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四章
3、二樂荘【3】※琥太郎視点
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前から来たいと思とった二樂荘は、なかなかに派手やった。
建てた人が、絲綢之路を探検したとかで興味があったんや。
アラビア風の部屋は黒と白の大理石の床で、室内やゆうのに四角い池があって噴水まである。
湿気へんのやろか、部屋ん中。
イギリス風の部屋に印度風の部屋。調度品はそれぞれの国から取り寄せたらしいけど。
「意外やなぁ。絲綢之路とあんまり関係なさそうや」
管理人に案内されながら、私は呟いた。
莫高窟で有名な敦煌や、万里の長城の西端の嘉峪関を越えて、さらに端の端とか。
西域の砂漠に埋もれかけた故城とか、雪を頂いた白い天山山脈とか、そういうのを想像しとったから。
上海は行ったことがあるけど。さすがに西域は探検隊でも組まな行かれへんからな。
二階の図書館に案内され、お嬢さん達二人に椅子を勧めると、文子さんも翠子さんも神妙な顔をして座った。
ん? なんで欧之丞まで神妙な面持ちやねん。
私は机を挟んで翠子さんの向かいの席に座った。
「さて、翠子さんは古文と漢文が苦手なんやって? あと英語」
「は、はひ」
おやおや、声が上ずっとうで。琥太郎兄ちゃんは、別にそんなに怖ないんやで? むしろ欧之丞の方が怖いやろ。
なんせ「恐ろしの君」やからな。
がちがちに緊張しとう翠子さんに微笑んであげる。
だいたいのお嬢さんは、これでぽわーんとなる。残念ながら文子さんは、あんまりならへんけど。
「う……ううっ」
え? なんで涙目なん?
「琥太兄。翠子さんを虐めるなよ」
「虐めてへんって」
困ったなぁ。出会った頃に揶揄いすぎたからやろか。
欧之丞は渋々といった様子で、文子さんの向かいに座る。
お前な、仮にも受け持ちの生徒やろ。もっとにこにこしぃや。
そして文子さんは、口をへの字に引き結んでいる。
多分、この一瞬で二樂荘の図書館が、女学校の教室へと変わってしもたんやろ。
なーんで文子さんも翠子さんも勉強が苦手なんやろ。知識が広がって楽しいのになぁ。
欧之丞は、文子さんに数学の問題の解き方を指導している。公式は覚えられるし、計算はできるようやけど。文子さんは応用問題が苦手らしい。
それにしても、欧之丞も先生なんやな。
文子さんが間違えても、苛々することもなく根気よく教えている。
欧之丞のくせに大人になってしもて。なんか琥太郎兄ちゃん、感動やわ。
「琥太兄。なんでにこにこしてるんだ?」
「いーや。別にぃ」
「変な琥太兄」
翠子さんは、一心不乱に漢字とカタカナの送り仮名が羅列した文字を眺めとった。
「あんな、翠子さん。漢字やから読めると思たら大間違いやで。漢文はいわば外国語をむりやり日本語に……古文に直しとんや。せやから、漢字の部分は漢和辞典で、送り仮名は古語辞典で調べるんやで」
私の言葉に、翠子さん目を丸くした。
え? 君、それを知らんかったん?
「あのな、書き下した時にひらがなになる部分あるやろ? それが助詞と助動詞で、それを適当に訳したら意味が全然違ってくるんやで。せやからむしろ、ひらがなになる部分が大事やねん」
文子さんも欧之丞も手を止めて、私の方を眺めとった。
え? なんで?
「俺、ずっと感覚で訳してた」
「わたしも……」
君ら、ようそれで乗り切ってこられたな。
しかも欧之丞、お前別に漢文の成績悪なかったよな。むしろ、どの科目もさほど勉強しとうわけでもないのに、すらすら解いとった。
感覚やって、こわっ。
琥太郎兄ちゃんは、そういうのよう分かりません。
建てた人が、絲綢之路を探検したとかで興味があったんや。
アラビア風の部屋は黒と白の大理石の床で、室内やゆうのに四角い池があって噴水まである。
湿気へんのやろか、部屋ん中。
イギリス風の部屋に印度風の部屋。調度品はそれぞれの国から取り寄せたらしいけど。
「意外やなぁ。絲綢之路とあんまり関係なさそうや」
管理人に案内されながら、私は呟いた。
莫高窟で有名な敦煌や、万里の長城の西端の嘉峪関を越えて、さらに端の端とか。
西域の砂漠に埋もれかけた故城とか、雪を頂いた白い天山山脈とか、そういうのを想像しとったから。
上海は行ったことがあるけど。さすがに西域は探検隊でも組まな行かれへんからな。
二階の図書館に案内され、お嬢さん達二人に椅子を勧めると、文子さんも翠子さんも神妙な顔をして座った。
ん? なんで欧之丞まで神妙な面持ちやねん。
私は机を挟んで翠子さんの向かいの席に座った。
「さて、翠子さんは古文と漢文が苦手なんやって? あと英語」
「は、はひ」
おやおや、声が上ずっとうで。琥太郎兄ちゃんは、別にそんなに怖ないんやで? むしろ欧之丞の方が怖いやろ。
なんせ「恐ろしの君」やからな。
がちがちに緊張しとう翠子さんに微笑んであげる。
だいたいのお嬢さんは、これでぽわーんとなる。残念ながら文子さんは、あんまりならへんけど。
「う……ううっ」
え? なんで涙目なん?
「琥太兄。翠子さんを虐めるなよ」
「虐めてへんって」
困ったなぁ。出会った頃に揶揄いすぎたからやろか。
欧之丞は渋々といった様子で、文子さんの向かいに座る。
お前な、仮にも受け持ちの生徒やろ。もっとにこにこしぃや。
そして文子さんは、口をへの字に引き結んでいる。
多分、この一瞬で二樂荘の図書館が、女学校の教室へと変わってしもたんやろ。
なーんで文子さんも翠子さんも勉強が苦手なんやろ。知識が広がって楽しいのになぁ。
欧之丞は、文子さんに数学の問題の解き方を指導している。公式は覚えられるし、計算はできるようやけど。文子さんは応用問題が苦手らしい。
それにしても、欧之丞も先生なんやな。
文子さんが間違えても、苛々することもなく根気よく教えている。
欧之丞のくせに大人になってしもて。なんか琥太郎兄ちゃん、感動やわ。
「琥太兄。なんでにこにこしてるんだ?」
「いーや。別にぃ」
「変な琥太兄」
翠子さんは、一心不乱に漢字とカタカナの送り仮名が羅列した文字を眺めとった。
「あんな、翠子さん。漢字やから読めると思たら大間違いやで。漢文はいわば外国語をむりやり日本語に……古文に直しとんや。せやから、漢字の部分は漢和辞典で、送り仮名は古語辞典で調べるんやで」
私の言葉に、翠子さん目を丸くした。
え? 君、それを知らんかったん?
「あのな、書き下した時にひらがなになる部分あるやろ? それが助詞と助動詞で、それを適当に訳したら意味が全然違ってくるんやで。せやからむしろ、ひらがなになる部分が大事やねん」
文子さんも欧之丞も手を止めて、私の方を眺めとった。
え? なんで?
「俺、ずっと感覚で訳してた」
「わたしも……」
君ら、ようそれで乗り切ってこられたな。
しかも欧之丞、お前別に漢文の成績悪なかったよな。むしろ、どの科目もさほど勉強しとうわけでもないのに、すらすら解いとった。
感覚やって、こわっ。
琥太郎兄ちゃんは、そういうのよう分かりません。
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