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八章
23、旅館【4】
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旦那さまはわたくしを膝に乗せた状態で、体を起こしました。乱れた前髪が額にかかっていらっしゃいます。
前髪に指をさし入れて、後ろへ流してみると普段の髪型に戻りました。
「こっちの方が好きかい?」
「ええ。いつもの旦那さまですもの。まるでお家にいるみたいで、安心するんです」
「壁を隔てて隣の部屋に、琥太郎兄さんと護衛の斉川がいる。あなたを縛った原は、三木達比古を連れて組に戻ったが……翠子さん、声を上げないと約束できるね?」
わたくしは頷きました。自信はありませんけど。
旦那さまは了承してくださったようで、わたくしの帯に手をかけます。
自分から抱いてほしいとねだったことは、以前にもあります。あの時は不安に駆られていた時でした。
今は、旦那さまがいらっしゃるので、もう心細さはないですが。
不思議ですね。不安でも安心していても、わたくしは旦那さまを求めているんですもの。
「翠子さんが脱がせてくれるかい?」
「……はい」
わたくしは旦那さまがお召しになっている、旅館の浴衣の帯に手をかけました。お家の寝間着よりも生地が薄く、触れるだけで体の線が分かります。
帯を解いて、広い肩から浴衣をずらします。
片方の肩を露わにし、胸と引き締まった腹部まで覗かせている旦那さまから、滲みでる色気を感じます。
「自分で脱いでごらん。見ていてあげるから」
優しく命じられて、わたくしは頷きました。自分から抱いてほしいと願ったことなので、指示には従います。
しゅるりと帯をほどき、恥じらいながらも浴衣を布団の上に落とします。この部屋は薄暗いのですが、隣の部屋に行灯が点いたままなので、窓ガラスにわたくしたちの姿が映っています。
ええ、互いに肌をあらわにした二人の姿が。
隣室に飾られている芙蓉の花の香りを、微かに感じました。
「くちづけしても、よろしいですか?」
「どうぞ」
わたくしは、旦那さまの膝に乗ったまま、その首筋に唇を触れました。唇を通して、旦那さまがぴくりと身を竦ませたのが伝わってきます。
「吸血鬼に吸われる時って、こんな感じなのかな」
「噛んでおりませんよ」
「ぞくりとするね。翠子さんにもしてあげようか」
そう仰ると、わたくしの首筋に唇を触れ、そして軽く歯をお立てになります。
与えられる痛みに、官能が揺さぶられました。
「……んっ……っ」
旦那さまの大きな手が、わたくしの素肌をお撫でになりました。
乾いたてのひらが、何度も何度も強く、そして軽く撫でさすります。
肩甲骨の辺りから、背中の中央に触れられ、首筋には軽い痛みを与えられ。何もまとっていない腿は、旦那さまの足と触れ合っていますから。
それだけで、くらくらと目眩がしそうです。
「貧血で倒れそうです」
「血は吸ってないよ? それに、まだこれからだ」
首筋から口を離して、旦那さまはわたくしの唇をふさぎました。
わたくしは膝で立つように促されました。両膝を布団に当てて体を起こすと、旦那さまの手がわたくしの下腹部に伸ばされました。
「……っ」
「声を出さない」
ゆるやかな指使いで、秘された箇所を弄られます。
ああ、旦那さまに触れられている。こんなにも、淫らに。
その事実と、甘く痺れる感覚に全身が支配されていきます。
わたくしは旦那さまの頭にしがみつきました。
しだいに耳に届きはじめる水音。そしてわたくしの膝が敷布にこすれる音が、聞こえます。
「ん……ぁ……ぁ」
「翠子さん、約束を守らないと。愛してあげられないよ」
わたくしは頷きながら、唇を噛んで喘ぐ声をこらえました。
ふと車の中で猿轡を噛まされていたことを思い出しました。閉じることのできない口の中に唾液はたまるのに、喉の奥はからからに渇いて、とても苦しくて。
縄で縛られていた部分も痛くて、着衣の上からでも肌に縄が食い込んでいました。
旦那さまに帯紐で何度か縛られたことがありますが。その時には、痛みを感じることはありませんでした。
わたくしの中で、旦那さまの指が動きます。
駄目です。そんなに……なさらないで。
もう、これ以上は。
両膝で自分の体重を支えていられなくなり、ふいに足が崩れました。
「あぁ……っ」
自ら招いた結果ですのに。旦那さまの指が深い部分をかすめて、思わず声を上げてしまいました。
前髪に指をさし入れて、後ろへ流してみると普段の髪型に戻りました。
「こっちの方が好きかい?」
「ええ。いつもの旦那さまですもの。まるでお家にいるみたいで、安心するんです」
「壁を隔てて隣の部屋に、琥太郎兄さんと護衛の斉川がいる。あなたを縛った原は、三木達比古を連れて組に戻ったが……翠子さん、声を上げないと約束できるね?」
わたくしは頷きました。自信はありませんけど。
旦那さまは了承してくださったようで、わたくしの帯に手をかけます。
自分から抱いてほしいとねだったことは、以前にもあります。あの時は不安に駆られていた時でした。
今は、旦那さまがいらっしゃるので、もう心細さはないですが。
不思議ですね。不安でも安心していても、わたくしは旦那さまを求めているんですもの。
「翠子さんが脱がせてくれるかい?」
「……はい」
わたくしは旦那さまがお召しになっている、旅館の浴衣の帯に手をかけました。お家の寝間着よりも生地が薄く、触れるだけで体の線が分かります。
帯を解いて、広い肩から浴衣をずらします。
片方の肩を露わにし、胸と引き締まった腹部まで覗かせている旦那さまから、滲みでる色気を感じます。
「自分で脱いでごらん。見ていてあげるから」
優しく命じられて、わたくしは頷きました。自分から抱いてほしいと願ったことなので、指示には従います。
しゅるりと帯をほどき、恥じらいながらも浴衣を布団の上に落とします。この部屋は薄暗いのですが、隣の部屋に行灯が点いたままなので、窓ガラスにわたくしたちの姿が映っています。
ええ、互いに肌をあらわにした二人の姿が。
隣室に飾られている芙蓉の花の香りを、微かに感じました。
「くちづけしても、よろしいですか?」
「どうぞ」
わたくしは、旦那さまの膝に乗ったまま、その首筋に唇を触れました。唇を通して、旦那さまがぴくりと身を竦ませたのが伝わってきます。
「吸血鬼に吸われる時って、こんな感じなのかな」
「噛んでおりませんよ」
「ぞくりとするね。翠子さんにもしてあげようか」
そう仰ると、わたくしの首筋に唇を触れ、そして軽く歯をお立てになります。
与えられる痛みに、官能が揺さぶられました。
「……んっ……っ」
旦那さまの大きな手が、わたくしの素肌をお撫でになりました。
乾いたてのひらが、何度も何度も強く、そして軽く撫でさすります。
肩甲骨の辺りから、背中の中央に触れられ、首筋には軽い痛みを与えられ。何もまとっていない腿は、旦那さまの足と触れ合っていますから。
それだけで、くらくらと目眩がしそうです。
「貧血で倒れそうです」
「血は吸ってないよ? それに、まだこれからだ」
首筋から口を離して、旦那さまはわたくしの唇をふさぎました。
わたくしは膝で立つように促されました。両膝を布団に当てて体を起こすと、旦那さまの手がわたくしの下腹部に伸ばされました。
「……っ」
「声を出さない」
ゆるやかな指使いで、秘された箇所を弄られます。
ああ、旦那さまに触れられている。こんなにも、淫らに。
その事実と、甘く痺れる感覚に全身が支配されていきます。
わたくしは旦那さまの頭にしがみつきました。
しだいに耳に届きはじめる水音。そしてわたくしの膝が敷布にこすれる音が、聞こえます。
「ん……ぁ……ぁ」
「翠子さん、約束を守らないと。愛してあげられないよ」
わたくしは頷きながら、唇を噛んで喘ぐ声をこらえました。
ふと車の中で猿轡を噛まされていたことを思い出しました。閉じることのできない口の中に唾液はたまるのに、喉の奥はからからに渇いて、とても苦しくて。
縄で縛られていた部分も痛くて、着衣の上からでも肌に縄が食い込んでいました。
旦那さまに帯紐で何度か縛られたことがありますが。その時には、痛みを感じることはありませんでした。
わたくしの中で、旦那さまの指が動きます。
駄目です。そんなに……なさらないで。
もう、これ以上は。
両膝で自分の体重を支えていられなくなり、ふいに足が崩れました。
「あぁ……っ」
自ら招いた結果ですのに。旦那さまの指が深い部分をかすめて、思わず声を上げてしまいました。
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