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三章
6、愛おしさ【2】
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庭の木が、まるで枝垂れ柳でもあるかのように、細い枝を窓にぶつけている。ばしばしと硝子を叩く音がして、そして千切れた葉は風雨にあおられ窓に張りつき、或いは何処かへと飛んでいく。
そんな外界の騒々しさは、今の貴世子には目にも映らんようや。
半ば開いた瞳は潤み、俺の動きに合わせて、彼女の唇からは絶えず甘い吐息が洩れる。
あんなに乱暴に扱われた彼女や。無理を強いたくはない。
恐怖を覚えないように、出来うる限り痛みを感じないように。俺は優しく貴世子を抱いた。
それは朝露を宿した、薄紅の薔薇の花びらに触れるかのように。そっと。
「ん……んんっ」
「ほら、ちゃんと声を聞かせて」
「でも、恥ずかし、いです」
「あかんなぁ。まだ余裕があるやん」
前言撤回。優しくしようと心がけたけど、余裕がなくなったかもしれへん。
俺は貴世子の上にのしかかり、さらに奥を穿った。
「なっ、や……ぁ、だめ、ぇ、あ……あぁ」
「ああ、可愛い声やなぁ」
「ぁ……ぁあ、ぁ……ん」
苦しげに悶えながらも、甘美な表情で貴世子は首を振る。
すぐに俺から手を離して畳の上に敷いた襦袢を掴もうとするから。俺はそのたびに「ちゃんとしがみついとき」と囁くのだ。
そもそも襦袢は、貴世子の肌を普段から包んでいるだろうに。今宵くらいは俺にその立場を譲るべきだ。
などと益体もないことを考えるのは、俺にももう余裕がない所為だろう。
しなやかに伸びた腕が、俺の背にまわされる。
彼女の息遣いは荒く、短くなっていく。湿っぽい貴世子の声が、さらに甘さを帯びていく。もう少しで達するのだろう。
俺が与えた感覚だけを拾っているのだと思うと、愛おしさがさらに増していく。
貴世子と俺とは住む世界が違う。高利貸しに陥れられなければ、彼女が俺と出会うことなどなかったはずだ。
けれど朝までは、この颱風が過ぎるまでは貴世子は俺といてくれる。ほんのひとときでも、俺の人生に貴世子がいてくれる。
「幾久司……さ、ん。苦しい、の」
「うん。俺も苦しいで。せやから一緒にいこな」
「は……い」
あかんなぁ、我慢も限界やな。こんなに愛らしく返事されると、焦らすのもつらいわ。
俺は苦笑した。
颱風の激しい音とは別に、俺が動くたびに貴世子から濡れた音が聞こえてくる。
その音に応じるように、貴世子の唇からは喘ぎ声が洩れる。
◇◇◇
外は嵐のはずですのに。わたしは幾久司さんにしがみついて、ただ彼の荒い息遣いと自分の淫らな声ばかりを聴いていました。
胸が彼の肌に擦れるだけでも、甘美な刺激に囚われるのに。
さらに何度も穿たれて、押し上げられていったのです。
窓硝子に映るわたしは、幾久司さんの下になり。黒髪を乱して、彼にしがみついているのです。
ああ、こんな風に抱かれているのね。
息遣いに反して、幾久司さんの動きはとても優しくて。犯されているのではなく、愛されているのだと実感しました。
「あかんなぁ、よそ見は。ちゃんと集中せんと」
ちゃんと聞き取れないで問い返す間もなく、幾久司さんはわたしの弱い部分ばかりを責めてきました。
「や……、だめぇ、くる……なにか、くる、んです」
「うん。そうやなぁ」
憎らしいほどに悠長に答える幾久司さんの額には、汗が浮かんでいました。
重なる肌は、互いにしっとりとして。まるで雨に濡れたかのよう。
「だめ、やめて、やめてください……お願い」
「無理は言うたらあかんなぁ」
口の端で笑った幾久司さんの顔が、見えなくなります。
目の前がちかちかと光って、視界が白くなって。何かが弾けて。
「……っ、ああ……っ。ぁあ」
腰をしっかりと抱えられて逃げられない状態で、わたしは絶頂を迎えました。
そんな外界の騒々しさは、今の貴世子には目にも映らんようや。
半ば開いた瞳は潤み、俺の動きに合わせて、彼女の唇からは絶えず甘い吐息が洩れる。
あんなに乱暴に扱われた彼女や。無理を強いたくはない。
恐怖を覚えないように、出来うる限り痛みを感じないように。俺は優しく貴世子を抱いた。
それは朝露を宿した、薄紅の薔薇の花びらに触れるかのように。そっと。
「ん……んんっ」
「ほら、ちゃんと声を聞かせて」
「でも、恥ずかし、いです」
「あかんなぁ。まだ余裕があるやん」
前言撤回。優しくしようと心がけたけど、余裕がなくなったかもしれへん。
俺は貴世子の上にのしかかり、さらに奥を穿った。
「なっ、や……ぁ、だめ、ぇ、あ……あぁ」
「ああ、可愛い声やなぁ」
「ぁ……ぁあ、ぁ……ん」
苦しげに悶えながらも、甘美な表情で貴世子は首を振る。
すぐに俺から手を離して畳の上に敷いた襦袢を掴もうとするから。俺はそのたびに「ちゃんとしがみついとき」と囁くのだ。
そもそも襦袢は、貴世子の肌を普段から包んでいるだろうに。今宵くらいは俺にその立場を譲るべきだ。
などと益体もないことを考えるのは、俺にももう余裕がない所為だろう。
しなやかに伸びた腕が、俺の背にまわされる。
彼女の息遣いは荒く、短くなっていく。湿っぽい貴世子の声が、さらに甘さを帯びていく。もう少しで達するのだろう。
俺が与えた感覚だけを拾っているのだと思うと、愛おしさがさらに増していく。
貴世子と俺とは住む世界が違う。高利貸しに陥れられなければ、彼女が俺と出会うことなどなかったはずだ。
けれど朝までは、この颱風が過ぎるまでは貴世子は俺といてくれる。ほんのひとときでも、俺の人生に貴世子がいてくれる。
「幾久司……さ、ん。苦しい、の」
「うん。俺も苦しいで。せやから一緒にいこな」
「は……い」
あかんなぁ、我慢も限界やな。こんなに愛らしく返事されると、焦らすのもつらいわ。
俺は苦笑した。
颱風の激しい音とは別に、俺が動くたびに貴世子から濡れた音が聞こえてくる。
その音に応じるように、貴世子の唇からは喘ぎ声が洩れる。
◇◇◇
外は嵐のはずですのに。わたしは幾久司さんにしがみついて、ただ彼の荒い息遣いと自分の淫らな声ばかりを聴いていました。
胸が彼の肌に擦れるだけでも、甘美な刺激に囚われるのに。
さらに何度も穿たれて、押し上げられていったのです。
窓硝子に映るわたしは、幾久司さんの下になり。黒髪を乱して、彼にしがみついているのです。
ああ、こんな風に抱かれているのね。
息遣いに反して、幾久司さんの動きはとても優しくて。犯されているのではなく、愛されているのだと実感しました。
「あかんなぁ、よそ見は。ちゃんと集中せんと」
ちゃんと聞き取れないで問い返す間もなく、幾久司さんはわたしの弱い部分ばかりを責めてきました。
「や……、だめぇ、くる……なにか、くる、んです」
「うん。そうやなぁ」
憎らしいほどに悠長に答える幾久司さんの額には、汗が浮かんでいました。
重なる肌は、互いにしっとりとして。まるで雨に濡れたかのよう。
「だめ、やめて、やめてください……お願い」
「無理は言うたらあかんなぁ」
口の端で笑った幾久司さんの顔が、見えなくなります。
目の前がちかちかと光って、視界が白くなって。何かが弾けて。
「……っ、ああ……っ。ぁあ」
腰をしっかりと抱えられて逃げられない状態で、わたしは絶頂を迎えました。
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