颱風の夜、ヤクザに戀して乱れ咲く【R18】

真風月花

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三章

7、愛おしさ【3】

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 わたしは達しているのに、幾久司さんは離してくださいません。
 敏感になりすぎた体は、すぐにまた押し上げられていきます。

「や……、無理です。も、いって、るの」
「うん。ごめんな。貴世子が可愛すぎて、離してあげられへん」

 そんな無体な、と思いましたが。反論を口にする前に、再びわたしは絶頂に達しました。
 体の奥が熱くて、幾久司さんで満たされていくのが分かります。

「……ん、んん……ぁ、あ」

 耳元で「貴世子」と名を呼ばれ、わたしは甘く痺れた指を幾久司さんの髪に絡めました。わたしの髪とは違う、硬い髪。
 彼の肌も髪も、すべての感触を覚えていたいです。
 彼が与えてくれる快感のすべてを、記憶に留めたいのです。

 ああ、このまま時が止まってしまえばいいのに。
 この部屋には時計があるようで、小さく針が時を刻む音が聞こえます。

 夜が明けたら、わたしは彼とは別々です。
 今のわたしは淫らな香のせいで、乱れているだけだと思われているのですから。

 もし、香を嗅がされていなくても、幾久司さんに求められたなら。わたしは恥じらいながらも応じたことでしょう。
 そんな破廉恥なことを、幾久司さんが初対面のわたしに言うとは到底思えませんが。

 わたしと幾久司さんの間には、繋ぎとめるものが何もないんです。
 今、この時しかないんです。

 ああ、風の音が静かになってきました。
 もう、枝が窓を叩くこともなく。あと数時間もすると夜が明けるのね。
 
◇◇◇

 離れたくない、というのは俺の我儘やろな。
 何度も気をやった貴世子の体は小さく痙攣し、そのたびに俺を刺激してくる。

 いつの間にか風も収まったみたいや。
 颱風が過ぎたんやろか、ただしとしとと雨が降っている。
 窓硝子に張りついた木の葉が、まるで俺の貴世子に対する執着のようで。思わず目を逸らした。

 この想いは……俺の想いを貴世子が受けれいてくれるんは今日限りなんやな。
 俺は、この先何年も貴世子のことも考えながら生きていくんやろか。
 それは、とてつもなく惨めやな。
 
 ぐったりとして瞼を閉じた貴世子の頬を撫でる。しっとりと汗ばんだ頬は紅潮し、柔らかな黒髪が張りついている。

「可愛いなぁ」

 俺の言葉が聞こえたんかどうかは分からへん。
 けど、貴世子は確かにかすかに微笑んだんや。

 多分、いやきっと俺はもう戀はせぇへん。
 貴世子に対する想いは、一生に一度だけや。
 たとえ彼女が結婚しようとも、傍に他の男が並んでいたとしても。二度と会えなくても。

 貴世子から離れると、彼女は確かに眠りに落ちているはずなのに。俺の腕にしがみついてきた。
 それはまるで、離れないでとせがまれているようだった。

 素肌をさらしたままの貴世子に襦袢を着せて、俺は彼女を腕の中に閉じ込めた。
 眠るのが勿体ない。
 せやから、彼女の肌のぬくもりを感じながら頬や額に接吻を繰り返した。

 ほんの少しでもええから、俺がおったことを覚えておいてな。
 たった一晩のことやけど、確かにあなたは俺の戀人やったから。

 窓の桟の隙間から、湿ったぬくい風が流れてきた。
 そろそろ夜も明ける頃やろう。濡れた落ち葉の張りついた窓の向こうの空は、鮮やかな朝焼けや。

 流れていく雲の向こうに見えるのは、鮮やかな朱鷺色や薄紅、茜色の空。
 別離にちょうどええはなむけやな。
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