【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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四章

12、触れてほしい

 翠子さんは、華奢な裸身を俺にもたれかけさせている。
 鏡に映る俺を見つめ、唇を動かしはするが言葉にはできないようだ。
 あんなに淫らに乱れるのに、楚々とした奥ゆかしさを失わない様子が、いかにも翠子さんらしくて好ましい。

 快楽を極める直前で放置された体は、疼いていることだろう。奥に潜んだ熱を孕んだままで、苦しいかもしれない。
 けれど、それは俺も同じだ。

「今夜は少し先に進む。ちゃんと後でいかせてあげるから、少し我慢しなさい」
「何をなさるの?」
「あなたに触れたい」
「触っておられます」

「指でではない」と、ほろ苦く笑いながら、俺はベルトを外した。ベルトの金具が触れるカチャカチャという音を聞いた翠子さんが、俺の腕から逃れようとする。
 むろん、逃しはしない。

 
 俺は片手で器用にシャツを脱ぎ捨てた。
 翠子さんを抱き寄せ深く唇を重ねる。素肌が重なり合い、二人の境界線が失せたかのような心地がした。

◇◇◇

 旦那さまの舌が、わたくしの唇を口腔を舐め、そして舌が絡み合います。
 今から何をなさるのか分かりませんが、彼のベルトが外れる音に、わたくしはきつく瞼を閉じました。

 気づけば、いつの間にか旦那さまは一糸まとわぬ姿になっておられました。
 お風呂でお見掛けしたことはありますが。引き締まった体と逞しいその胸に、恥じらいが生じます。

「おいで、翠子さん」

 わたくしの両脇に手を差し入れると、旦那さまの膝に座らせられました。
 鏡に映るその姿は、まるで大人と子どものような体格差です。
 月の光に照らされた旦那さまの裸身は均整がとれて、まるで西洋の彫像のようでした。

「どうなさるんですか?」
「言っただろう? 触れさせてほしいと」

 体を強く引き寄せられると、下腹部に硬い屹立を感じます。わたくしは、思わず身じろぎしてしまいました。

「あ、あの……わたくし……」
「しゃべらない方がいい。舌をかむと困るだろう?」

 ふいに旦那さまがわたくしの身体を、前後に揺さぶりました。突然のことに、何が起こったのか分かりません。
 ただ、熱い旦那さま自身に、わたくしは擦られています。何度も、何度も。

「は……ぁ、あぁ……っ」

 繊細な指とは違う、もどかしいけれども繰り返される動きに、息が上がってきます。
 旦那さまは、わたくしに入ってくるわけではありませんが。触れては離れるそのじれったさに、わたくしは自ら体を動かしていました。
 くちゅ……という淫靡な音が耳に届き、羞恥にきつく瞼を閉じます。

「駄目だよ、翠子さん。ちゃんと鏡を見るんだ」

 優しく促されるそれは、命令でした。
 姿見に映るわたくしは、旦那さまに腰を支えられていました。揺さぶられるたびに胸が揺れ、上気した顔はうっとりと夢見るようで、唇は薄く開いたままです。

「旦那さま、もう……わたくし……」

 甘い痺れに下半身を襲われ、昇りつめていく感覚に支配されます。
 
「ふ……あぁ。あ、旦那……さまぁ」
「名前で呼べと、言ったはずだ」

 そう責める旦那さまの声も、切羽詰まった様子です。
 これまでは、わたくしだけが極みに追い上げられていたのに。
 ああ、今宵は二人で一緒にいけるのだと思うと、不思議なほどの恍惚感を覚えました。

欧之丞おうのすけさま……ぁ。も……、だめぇ」
「……くっ」

 わたくしが達する瞬間、鏡に映った旦那さまも切なげに眉根を寄せておられました。
 そんな表情をお見掛けするのは初めてで。
 わたくしは、旦那さまを独り占めしたいと、心から願いました。
感想 10

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