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九章
28、閑話 旦那さまのお友達【2】※銀司視点
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「南国ボーイは、翠子さんとはよう話すん?」
「あ、はい。喋ることは多いですよ」
「ふぅん。女学校は、もう夏休みになっとんやんなぁ。翠子さんのとこに学友とか、遊びに来るんやろか」
どうして、琥太郎さんが翠子さんのことを気にするんだろう。それから、南国ボーイというのはやめてくれないかな。
ぼくももう二十二歳なのだから。
「どうでしょうか。旦那さまと暮らしていることを知っているお友達がいれば、いらっしゃるかもしれませんけど。あ、でも外に遊びに行くことはあるかもしれません」
「いつ? どこに?」
いきなり琥太郎さんが食いついて来たから、正直引いた。
飄々とした印象の人だから、何かに熱くなるようには見えないのに。
「あの……琥太郎さんは、翠子さまに興味がおありなんですか?」
とても、とてつもなく尋ねにくい言葉をぼくは口にした。
翠子さまは旦那さまの未来の花嫁でいらっしゃる。彼女は旦那さましか見ていないし、旦那さまも然りだ。
そこに幼馴染みが割って入ったりしたら、しかもそれが若頭なのだから、血を見るのは明らかだ。
しばしの間があり、岸壁に寄せる静かな波音だけが聞こえていた。
ああ、訊くんじゃなかったか、こんなこと。
「いや、全然。翠子さんに興味なんかあらへん」
拍子抜けするほどに、軽く否定されてしまった。
「あー、ないっちゅうのは嘘やな。あの根っからの堅物が落ちてしもた子やから、好奇心という意味ではあるかなぁ」
「そっちですか」
はーぁ、と大きな安堵の息が洩れた。
もう、びっくりさせないでくださいよ。うちに……高瀬邸にヤクザが乗り込んで、翠子さまを攫うのは二度と見たくありません。
あれは悪夢です。
翠子さまが旦那さまに縛られているところは、見たことがあるけれど。あれは、蚊に刺された場所を翠子さまが掻き毟らないようにという、優しいんだか鬼畜なんだか分からない理由からだった。
いわゆる本職(って、なんだ?)の人の緊縛ってのは、見ていて心に悪い。
「ぎゃー、翠子さまを返してくれ」と大騒ぎしそうになったからな。
「まぁ、ええわ。翠子さんがお友達とお出かけする時は、教えてくれへんか?」
「え、どうやってですか? ぼく、さすがに三條組に行く勇気はないですよ」
琥太郎さんは、何が面白かったのか笑い声を上げながらぼくの肩を叩いた。
「自分、正直やな。けど、欧之丞はちごたで。子どもの頃から虫取り網を持って『琥太兄、あーそーぼー』って、うちに誘いに来とったもんな。最初の頃は『なんやねん、チビ』ゆうて、うちの組員に睨まれとったけど。それでも堅気やない奴らに囲まれても、気にせずに来とったわ」
「……勇気があるのか、無神経なのか分かりませんね」
「せやろ。あいつ、可愛いねん」
くっく、と肩を震わせながら、琥太郎さんは笑った。
それは分からなくもない。
旦那さまは、ぼくに仕事をしっかりと教えてくださったし。翠子さまの身が危なかったから、すぐに行動を起こして迅速に彼女を引き取った。彼女にかかる火の粉を徹底的にふり払うさまは、冷酷にすら見える
なのに、翠子さまに対しては「旦那さま、いけません。このままでは溶けてしまいますよ」と注意したくなるような、温かくて優しいまなざしを向けておられる。
あれを可愛いと言っていいのかどうか、ぼくには分からないけれど。
でも、たぶん。
ぼくが高瀬家でお仕えするようになった頃からは、想像もはるかに及ばない甘い表情だ。
「あ、はい。喋ることは多いですよ」
「ふぅん。女学校は、もう夏休みになっとんやんなぁ。翠子さんのとこに学友とか、遊びに来るんやろか」
どうして、琥太郎さんが翠子さんのことを気にするんだろう。それから、南国ボーイというのはやめてくれないかな。
ぼくももう二十二歳なのだから。
「どうでしょうか。旦那さまと暮らしていることを知っているお友達がいれば、いらっしゃるかもしれませんけど。あ、でも外に遊びに行くことはあるかもしれません」
「いつ? どこに?」
いきなり琥太郎さんが食いついて来たから、正直引いた。
飄々とした印象の人だから、何かに熱くなるようには見えないのに。
「あの……琥太郎さんは、翠子さまに興味がおありなんですか?」
とても、とてつもなく尋ねにくい言葉をぼくは口にした。
翠子さまは旦那さまの未来の花嫁でいらっしゃる。彼女は旦那さましか見ていないし、旦那さまも然りだ。
そこに幼馴染みが割って入ったりしたら、しかもそれが若頭なのだから、血を見るのは明らかだ。
しばしの間があり、岸壁に寄せる静かな波音だけが聞こえていた。
ああ、訊くんじゃなかったか、こんなこと。
「いや、全然。翠子さんに興味なんかあらへん」
拍子抜けするほどに、軽く否定されてしまった。
「あー、ないっちゅうのは嘘やな。あの根っからの堅物が落ちてしもた子やから、好奇心という意味ではあるかなぁ」
「そっちですか」
はーぁ、と大きな安堵の息が洩れた。
もう、びっくりさせないでくださいよ。うちに……高瀬邸にヤクザが乗り込んで、翠子さまを攫うのは二度と見たくありません。
あれは悪夢です。
翠子さまが旦那さまに縛られているところは、見たことがあるけれど。あれは、蚊に刺された場所を翠子さまが掻き毟らないようにという、優しいんだか鬼畜なんだか分からない理由からだった。
いわゆる本職(って、なんだ?)の人の緊縛ってのは、見ていて心に悪い。
「ぎゃー、翠子さまを返してくれ」と大騒ぎしそうになったからな。
「まぁ、ええわ。翠子さんがお友達とお出かけする時は、教えてくれへんか?」
「え、どうやってですか? ぼく、さすがに三條組に行く勇気はないですよ」
琥太郎さんは、何が面白かったのか笑い声を上げながらぼくの肩を叩いた。
「自分、正直やな。けど、欧之丞はちごたで。子どもの頃から虫取り網を持って『琥太兄、あーそーぼー』って、うちに誘いに来とったもんな。最初の頃は『なんやねん、チビ』ゆうて、うちの組員に睨まれとったけど。それでも堅気やない奴らに囲まれても、気にせずに来とったわ」
「……勇気があるのか、無神経なのか分かりませんね」
「せやろ。あいつ、可愛いねん」
くっく、と肩を震わせながら、琥太郎さんは笑った。
それは分からなくもない。
旦那さまは、ぼくに仕事をしっかりと教えてくださったし。翠子さまの身が危なかったから、すぐに行動を起こして迅速に彼女を引き取った。彼女にかかる火の粉を徹底的にふり払うさまは、冷酷にすら見える
なのに、翠子さまに対しては「旦那さま、いけません。このままでは溶けてしまいますよ」と注意したくなるような、温かくて優しいまなざしを向けておられる。
あれを可愛いと言っていいのかどうか、ぼくには分からないけれど。
でも、たぶん。
ぼくが高瀬家でお仕えするようになった頃からは、想像もはるかに及ばない甘い表情だ。
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