【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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八章

11、嘘はいけない

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 半巾ハンカチを間に挟んで、旦那さまとわたくしは手をつないだまま家に戻りました。
 最近、家にも電気が通ったので、玄関には外灯がともっています。

「あらあら、人出が多かったでしょう?」
「お帰りなさい、お二人とも。すぐに風呂を沸かしなおしますね」

 出迎えてくれたお清さんと銀司さんに、おみやげのベビーカステラを渡します。鈴のようなころんとした形のカステラが入った紙袋を見て、お二人は顔をほころばせました。
 甘いものはおいしいですのにね。むしろ、甘いからこそおいしいんですよね。

 旦那さまと一緒にお風呂に入るのが当たり前になってしまったので、わたくしは浴衣を脱いで広い浴室に足をふみ入れました。

「おいで、翠子さん」
「は、はい」

 どうしたのでしょう。首をかしげながら、わたくしは手拭いで体を隠しつつ進みます。
 旦那さまは檜の浴槽に入りつつ、手には石鹸を持っていらっしゃいます。浴槽の前には、木製の小さな浴用椅子が置いてあります。

「翠子さんも今日は人ごみで疲れただろう。今日は体を洗ってやるよ」
「え、いえ。自分で洗えますよ。旦那さまのお手を煩わせることなんて」
「大丈夫。俺は優しいからな」

 にっこりと微笑んでいらっしゃるのに、カンテラの明かりに照らされた眼は、笑っていらっしゃいません。
 あ、これ。お仕置きです。

「翠子さんは綿菓子が好きなんだな。俺も好きだ」
「え、でも甘いものはお嫌いと」
「そう。翠子さんが綿菓子になるのが好きなんだ。安心なさい、全身ふわふわにしてあげよう」

 安心なんてできません。とっても不穏な物言いですよ。
 小さな椅子に腰を下ろすように命じられ、旦那さまが手拭いで泡立てた石鹸を、わたくしの肌にのせます。
 いい香りに包まれるのですけど。もちろん気を抜いてはいけません。

 旦那さまは浴槽に入ったままで身を乗り出して、わたくしの腕を泡で撫でていきます。泡に包まれた旦那さまの手は、胸から腹部へとたどっていきます。
 くすぐったいですが、我慢できないほどではありません。
 お仕置きがこの程度で済むのなら、旦那さまのお好きなように任せましょう。

「余裕だな、翠子さん」
「いえ、そういうわけでは」

 本当は余裕綽々です。でも平気そうにしていると、きっと旦那さまは増長なさいますからね。見抜かれないようにしないといけません。

「くすぐったいです。やめてください」
「……本当に?」
「本当ですって」

 わたくしは身をよじって、旦那さまの手から逃れました。すると旦那さまに肩を掴まれて、後ろを向かされます。
 そして指先で、背筋の中央を上から下にかけてつーっとなぞられました。

「ひゃ……あっ」
「うん。これがくすぐったいだな。嘘はいけないな、翠子さん」
 
 しまった……です。わたくしは慌てて手で口を押えました。でも時すでに遅しです。

 旦那さまはわたくしの背後から手をまわして、石鹸の泡を下腹部に塗りました。
 泡にまみれた手のままで、わたくしの秘された部分に指を伸ばします。

「や……っ」
「外で銀司がまだ風呂を焚いている。風呂場はとくに声が反響するからな。声を殺した方がいいぞ」

 わたくしは慌てて自分の口を手でふさぎました。

「そうそう。ちゃんと言うことを聞きなさい。くしてあげるから」

 耳元で優しく甘く旦那さまが囁きます。まるで悪魔のように。そして右手は胸の頂きに触れられ、左手はわたくしの足を開かせます。
 背後の旦那さまにもたれかかる形で、わたくしは逃げることも声をあげることも叶わずに、ただ身を任せるしかありません。

「……っ……ぅ」
「背徳的だな。自らの手で口をふさぐあなたの姿は」
「ん……ぅ」
「あられもない声を上げるあなたも素敵だが、こうして自らを律しようとするあなたの姿もそそられるな」

 知りません、そんなの。旦那さまが……あぁ、反論を頭で考えても、手を外せば口からは嬌声がこぼれるに決まっています。
 しだいに頭の芯がぼうっとして、何を考えていたのか分からなくなります。

「だめ、も……ぅ」
「達しそうかい?」

 わたくしは何度もうなずきました。

「いいよ。ただし、声を出さないように。翠子さんならできるね?」
「……ぅっ……っ……んんっ」

 わたくしは首をのけぞらせて果てました。いつの間にか手は口から外れ、旦那さまの腕に爪を立てていました。唇を噛みしめて、歯の間からこぼれるわずかな喘ぎ声が、響きはしないかと不安で。

「よく頑張ったね」

 くったりと旦那さまの胸に背中からもたれると、優しいくちづけをくださいました。
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