【第ニ部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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二章

27、梅酒 ※文子視点

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 こちらが食べ終わる頃を見計らって、次の料理が運ばれてくる。焼き物は鯵の茗荷巻き。茗荷を鯵の身で巻いた、くるりと楽しい形で器に盛られている。
 青じそを散らして、それがまた爽やかな味と色を演出しているの。

「美味しいです。いくらでも食べられちゃいますね」
「好き嫌いのない子は、ええなぁ。欧之丞は、甘いもんが苦手で、全然食べへんわ」
「甘い物が苦手だから、先生はあんな苦虫を噛み潰したような顔をなさっているのかしら」

 何気なく言った言葉だったのに、琥太郎さんは盛大に笑った。
 ちょっと言い過ぎたかしら。一応担任の先生なのよね。
 鯵をひとくち分にお箸で切りながら、ちょっと焦ってしまった。

 でも、琥太郎さんはまだお腹を抱えて笑っている。

「あいつ、言われたい放題やな。翠子さんは、欧之丞にそこまで言わへんから、ちょうどええやろ」
「あのー、やっぱり失礼だったでしょうか」
「ええで。もっと言うたっても。せやないとあいつ、増長するからな」

 いえ、そんな風に焚きつけられても先生に喧嘩は売れませんよ。担任の先生っていうのもあるけれど、翠子さんの旦那さまでもあるわけだし。
 わたしにとっては、高瀬先生は厄介な人だけど。翠子さんが女学校を退学せずに済んでいるのは、先生のお陰でもあるんだから。

 わたしは小さなグラスに入った梅酒を、くいっと飲んだ。ついでにふっくらと丸い青梅を口に入れる。
 果肉を噛むと、しっかりと甘いシロップが溢れ出て。
 とても美味しいのだけど。

「もしかして、この梅って砂糖だけじゃなくてお酒もたっぷりと沁みてるわよね」
「ん? どうしたん。文子さん」

 琥太郎さんに尋ねられて「いえ、なんでもありません」と答えたけれど。どうしよう、眠くなっちゃったら。
 えーと、お品書きは……。

 わたしはお皿の陰に隠れた、和紙に記されたお品書きを確認した。
 さっきの鯵は焼物だから、あとは揚物の蓮根の挟み揚げ、それに酢の物。留椀って、お吸い物のことかしら。
 まって、まだご飯があるわ。お漬物も……それに水物って果物のことよね。

 あと何分かかるの? 下手したらさらに一時間以上、食事にかかりそうよ。
 わたし、起きていられるのかしら。

 ううん。こんな高級な料亭で、しかも場慣れしている琥太郎さんの前で、眠りこけてしまうなんて駄目よ、絶対に。
 恥ずかしいのも当然だけど、きっとお見合い自体が破談になるわ。
 
 お兄さんは、わたしが破談になったら喜ぶだろうけど。
 でも……琥太郎さんに恥ずかしい姿も見せたくないし「あの子、あかんかったわ」なんて幻滅されたくない。

 頑張って、わたし。起きるのよ。せめて自室に戻るまでは。
 
「文子さん、ほんまにどうしたん? 具合悪いんやったら、もう部屋に戻ろか」
「いえ、平気なので。気になさらないでください」

 こんな時に二人きりで対面した状態っていうのは、本当に困る。
 わたしは運ばれてきた蓮根の挟み揚げをいただいた。

「天つゆに大根おろしもええけど、塩だけでも合うで」
「ええ、かりっと揚がっていておいしいですね」

 笑顔で答えるけれど、味は半分くらいしかわからない。挟んであるのが海老のすり身で、きっとちゃんと味わったら、甘みも感じられていいのだろうけど。
 今は睡魔が襲ってこないか心配で心配で。それどころじゃない。
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