【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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十章

24、お屋敷【1】

 旦那さまが、子どもの頃に三條組に入り浸り、ついでに組員から修行(と言っていいのでしょうか?)を受けていたことを聞き、わたくしは納得しました。

 確かに以前、おじさまを一撃で倒せたはずです。
 旦那さまは、学生時代に登山が趣味だったから筋肉がついているような言い方をなさっていたことがありますが。
 たぶん、それ以前からでしょうね。

 ですが、琥太郎さんがわたくしに話があるとのことでしたけど。
 いったい何なのでしょう。

「わたくし、琥太郎さんにお会いした方がいいんでしょうか?」
「琥太郎兄さんの所なら、今度俺が連れて行ってやる。翠子さんが一人で出向く必要はない」

 わたくしの手から牛乳瓶を取り上げると、旦那さまは一口飲みました。そして眉をしかめます。

「砂糖は入っていないのに。牛乳は、そこそこ甘いんだな」

◇◇◇

 結局、その日旦那さまが出勤なさる前に、三條組に立ち寄ることになりました。
 仕事の前なら、時間に制限があるから引き留められることもないという、仲がいいんだか悪いんだか分からない理由です。

 わたくしは今日も文子さんとお裁縫の約束があるので、ちょうどいいかもしれません。軽装ではなく、普段の袴姿で出かけます。

 いつものように学校に行く途中、大通りに出るまでの一つ前の角を曲がります。この辺りは築地塀がずーっと続いていて、いったい何の施設なのかとずっと不思議に思っていましたが。

 目の前に聳える重厚な門を見て、わたくしは目を丸くしました。門って、こんなに大きかったでしょうか。
 境内に数多くの塔頭たっちゅうが存在する、京都の寺院なら分かるのですけど。

「門にガーゴイルがいますよ」
「ガーゴイル? いや、これはカラスの彫刻じゃないか? それともトンビ?」

 二人でああでもない、こうでもないと言い合っていると、見覚えのある強面の男性が門から出てきました。
 大きな扉につけられた潜戸くぐりどからですけど。

「これは、高瀬さま。連絡をくだされば、この斉川さいかわがお迎えに上がりましたのに」
「いや、仕事に行く途中だし。近所だから迎えも必要ない」

 旦那さまは軽く手を振っていらっしゃいますが、斉川さんと呼ばれたヤクザさんは、律儀に頭を下げます。

「翠子お嬢さまには、先日はうちの者が無礼を働きました」

 思い出しました。琥太郎さんの護衛についてらした方です。それと同時に、縛り上げられて車に放り込まれた時の恐怖が甦ってきました。
 わたくしは旦那さまの背に隠れて、シャツの布地をしっかりと握りしめます。

「あー、ちょっと翠子さんが怖がっているから。ここで用件だけ聞かせてもらおうかな」
「いえ、立ち話などいけません」

「おい、お前ら」と、斉川さんは門の中に向けて声を掛けます。
 来ました、来ました。ぞろぞろと。爽快な夏の青空に全然ふさわしくない、強面集団です。
 いつもの旦那さまの渋面が、愛らしく感じるほどです。
 なぜかヤクザさん達は、顔に生々しい傷を負っていらっしゃいます。しかもひっかき傷。

 わたくし達は、有無を言わせずお屋敷の中へと導かれていきます。
 旦那さまのお家も、笠井の実家も広いのですけど。この三條組は規模が違います。

 玄関と思しき場所は、どこかの道場かと思うほどに広く。平安時代の寝殿造りってありますよね。源氏物語の絵巻にあるような。
 渡り廊下が、それぞれの棟をつないでいて、しかも池には舟まで浮かんでいます。

「あの舟に乗って、月見をするんだ。あと、ほら。池の周囲の木が紅葉だろ? 秋には舟で紅葉狩りだな」

 風流をとうに超えています。しかも自宅の庭でだなんて。

「旦那さまは、あの舟にお乗りになったことがあるんですか?」

 問いかけると、旦那さまは口をへの字に結びました。
 あ、察しました。なにか、やらかしましたね。

「子どもの時にはしゃいで、池に落っこちた。琥太兄の母さんが体を拭いてくれたけど。琥太兄には『欧之丞は、ほんまに風情を解さへん奴や』と、冷たい目で見られたな」

 妙なことまで思い出した、と旦那さまはこぼします。
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