きつけられて落ちてしもとう。
なるほど、この屋敷の主も家を取られたんか。
傘なんか役に立ちもしない颱風や。目を開けるんもしんどい向かい風の中、俺は庭を進みぼんやりと燈の灯る屋敷の奥の方へ歩いていった。
「なんや、幾久司。あんたも来たん」
「は?」
なぜか目の前に立っていたのは、伯母の雪野姐だった。
なんか軍用の合羽みたいなごついのんを着て、傍に組の若い奴を二人控えさせとう。
護衛か。にしてもわざわざ雪野姐が来るとは。
「雪野姐。面倒やったんとちゃうん?」
「面倒やで。こんな重たい合羽着て、髪も顔も濡れるし散々や」
「ほな、何しに来たん」
俺が問いかけると、雪野姐はにっこりと艶やかに微笑んだ。そして俺に近づいて来たんや。
「可愛い甥っ子の手助けに来たに決まってるやん」
「うそや。ほんまに可愛いと思てるなら、最初からここの場所を俺に教えたやろ」
「うっ。鋭いところを突いてくる子やで」
雪野姐は顔をひきつらせた。
まぁ、言いたいことは分かる。
実際に現場を押さえれば、奴らも言い逃れができないというところだろう。
だが、その所為で貴世子を危険にさらした。
俺に事情を知らせたら、事が運ばへんと踏んだんやろけど。正直面白くはない。
というか、今も中で貴世子が怖い目に遭うてると思うと、気が気やない。
「俺、先に行くから」
「もーぉ、ちょっとはうちの言うことも信じてぇや。ほんまはお嬢さん達を苦界に突き落とす輩が嫌いやから、この機会に叩き潰そかと思たんやん」
「あ、二割くらいはあんたのことも可愛いと思ってるで」と嬉しくもない補足がついた。
この人はお嬢さん達を救う為に、その張本人を危ない目に遭わせても平気なところが、ほんまに食えへん。
◇◇◇
車に乗せられ、わたしが連れてこられた場所は行灯がともっていました。
広さにして六畳。格子で隔てられているので座敷牢なのだと思いますが。
それにしては、妙な物が置いてあります。
縄に赤い蝋燭。それに棒。×印の形に組まれた板。
「ほら、ここに入っていろ」
男に突き飛ばされたわたしは、畳の上に倒れました。
赤いものが畳にこびりついていて、もしや血なのかと身を竦めましたが。
よく見れば、それは溶けて垂れた蝋燭の塊でした。
「あなた達が欲しているのは、わたしの家でしょう? わたしは関係ありません」
ともすれば震えてしまうのを堪えるために、拳を握りしめます。
けれど、男はにやりと笑ったんです。
「娘は家の付属物。父親や兄の慰み者になることも珍しくはない」
「そんなこと、されていませんっ」
「お嬢さまはそうだろうなぁ。あんたはぬくぬくと育ってきたようだから。これからは玩具扱いされるんだ。他の娘のようにな」
娘を玩具扱いと聞いて、思い浮かぶのはせいぜい着せ替え人形でした。
でも、違ったんです。
男は、がさがさした指でわたしのあごを掴みました。
「性玩具だよ。あんたを素っ裸で縛り上げて、吊るして。そこに蝋燭を垂らしたり、鞭で打ったりするんだ」
「なぜ……そんなことを」
「楽しいからだろ。愛らしい清純な娘を穢し、暴力を振るい、そして犯す。あんたが綺麗な涙を流せば流すほど、男はあんたを泥の中に引きずり込んで滅茶苦茶にしたくなるのさ」
何を言っているのか理解が出来ませんでした。
けれど、わたしが売られる遊郭では、女性を鞭打ちゴミのように扱うことで興奮する男が通っているのだと、その男は説明したんです。
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