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三章
7、愛おしさ【3】
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わたしは達しているのに、幾久司さんは離してくださいません。
敏感になりすぎた体は、すぐにまた押し上げられていきます。
「や……、無理です。も、いって、るの」
「うん。ごめんな。貴世子が可愛すぎて、離してあげられへん」
そんな無体な、と思いましたが。反論を口にする前に、再びわたしは絶頂に達しました。
体の奥が熱くて、幾久司さんで満たされていくのが分かります。
「……ん、んん……ぁ、あ」
耳元で「貴世子」と名を呼ばれ、わたしは甘く痺れた指を幾久司さんの髪に絡めました。わたしの髪とは違う、硬い髪。
彼の肌も髪も、すべての感触を覚えていたいです。
彼が与えてくれる快感のすべてを、記憶に留めたいのです。
ああ、このまま時が止まってしまえばいいのに。
この部屋には時計があるようで、小さく針が時を刻む音が聞こえます。
夜が明けたら、わたしは彼とは別々です。
今のわたしは淫らな香のせいで、乱れているだけだと思われているのですから。
もし、香を嗅がされていなくても、幾久司さんに求められたなら。わたしは恥じらいながらも応じたことでしょう。
そんな破廉恥なことを、幾久司さんが初対面のわたしに言うとは到底思えませんが。
わたしと幾久司さんの間には、繋ぎとめるものが何もないんです。
今、この時しかないんです。
ああ、風の音が静かになってきました。
もう、枝が窓を叩くこともなく。あと数時間もすると夜が明けるのね。
◇◇◇
離れたくない、というのは俺の我儘やろな。
何度も気をやった貴世子の体は小さく痙攣し、そのたびに俺を刺激してくる。
いつの間にか風も収まったみたいや。
颱風が過ぎたんやろか、ただしとしとと雨が降っている。
窓硝子に張りついた木の葉が、まるで俺の貴世子に対する執着のようで。思わず目を逸らした。
この想いは……俺の想いを貴世子が受けれいてくれるんは今日限りなんやな。
俺は、この先何年も貴世子のことも考えながら生きていくんやろか。
それは、とてつもなく惨めやな。
ぐったりとして瞼を閉じた貴世子の頬を撫でる。しっとりと汗ばんだ頬は紅潮し、柔らかな黒髪が張りついている。
「可愛いなぁ」
俺の言葉が聞こえたんかどうかは分からへん。
けど、貴世子は確かにかすかに微笑んだんや。
多分、いやきっと俺はもう戀はせぇへん。
貴世子に対する想いは、一生に一度だけや。
たとえ彼女が結婚しようとも、傍に他の男が並んでいたとしても。二度と会えなくても。
貴世子から離れると、彼女は確かに眠りに落ちているはずなのに。俺の腕にしがみついてきた。
それはまるで、離れないでとせがまれているようだった。
素肌をさらしたままの貴世子に襦袢を着せて、俺は彼女を腕の中に閉じ込めた。
眠るのが勿体ない。
せやから、彼女の肌のぬくもりを感じながら頬や額に接吻を繰り返した。
ほんの少しでもええから、俺がおったことを覚えておいてな。
たった一晩のことやけど、確かにあなたは俺の戀人やったから。
窓の桟の隙間から、湿ったぬくい風が流れてきた。
そろそろ夜も明ける頃やろう。濡れた落ち葉の張りついた窓の向こうの空は、鮮やかな朝焼けや。
流れていく雲の向こうに見えるのは、鮮やかな朱鷺色や薄紅、茜色の空。
別離にちょうどええ餞やな。
敏感になりすぎた体は、すぐにまた押し上げられていきます。
「や……、無理です。も、いって、るの」
「うん。ごめんな。貴世子が可愛すぎて、離してあげられへん」
そんな無体な、と思いましたが。反論を口にする前に、再びわたしは絶頂に達しました。
体の奥が熱くて、幾久司さんで満たされていくのが分かります。
「……ん、んん……ぁ、あ」
耳元で「貴世子」と名を呼ばれ、わたしは甘く痺れた指を幾久司さんの髪に絡めました。わたしの髪とは違う、硬い髪。
彼の肌も髪も、すべての感触を覚えていたいです。
彼が与えてくれる快感のすべてを、記憶に留めたいのです。
ああ、このまま時が止まってしまえばいいのに。
この部屋には時計があるようで、小さく針が時を刻む音が聞こえます。
夜が明けたら、わたしは彼とは別々です。
今のわたしは淫らな香のせいで、乱れているだけだと思われているのですから。
もし、香を嗅がされていなくても、幾久司さんに求められたなら。わたしは恥じらいながらも応じたことでしょう。
そんな破廉恥なことを、幾久司さんが初対面のわたしに言うとは到底思えませんが。
わたしと幾久司さんの間には、繋ぎとめるものが何もないんです。
今、この時しかないんです。
ああ、風の音が静かになってきました。
もう、枝が窓を叩くこともなく。あと数時間もすると夜が明けるのね。
◇◇◇
離れたくない、というのは俺の我儘やろな。
何度も気をやった貴世子の体は小さく痙攣し、そのたびに俺を刺激してくる。
いつの間にか風も収まったみたいや。
颱風が過ぎたんやろか、ただしとしとと雨が降っている。
窓硝子に張りついた木の葉が、まるで俺の貴世子に対する執着のようで。思わず目を逸らした。
この想いは……俺の想いを貴世子が受けれいてくれるんは今日限りなんやな。
俺は、この先何年も貴世子のことも考えながら生きていくんやろか。
それは、とてつもなく惨めやな。
ぐったりとして瞼を閉じた貴世子の頬を撫でる。しっとりと汗ばんだ頬は紅潮し、柔らかな黒髪が張りついている。
「可愛いなぁ」
俺の言葉が聞こえたんかどうかは分からへん。
けど、貴世子は確かにかすかに微笑んだんや。
多分、いやきっと俺はもう戀はせぇへん。
貴世子に対する想いは、一生に一度だけや。
たとえ彼女が結婚しようとも、傍に他の男が並んでいたとしても。二度と会えなくても。
貴世子から離れると、彼女は確かに眠りに落ちているはずなのに。俺の腕にしがみついてきた。
それはまるで、離れないでとせがまれているようだった。
素肌をさらしたままの貴世子に襦袢を着せて、俺は彼女を腕の中に閉じ込めた。
眠るのが勿体ない。
せやから、彼女の肌のぬくもりを感じながら頬や額に接吻を繰り返した。
ほんの少しでもええから、俺がおったことを覚えておいてな。
たった一晩のことやけど、確かにあなたは俺の戀人やったから。
窓の桟の隙間から、湿ったぬくい風が流れてきた。
そろそろ夜も明ける頃やろう。濡れた落ち葉の張りついた窓の向こうの空は、鮮やかな朝焼けや。
流れていく雲の向こうに見えるのは、鮮やかな朱鷺色や薄紅、茜色の空。
別離にちょうどええ餞やな。
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