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十章
29、お仕置きを選んでしまったので【3】
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奥に鈴を入れられたわたくしは、立つように促されました。
上履きを履いた足を床につけると、体の芯に刺激を感じます。
「や……っ」
「まだ歩いてもいないよ」
「無理です、こんなの。だって……」
二つの鈴が、わたくしの中で擦れあうんです。一歩を踏み出すだけで、じんとした痺れを感じて、わたくしは立ち止まってしまいました。
ようやく廊下に出ましたが、歩くたびに体の奥から鈴の音が聞こえてきそうで。
本当に鳴っているのかどうか、わたくしには分かりません。
でも、もしこの音が旦那さまに聞かれたら。道行く人の耳に届いたら。「あの音はなんだ?」と言われたら。
ああ、どうしたらいいのでしょう。
こんな……体の奥に異物を挿入したままで、家まで歩けだなんて。
旦那さまが職員室に鍵を返しに行っている間に、わたくしは階段を下りようとしました。
りん……と、鈴の音が聞こえました。
そしてこれまでと違う、上下の足の動きに応じて、二つの鈴がわたくしを虐めます。
「や、だめ。やめて……」
ほんの二段ほど下りただけですのに、わたくしはその場にしゃがみこんでしまいました。
なのに、膝を曲げて腰を落としたせいで、鈴はより深くに入り込んできます。
お願い、誰も来ないで。こんな淫らなわたくしを見ないで。
両手で顔を隠して座り込んでいると、廊下を走る音が聞こえました。
足音は近づいてきます。
気づかないで。そのまま行き過ぎて。
「翠子さんっ!」
「……だ、んな、さま」
顔を上げると、心配そうな旦那さまの表情が朧に滲んでいきます。
旦那さまは両腕を広げて、わたくしを抱き上げました。
「俥を使おう」
「う……うぅ。は……い」
わたくしは旦那さまの首にしがみつきます。苦しいんです、なのに体の奥が甘く痺れて。旦那さまではない物に蹂躙されるなんて。そんなの、嫌です。
昇降口で上履きを脱がされ、旦那さまはわたくしの短靴を手に持って校舎を出ます。
夕暮れの日差しはきつく、抱き上げられたままで旦那さまと密着していると汗ばんできます。
いつ校門を出たのか、わたくしには分かりませんでした。気づけば大通りで、旦那さまは車夫と交渉しています。
「具合がよくないから、振動を与えないようにしてくれ」
「はい。でも旦那、お嬢さんは大丈夫ですか? 診療所にでも行った方が」
「いや、平気だ。気にしないでくれ」
わたくしは先に俥に乗せられました。日よけを深く下ろして、人力車の中は影に包まれます。
「……っ」
声を上げてはなりません。たとえ鈴がわたくしを苛んでも。
わたくしは隣に座った旦那さまのシャツを、しっかりと握りしめました。
振動を与えないようにとの指示でしたが。歩くよりはましという程度で、車輪が拾う揺れを、わたくしの腰は感じてしまいます。
「旦那……さまぁ」
すがりつくわたくしに、旦那さまは右の人差し指をお与えになりました。「噛んでいなさい」と小さく仰り、わたくしの歯と歯の間に指をお入れになります。
徒歩よりも俥ならば、相当速いはずですのに。こんなにも学校から家までが遠いと感じたことはありません。
◇◇◇
あの鈴が、こんなにも翠子さんを責め苛むとは思いもしなかった。
小説では、鈴を入れられた女性が、自分の中からその音が聞こえることに羞恥するという内容だったのに。
検閲の件もあるから、あっさりと書いてあるのかもしれないが。読んだ限り、妖艶でも淫猥でもなかった。むしろ、翠子さんが愛読している女学生ラブラブ実録物の方が、赤裸々だったぞ。
ん? 待てよ。
俺は気づいた。
しまった。あの小説を書いた作家は、男性だった。盲点だった。女性の感覚など、分かるはずもない。
だがまぁ、お仕置きを選んだのは翠子さん自身だ。
ちゃんと家で可愛がってあげるから、少しの間は我慢しなさい。
俺はあなたには甘いが、すべての我儘を聞き入れるつもりはない。
俥が角を曲がった。その拍子に、翠子さんが瞳を潤ませて俺を見上げてくる。
濡れた黒い瞳は、情欲に満ちていて。
俺が挿入したあの鈴が、今あなたを襲っているのだと思うと、背筋がざわめく心地がした。
上履きを履いた足を床につけると、体の芯に刺激を感じます。
「や……っ」
「まだ歩いてもいないよ」
「無理です、こんなの。だって……」
二つの鈴が、わたくしの中で擦れあうんです。一歩を踏み出すだけで、じんとした痺れを感じて、わたくしは立ち止まってしまいました。
ようやく廊下に出ましたが、歩くたびに体の奥から鈴の音が聞こえてきそうで。
本当に鳴っているのかどうか、わたくしには分かりません。
でも、もしこの音が旦那さまに聞かれたら。道行く人の耳に届いたら。「あの音はなんだ?」と言われたら。
ああ、どうしたらいいのでしょう。
こんな……体の奥に異物を挿入したままで、家まで歩けだなんて。
旦那さまが職員室に鍵を返しに行っている間に、わたくしは階段を下りようとしました。
りん……と、鈴の音が聞こえました。
そしてこれまでと違う、上下の足の動きに応じて、二つの鈴がわたくしを虐めます。
「や、だめ。やめて……」
ほんの二段ほど下りただけですのに、わたくしはその場にしゃがみこんでしまいました。
なのに、膝を曲げて腰を落としたせいで、鈴はより深くに入り込んできます。
お願い、誰も来ないで。こんな淫らなわたくしを見ないで。
両手で顔を隠して座り込んでいると、廊下を走る音が聞こえました。
足音は近づいてきます。
気づかないで。そのまま行き過ぎて。
「翠子さんっ!」
「……だ、んな、さま」
顔を上げると、心配そうな旦那さまの表情が朧に滲んでいきます。
旦那さまは両腕を広げて、わたくしを抱き上げました。
「俥を使おう」
「う……うぅ。は……い」
わたくしは旦那さまの首にしがみつきます。苦しいんです、なのに体の奥が甘く痺れて。旦那さまではない物に蹂躙されるなんて。そんなの、嫌です。
昇降口で上履きを脱がされ、旦那さまはわたくしの短靴を手に持って校舎を出ます。
夕暮れの日差しはきつく、抱き上げられたままで旦那さまと密着していると汗ばんできます。
いつ校門を出たのか、わたくしには分かりませんでした。気づけば大通りで、旦那さまは車夫と交渉しています。
「具合がよくないから、振動を与えないようにしてくれ」
「はい。でも旦那、お嬢さんは大丈夫ですか? 診療所にでも行った方が」
「いや、平気だ。気にしないでくれ」
わたくしは先に俥に乗せられました。日よけを深く下ろして、人力車の中は影に包まれます。
「……っ」
声を上げてはなりません。たとえ鈴がわたくしを苛んでも。
わたくしは隣に座った旦那さまのシャツを、しっかりと握りしめました。
振動を与えないようにとの指示でしたが。歩くよりはましという程度で、車輪が拾う揺れを、わたくしの腰は感じてしまいます。
「旦那……さまぁ」
すがりつくわたくしに、旦那さまは右の人差し指をお与えになりました。「噛んでいなさい」と小さく仰り、わたくしの歯と歯の間に指をお入れになります。
徒歩よりも俥ならば、相当速いはずですのに。こんなにも学校から家までが遠いと感じたことはありません。
◇◇◇
あの鈴が、こんなにも翠子さんを責め苛むとは思いもしなかった。
小説では、鈴を入れられた女性が、自分の中からその音が聞こえることに羞恥するという内容だったのに。
検閲の件もあるから、あっさりと書いてあるのかもしれないが。読んだ限り、妖艶でも淫猥でもなかった。むしろ、翠子さんが愛読している女学生ラブラブ実録物の方が、赤裸々だったぞ。
ん? 待てよ。
俺は気づいた。
しまった。あの小説を書いた作家は、男性だった。盲点だった。女性の感覚など、分かるはずもない。
だがまぁ、お仕置きを選んだのは翠子さん自身だ。
ちゃんと家で可愛がってあげるから、少しの間は我慢しなさい。
俺はあなたには甘いが、すべての我儘を聞き入れるつもりはない。
俥が角を曲がった。その拍子に、翠子さんが瞳を潤ませて俺を見上げてくる。
濡れた黒い瞳は、情欲に満ちていて。
俺が挿入したあの鈴が、今あなたを襲っているのだと思うと、背筋がざわめく心地がした。
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