119 / 194
三章
44、懐かしい日々【2】※琥太郎視点
しおりを挟む
雪の中で、かじかんだ手を真っ赤にしながら。小さい欧之丞は、私の母さんに淡い黄色いマフラーを巻いてもろとった。
長く使えるようにと、長めに編んだマフラーは当時の欧之丞にはでかくて。まさに、ぐるぐる巻きやった。
「あ、ありがとう、俺に? おばさんが編んでくれたの?」
「そうねぇ。妖精さんとか小人さんが手伝ってくれたの」
母さんの言葉の意味が掴めずに、欧之丞は首を傾げとった。
けど「琥太郎と色違いのお揃いよ」と母さんに言われて、すっごく嬉しそうに笑たんや。
翠子さんと暮らし始めてから、今の欧之丞はよう笑うけど。子どもの頃も大人になっても、そんなに笑う奴やなかった。
せやから、すごい印象に残ったんや。
冷えきった欧之丞の手を、母さんは握って温めていた。
「これ、このマフラー。琥太兄といっしょ?」
「そう。いいでしょ? 欧之丞さんは黄色が似合うわ」
「うん、すっごくいい。俺、ずっと使う。毎日使う」
あいつもなぁ、ほんまに私のことが好きやから。照れるやんか。
大人になってからは、ちょっと反抗期なんかしらんけど。私に突っかかってくることもあるけどな。
まぁ、反抗できる場所もあった方がええやろ。
私は、欧之丞のお兄ちゃんみたいなもんなんやからな。一年先に生まれたんやから、しょうがないよな。
けど、父さんの編んだマフラーを欧之丞は大人になっても、ぼろぼろになっても使とって。
しかもそれが、迷子になっとった幼い翠子さんと出会うきっかけになったんやから。
不思議な縁やな。幼い欧之丞が使とったマフラーを、同じくらいの小さい翠子さんが巻いて。
あの二人の間には長い時間があって。それをちょっと羨ましいと思うのは内緒や。
欧之丞はその後、山のように雪ウサギを量産しとった。
よっぽどマフラーが嬉しかったんやろ。髪やら肩に雪を積もらせても無心でウサギをこしらえて。
父さんが「しゃあないなぁ。欧之丞は」と苦笑しながら、しゃがみこんでウサギを作る欧之丞に傘を差しかけてやっとった。
私はもちろん、火鉢の側で本を読んどった。
こんな寒い日に、雪が降って北風も吹く庭で遊ぶなんて、犬やないねんから。
「琥太兄」
「……なんだよ」
「人手が足りないから、来て」
「は?」
マフラーをぐるぐるに巻いて、真っ赤な手をした欧之丞が縁側から部屋に入り込んでくる。
「手袋もいるよなぁ」と、父さんは頷いとったけど。
こっちはそれどころやなかった。
「いやや。外は寒いもん」
「庭一面にウサギをしきつめるの、俺だけじゃ無理だもん」
逃げようとしたら、欧之丞に背後からのしかかられた。
うわっ。つめたっ。冷気が直に伝わって来て、私は身を震わせた。
「ウサギ、もうたくさん作っとんやから。それでええやん」
「やだっ。琥太兄と作る」
「別にぼくじゃなくても」
「やっ!」
林檎のように赤くした頬を、ぷーっと膨らませて欧之丞は私のセーターの裾を掴んだ。
「伸びる、セーターが伸びるっ」
「琥太兄が『うん』って言ったら離す」
「それ、脅しやんか」
もーう、ほんまに欧之丞は困った奴や。私には我儘放題で……というか、私以外に我儘を言うとんのを見たことはないけどな。
多分、今は翠子さんに対しても我儘の言い放題なんとちゃうやろか。心配やなぁ。
「琥太郎さん。諦めて、一緒にウサギさんを作ったら?」
「けどぉ」
渋る私に、母さんはにこにこと笑顔を向けていた。
母さんなりに心配しとったんやろ。あんまり外で遊ばずに、本ばかりを読んでいる息子を。
けど、なにも一番寒い日やのうてもええのにな。
「はい。琥太兄に貸してやる」と言って、欧之丞は冷えきった茶碗を差し出してきた。
古い茶碗の形を見て「ああ、だからウサギがいびつなんやな」と分かった。角度が急なんや。
長く使えるようにと、長めに編んだマフラーは当時の欧之丞にはでかくて。まさに、ぐるぐる巻きやった。
「あ、ありがとう、俺に? おばさんが編んでくれたの?」
「そうねぇ。妖精さんとか小人さんが手伝ってくれたの」
母さんの言葉の意味が掴めずに、欧之丞は首を傾げとった。
けど「琥太郎と色違いのお揃いよ」と母さんに言われて、すっごく嬉しそうに笑たんや。
翠子さんと暮らし始めてから、今の欧之丞はよう笑うけど。子どもの頃も大人になっても、そんなに笑う奴やなかった。
せやから、すごい印象に残ったんや。
冷えきった欧之丞の手を、母さんは握って温めていた。
「これ、このマフラー。琥太兄といっしょ?」
「そう。いいでしょ? 欧之丞さんは黄色が似合うわ」
「うん、すっごくいい。俺、ずっと使う。毎日使う」
あいつもなぁ、ほんまに私のことが好きやから。照れるやんか。
大人になってからは、ちょっと反抗期なんかしらんけど。私に突っかかってくることもあるけどな。
まぁ、反抗できる場所もあった方がええやろ。
私は、欧之丞のお兄ちゃんみたいなもんなんやからな。一年先に生まれたんやから、しょうがないよな。
けど、父さんの編んだマフラーを欧之丞は大人になっても、ぼろぼろになっても使とって。
しかもそれが、迷子になっとった幼い翠子さんと出会うきっかけになったんやから。
不思議な縁やな。幼い欧之丞が使とったマフラーを、同じくらいの小さい翠子さんが巻いて。
あの二人の間には長い時間があって。それをちょっと羨ましいと思うのは内緒や。
欧之丞はその後、山のように雪ウサギを量産しとった。
よっぽどマフラーが嬉しかったんやろ。髪やら肩に雪を積もらせても無心でウサギをこしらえて。
父さんが「しゃあないなぁ。欧之丞は」と苦笑しながら、しゃがみこんでウサギを作る欧之丞に傘を差しかけてやっとった。
私はもちろん、火鉢の側で本を読んどった。
こんな寒い日に、雪が降って北風も吹く庭で遊ぶなんて、犬やないねんから。
「琥太兄」
「……なんだよ」
「人手が足りないから、来て」
「は?」
マフラーをぐるぐるに巻いて、真っ赤な手をした欧之丞が縁側から部屋に入り込んでくる。
「手袋もいるよなぁ」と、父さんは頷いとったけど。
こっちはそれどころやなかった。
「いやや。外は寒いもん」
「庭一面にウサギをしきつめるの、俺だけじゃ無理だもん」
逃げようとしたら、欧之丞に背後からのしかかられた。
うわっ。つめたっ。冷気が直に伝わって来て、私は身を震わせた。
「ウサギ、もうたくさん作っとんやから。それでええやん」
「やだっ。琥太兄と作る」
「別にぼくじゃなくても」
「やっ!」
林檎のように赤くした頬を、ぷーっと膨らませて欧之丞は私のセーターの裾を掴んだ。
「伸びる、セーターが伸びるっ」
「琥太兄が『うん』って言ったら離す」
「それ、脅しやんか」
もーう、ほんまに欧之丞は困った奴や。私には我儘放題で……というか、私以外に我儘を言うとんのを見たことはないけどな。
多分、今は翠子さんに対しても我儘の言い放題なんとちゃうやろか。心配やなぁ。
「琥太郎さん。諦めて、一緒にウサギさんを作ったら?」
「けどぉ」
渋る私に、母さんはにこにこと笑顔を向けていた。
母さんなりに心配しとったんやろ。あんまり外で遊ばずに、本ばかりを読んでいる息子を。
けど、なにも一番寒い日やのうてもええのにな。
「はい。琥太兄に貸してやる」と言って、欧之丞は冷えきった茶碗を差し出してきた。
古い茶碗の形を見て「ああ、だからウサギがいびつなんやな」と分かった。角度が急なんや。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる