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五章
13、手をつないでいて
舌が絡められたと思うと、旦那さまはすっと離してしまいます。
はしたないのですが、物足りなさに唇は半ば開いたままです。
再びくちづけを与えられ、わたくしは旦那さまにしがみついて応じました。
なのに、また終わってしまいました。
わたくしの体の奥に熱だけを残して、その先を与えてはくださいません。
「旦那さま……」
「駄目だよ、甘えた声を出しても。これ以上はあなたの負担になる」
わたくしのあごに手が掛けられ、軽く頬にキスされます。
「もう休みなさい」と命じられれば、反論はできません。わたくしは旦那さまの膝から降りようとしました。明日も明後日もその次も授業があるのですから、確かに無理はいけません。
「翠子さん」
体を離しかけたわたくしの耳元に、旦那さまが唇をお寄せになります。
「今夜は俺も諦めるが。次の休みの前夜は眠らせないよ。覚悟しておきなさい」
また頬の火照りが復活します。あまりの恥ずかしさに、わたくしはきゅっと瞼を閉じました。
「翠子さん、返事は?」
「は……はい」
「いい子だ。週末を待っていなさい」
旦那さまの指がわたくしの頬から首、そして喉へとたどっていきます。
わたくしは、おかしくなってしまったのかもしれません。羞恥心でいっぱいなのに、旦那さまに命じられることが嫌いではなくなっているのですから。
寝るために横になると、旦那さまが薄い夏布団をかけてくださいました。二つ並んだ布団のご自分の方に座り、団扇で風を送ってくださいます。
蚊帳に守られた二人だけの世界。縁側の雨戸はいつものように開け放たれ、簾も巻き上げらているので、半分屋外にいるように感じます。
今は陸風が吹く時間帯のはずですが、風はなく夜空に浮かぶ雲も流されずに留まったままです。
「旦那さま、手をつないでもいいですか?」
「どうした? 今日は甘えるね」
ええ、少し我儘を言いたいのです。
昼間は先生と生徒として振る舞わねばなりませんし、距離をとる必要もありますが。こうして家に戻れば、わたくしだけの旦那さまに戻ってくださるんですもの。
明日、登校するまではどれだけ甘えても、誰にも咎められることがないんですから。
うとうとと眠りに落ちた頃、わたくしは視線を感じて目を覚ましました。
見れば、まだ手は旦那さまとつないだままです。
すでにご自分の布団に横になっている旦那さまが、こちらをご覧になっていました。
美しい琥珀の瞳に、ぼんやりとした表情のわたくしが映っています。
わたくしは、夏布団からもそもそと体を動かして、旦那さまの布団へと移りました。もちろん手を離したりはしません。
「夜はいいね。あなたが存分に甘えてくれるし、なによりあなたを独り占めできる」
「わたくしも似たようなことを考えておりました」
旦那さまが、つないだ手にきゅっと力を込めます。
「俺にとって手をつなぐことは特別なんだ。両親との間にそういう記憶はない。だからかな、幼いあなたと手をつないで歩いた、あの雪の日は今も特別で……こうしてまた特別な日々が戻ってきたことが、嬉しくてたまらない」
「あの日も、嬉しく思ってくださっていたんですか?」
「……秘密だ」
旦那さまは、急に唇を引き結んでしまわれました。
でもその瞳は柔らかく細められています。旦那さまは最近、心を隠すのが下手でいらっしゃいます。
でも、わたくしもあの雪の日、嬉しくてうきうきしていたんです。おかしいですね、迷子になっていたというのに。
しっかりと握りしめてくださっていたお兄ちゃんの大きな手は、今もわたくしと共にあります。
九年前から、二人の気持ちは一緒だったんですね。
はしたないのですが、物足りなさに唇は半ば開いたままです。
再びくちづけを与えられ、わたくしは旦那さまにしがみついて応じました。
なのに、また終わってしまいました。
わたくしの体の奥に熱だけを残して、その先を与えてはくださいません。
「旦那さま……」
「駄目だよ、甘えた声を出しても。これ以上はあなたの負担になる」
わたくしのあごに手が掛けられ、軽く頬にキスされます。
「もう休みなさい」と命じられれば、反論はできません。わたくしは旦那さまの膝から降りようとしました。明日も明後日もその次も授業があるのですから、確かに無理はいけません。
「翠子さん」
体を離しかけたわたくしの耳元に、旦那さまが唇をお寄せになります。
「今夜は俺も諦めるが。次の休みの前夜は眠らせないよ。覚悟しておきなさい」
また頬の火照りが復活します。あまりの恥ずかしさに、わたくしはきゅっと瞼を閉じました。
「翠子さん、返事は?」
「は……はい」
「いい子だ。週末を待っていなさい」
旦那さまの指がわたくしの頬から首、そして喉へとたどっていきます。
わたくしは、おかしくなってしまったのかもしれません。羞恥心でいっぱいなのに、旦那さまに命じられることが嫌いではなくなっているのですから。
寝るために横になると、旦那さまが薄い夏布団をかけてくださいました。二つ並んだ布団のご自分の方に座り、団扇で風を送ってくださいます。
蚊帳に守られた二人だけの世界。縁側の雨戸はいつものように開け放たれ、簾も巻き上げらているので、半分屋外にいるように感じます。
今は陸風が吹く時間帯のはずですが、風はなく夜空に浮かぶ雲も流されずに留まったままです。
「旦那さま、手をつないでもいいですか?」
「どうした? 今日は甘えるね」
ええ、少し我儘を言いたいのです。
昼間は先生と生徒として振る舞わねばなりませんし、距離をとる必要もありますが。こうして家に戻れば、わたくしだけの旦那さまに戻ってくださるんですもの。
明日、登校するまではどれだけ甘えても、誰にも咎められることがないんですから。
うとうとと眠りに落ちた頃、わたくしは視線を感じて目を覚ましました。
見れば、まだ手は旦那さまとつないだままです。
すでにご自分の布団に横になっている旦那さまが、こちらをご覧になっていました。
美しい琥珀の瞳に、ぼんやりとした表情のわたくしが映っています。
わたくしは、夏布団からもそもそと体を動かして、旦那さまの布団へと移りました。もちろん手を離したりはしません。
「夜はいいね。あなたが存分に甘えてくれるし、なによりあなたを独り占めできる」
「わたくしも似たようなことを考えておりました」
旦那さまが、つないだ手にきゅっと力を込めます。
「俺にとって手をつなぐことは特別なんだ。両親との間にそういう記憶はない。だからかな、幼いあなたと手をつないで歩いた、あの雪の日は今も特別で……こうしてまた特別な日々が戻ってきたことが、嬉しくてたまらない」
「あの日も、嬉しく思ってくださっていたんですか?」
「……秘密だ」
旦那さまは、急に唇を引き結んでしまわれました。
でもその瞳は柔らかく細められています。旦那さまは最近、心を隠すのが下手でいらっしゃいます。
でも、わたくしもあの雪の日、嬉しくてうきうきしていたんです。おかしいですね、迷子になっていたというのに。
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九年前から、二人の気持ちは一緒だったんですね。
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