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二章
12、鮎
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食事がほとんど終わるころになっても、旦那さまは鮎を残していらっしゃいます。箸でつついて身を少し口に運ぶものの、それっきりです。
「あの、鮎を貸してもらってもいいですか。骨を抜きますよ」
「骨を抜く? ああ、あれか。料亭で仲居がしてくれる」
「そうですね。うちがまだ裕福だった頃に、仲居さんが骨を抜いてくれるのを、まるで手品のようだと夢中になったことがあります」
旦那さまから鮎ののった皿を受け取り、わたくしは尾びれと背びれを取り、箸で鮎を押さえつけました。次に鮎の背中側を、また押さえます。身と身の間に隙間ができるように。
最後に頭の部分を手で持って、箸で身を尾の方に向けてずらします。
これで完成です。
「へぇ、見事なものだな。本当に手品のようだ」
「そうなんです。その手品を自分でもやってみたくて。笠井の家で、料理人に何度も鮎を焼いてもらったことがあります。だから鮎は懐かしい味なんです」
本当に久しぶりに鮎を食べて、わたくしはつい微笑んでしまいました。
「どうぞ、召し上がってください」
「ああ、いただくとしよう」
鮎を食べ終えると、旦那さまは「美味い」と笑顔を見せてくださいました。
不思議です。こんな風に旦那さまが喜んでくださるのが、笑ってくださるのが嬉しいことだとは、これまで知らなかったことです。
「蓼酢が合うんですよ。鮎って、あっさりしているようで、意外と脂がのっているんです」
鮎に添えられていた緑鮮やかな酢を、旦那さまに示します。その時、旦那さまがわたくしの手に注目なさっていました。
「俺のせいで汚れてしまったな」
「では、手を洗ってきますね」
「後でいい」
旦那さまはわたくしの左手をつかみ、その指先を口に含みました。
さっきまで鮎の尾びれや頭に触れていた指です。指先に飾り塩がつき、ざらりとした感触でしたのに。
今は熱い口の中で、舌に舐めとられています。
わたくしは驚いて、思わず先生の口の中で指を動かしてしまいました。そのせいで先生の舌が、指に絡みついてきます。
「せ、先生」
「ここは学校ではない」
指が解放されたと思うと、今度は唇をふさがれました。
「口を開きなさい」
命じられるままに唇を動かすと、さっき、指先を弄んでいた旦那さまの舌が口腔に押し入ってきます。
くちづけは深く長く、口を閉じることもできないわたくしは、口の端から唾液が垂れそうになり、思わず身をよじりました。
「まさか君に教えらえれるとはな」
「鮎のことですか? あの、出過ぎた真似をして申し訳ありません」
「馬鹿だな、怒ってなどいない。感心しているんだ」
気分を害したのではないと知り、わたくしはほっと息をつきました。
「よかった。怒られるのかと思ったんです。てっきり今日も、学校で呼び出されて叱られるとばかり……」
「呼び出し? ああ、そういえば約束をしていたな」
あっ。
わたくしは余計なことを言ってしまったかもしれません。
「本当に大きくなったものだ」
旦那さまは立ち上がると、部屋の隅に置いてある箪笥へと向かいました。桐の箪笥の引き出しを開き、そこから帯紐を取りだします。
そしてその帯紐で、わたくしを目隠ししました。
「あの、鮎を貸してもらってもいいですか。骨を抜きますよ」
「骨を抜く? ああ、あれか。料亭で仲居がしてくれる」
「そうですね。うちがまだ裕福だった頃に、仲居さんが骨を抜いてくれるのを、まるで手品のようだと夢中になったことがあります」
旦那さまから鮎ののった皿を受け取り、わたくしは尾びれと背びれを取り、箸で鮎を押さえつけました。次に鮎の背中側を、また押さえます。身と身の間に隙間ができるように。
最後に頭の部分を手で持って、箸で身を尾の方に向けてずらします。
これで完成です。
「へぇ、見事なものだな。本当に手品のようだ」
「そうなんです。その手品を自分でもやってみたくて。笠井の家で、料理人に何度も鮎を焼いてもらったことがあります。だから鮎は懐かしい味なんです」
本当に久しぶりに鮎を食べて、わたくしはつい微笑んでしまいました。
「どうぞ、召し上がってください」
「ああ、いただくとしよう」
鮎を食べ終えると、旦那さまは「美味い」と笑顔を見せてくださいました。
不思議です。こんな風に旦那さまが喜んでくださるのが、笑ってくださるのが嬉しいことだとは、これまで知らなかったことです。
「蓼酢が合うんですよ。鮎って、あっさりしているようで、意外と脂がのっているんです」
鮎に添えられていた緑鮮やかな酢を、旦那さまに示します。その時、旦那さまがわたくしの手に注目なさっていました。
「俺のせいで汚れてしまったな」
「では、手を洗ってきますね」
「後でいい」
旦那さまはわたくしの左手をつかみ、その指先を口に含みました。
さっきまで鮎の尾びれや頭に触れていた指です。指先に飾り塩がつき、ざらりとした感触でしたのに。
今は熱い口の中で、舌に舐めとられています。
わたくしは驚いて、思わず先生の口の中で指を動かしてしまいました。そのせいで先生の舌が、指に絡みついてきます。
「せ、先生」
「ここは学校ではない」
指が解放されたと思うと、今度は唇をふさがれました。
「口を開きなさい」
命じられるままに唇を動かすと、さっき、指先を弄んでいた旦那さまの舌が口腔に押し入ってきます。
くちづけは深く長く、口を閉じることもできないわたくしは、口の端から唾液が垂れそうになり、思わず身をよじりました。
「まさか君に教えらえれるとはな」
「鮎のことですか? あの、出過ぎた真似をして申し訳ありません」
「馬鹿だな、怒ってなどいない。感心しているんだ」
気分を害したのではないと知り、わたくしはほっと息をつきました。
「よかった。怒られるのかと思ったんです。てっきり今日も、学校で呼び出されて叱られるとばかり……」
「呼び出し? ああ、そういえば約束をしていたな」
あっ。
わたくしは余計なことを言ってしまったかもしれません。
「本当に大きくなったものだ」
旦那さまは立ち上がると、部屋の隅に置いてある箪笥へと向かいました。桐の箪笥の引き出しを開き、そこから帯紐を取りだします。
そしてその帯紐で、わたくしを目隠ししました。
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