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十一章
1、爽快な朝なのに【1】
「ぐーてんもるげん、やで。お二人さん」
爽快な朝のはずですのに、高瀬家の門の前には晴れやかな笑顔の琥太郎さんと、その後ろに怖そうな面々が二人、控えています。
お一人は斉川さん。もう一人は年配の方で、着流し姿が昔ながらの任侠と言う感じです。
琥太郎さんと斉川さんが、洋装なので余計に目立ちます。
「エリスを預けに来てん。私らは今日から会合があってな、組長の代理で出席せなあかんねん。ほんで家を空けるから。まぁ三日間だけやけど、頼むわ」
エリスの入った籐のかごを、琥太郎さんはわたくしに手渡しました。
すこーしだけ蓋を開いて覗いてみると、金色のふわふわの毛が見えて、エリスが眠たそうに目を開きました。
かわいいです。朝から素敵なものを見せていただきました。
「翠子さんは、夏休みやもんな。ちょうどよかったわ。うちに置いとったら、組員の被害続出やし」
「元彼女にでも預けたらいいんじゃないのか?」
「お断りや」
旦那さまの提案を、琥太郎さんは一蹴なさいます。
「なーんで、今更連絡とらなあかんのや。面倒くさい。勘違いされて、べたべたされたら迷惑や」
「琥太郎さん、おもてになるんですね」
「欧之丞ほどやあらへん」
しれっとした口調で琥太郎さんは仰いました。旦那さまは慌てて、彼の口を手でふさぎます。
「俺は琥太兄と違って、見境なく付き合ったりしない」
「ふごふご……ふご」
「そもそも好きでもないくせに、結婚するつもりもないくせに、どうして相手に期待を抱かせるようなことをするかな」
「もがもが……ええ加減にせぇ。しゃべられへんやろ」
琥太郎さんは、旦那さまの腕を振りほどきました。
背後の斉川さんは呆れたような顔をなさっていますが、もうお一人の年配の方はなぜか拳を目に当てていらっしゃいます。
土埃でも目に入ったのでしょうか。
「また琥太郎坊ちゃんと坊が仲ようしとんのを、見られるやなんて。長生きはするもんや」
え、泣いてらっしゃるんですか? 白髪交じりの角刈りで、とても怖そうですのに。
「若頭やろ、波多野。誰が琥太郎坊ちゃんやねん」
「俺ももう坊という年じゃない」
同時に二人に叱責されて、波多野さんはさらに涙ぐみました。
「お二人とも立派になられて。この波多野、夢やったんです。若と坊がお二人でうちの組を盛り立ててくれるのを。坊やったら、若を守ってくれはるでしょ」
「……数学教師だぞ、俺」
「なんも肉の盾になれとは、言わへん。坊にそんな無体なことはさせられへんからな。でも、この波多野が育て上げた坊ちゃんや。やっぱり若の為に、その力を使うてほしいんや。頭も、ほんまはそう思てはる」
波多野さんは、旦那さまの両手を握りしめて、ぶんぶんと振ります。
旦那さまは困ったように、わたくしに視線を向けてきます。
言葉にはなりませんが、そのすがるような目が「タスケテ」と言っているようです。
それにしても、びっくりです。
旦那さまは、お清さんに育てられたのだとばかり思っていました。でも、それにしては微かに見え隠れする少年時代が、たいそうやんちゃそうなのです。
虐待を受けていて苦しかった幼少時代の、その後。少年の頃のことは、あまり話してくださいませんけど。
なるほど、察しました。
虐げられた幼少時代を過ぎて、旦那さまはたいそう伸び伸びとお育ちになったのですね。それもちょっぴり武闘派方面に。
旦那さまが女学校の先生で良かったと、心底思いました。これが男子ばかりの高等学校でしたら、もっと武骨で粗雑で荒っぽくて、わたくしなど口をきくこともできなかったでしょう。
爽快な朝のはずですのに、高瀬家の門の前には晴れやかな笑顔の琥太郎さんと、その後ろに怖そうな面々が二人、控えています。
お一人は斉川さん。もう一人は年配の方で、着流し姿が昔ながらの任侠と言う感じです。
琥太郎さんと斉川さんが、洋装なので余計に目立ちます。
「エリスを預けに来てん。私らは今日から会合があってな、組長の代理で出席せなあかんねん。ほんで家を空けるから。まぁ三日間だけやけど、頼むわ」
エリスの入った籐のかごを、琥太郎さんはわたくしに手渡しました。
すこーしだけ蓋を開いて覗いてみると、金色のふわふわの毛が見えて、エリスが眠たそうに目を開きました。
かわいいです。朝から素敵なものを見せていただきました。
「翠子さんは、夏休みやもんな。ちょうどよかったわ。うちに置いとったら、組員の被害続出やし」
「元彼女にでも預けたらいいんじゃないのか?」
「お断りや」
旦那さまの提案を、琥太郎さんは一蹴なさいます。
「なーんで、今更連絡とらなあかんのや。面倒くさい。勘違いされて、べたべたされたら迷惑や」
「琥太郎さん、おもてになるんですね」
「欧之丞ほどやあらへん」
しれっとした口調で琥太郎さんは仰いました。旦那さまは慌てて、彼の口を手でふさぎます。
「俺は琥太兄と違って、見境なく付き合ったりしない」
「ふごふご……ふご」
「そもそも好きでもないくせに、結婚するつもりもないくせに、どうして相手に期待を抱かせるようなことをするかな」
「もがもが……ええ加減にせぇ。しゃべられへんやろ」
琥太郎さんは、旦那さまの腕を振りほどきました。
背後の斉川さんは呆れたような顔をなさっていますが、もうお一人の年配の方はなぜか拳を目に当てていらっしゃいます。
土埃でも目に入ったのでしょうか。
「また琥太郎坊ちゃんと坊が仲ようしとんのを、見られるやなんて。長生きはするもんや」
え、泣いてらっしゃるんですか? 白髪交じりの角刈りで、とても怖そうですのに。
「若頭やろ、波多野。誰が琥太郎坊ちゃんやねん」
「俺ももう坊という年じゃない」
同時に二人に叱責されて、波多野さんはさらに涙ぐみました。
「お二人とも立派になられて。この波多野、夢やったんです。若と坊がお二人でうちの組を盛り立ててくれるのを。坊やったら、若を守ってくれはるでしょ」
「……数学教師だぞ、俺」
「なんも肉の盾になれとは、言わへん。坊にそんな無体なことはさせられへんからな。でも、この波多野が育て上げた坊ちゃんや。やっぱり若の為に、その力を使うてほしいんや。頭も、ほんまはそう思てはる」
波多野さんは、旦那さまの両手を握りしめて、ぶんぶんと振ります。
旦那さまは困ったように、わたくしに視線を向けてきます。
言葉にはなりませんが、そのすがるような目が「タスケテ」と言っているようです。
それにしても、びっくりです。
旦那さまは、お清さんに育てられたのだとばかり思っていました。でも、それにしては微かに見え隠れする少年時代が、たいそうやんちゃそうなのです。
虐待を受けていて苦しかった幼少時代の、その後。少年の頃のことは、あまり話してくださいませんけど。
なるほど、察しました。
虐げられた幼少時代を過ぎて、旦那さまはたいそう伸び伸びとお育ちになったのですね。それもちょっぴり武闘派方面に。
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