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四章
5、いい子ではありません
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別荘の前まで車で送っていただき、わたくしと旦那さまは文子さん達と別れました。
久しぶりのお勉強は、本当に疲れますね。まだ午後だというのに。もう、ぐったりです。
「まぁ、いいんじゃないか。これで残している課題はないだろう?」
「はい、なんとか」
まだ夏季休暇は残っているのに。宿題を終えたことは、これまでの人生でありません。
人として大人として成長した気がするんです。
そう告げると、旦那さまはしばらく真顔でいらしたのに。
ぶーっと吹きだしたんです。
「どうして笑うんですか? 失礼ですよ」
「ごめん、ごめん。いや、俺に急かされなければ数学の宿題は放ったらかしだったろうし。琥太兄に誘われなければ、国語関連も放置していただろうなと思って」
まぁ、否定はしませんけど。
ずっしりと重い辞書や筆記帳を包んだ風呂敷を、旦那さまが持ってくださいます。
「そういえば今月号の『少女画報』と『少女の友』が届いているぞ」
「え?」
旦那さまの言葉に、一瞬にして眠気が吹き飛んでしまいました。
でも、今日は朝から二樂荘にお出かけしていましたよ。今もまだ別荘に入ってもいません。
どうして、そんなことがお分かりになるの?
「昨日、届いていたんだ」
「きのう? 教えてくださればよかったのに」
「翠子さんは、宿題よりも読書……雑誌は読書の範疇なのか? まぁいい、読書を優先させるだろ」
否定はできません。
わたくしは井戸水で手を洗い、いそいそと雑誌を受け取りました。
お部屋で読もうかしら。それとも居間のソファーにしようかしら。
迷いつつ、居間へと入っていきます。
ああ、素敵。もう宿題をすべて終えたんですもの、何も気にすることなく読書できるのよ。
……すべて?
「あっ!」
わたくしは大切なことを忘れていたことに気づきました。
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもありません」
旦那さまがしゃがみこんで、わたくしの顔を覗きこんできます。
そーっと、目を逸らしたのですが。それで見逃してくださるはずもありませんよね。
「翠子さん?」
「そうだわ。教材を片付けないと」
「翠子さん?」
「じゃあ、わたくしお二階へ参ります。失礼します」
そーっと居間から出ようとしたのに。まるで鐵道の遮断機が下りるように、旦那さまの腕が通せんぼをしたんです。
ええ、踏切番人かつ遮断機ですよ。
「三度目は訊かないよ?」
真顔で旦那さまに凝視されました。
うう、怖いです。
でも、今から雑誌を読むの。そう決めたんですもの、今日は一日お勉強を頑張ったんですもの。
「少し忘れたことを思い出しただけです」
「それは俺には言えないこと?」
こくりと、わたくしは頷きました。
でも、旦那さまの目の力が強くて。思わず瞼を閉じてしまったの。
普段は慣れているからあまり感じないんですけど。
旦那さまのお顔は、怖いんですもの。
眉はきゅっと上がって、目だってつり上がって。しかも口はへの字に結ばれているの。
「お、女の子の秘密なんです。きゃっ」
突然、わたくしは頭を撫でられました。
訳が分かりません。だって隠し事をしているから、叱られるのなら理解できるんですよ。なのに。
なでなで、という感じでわたくしは頭を撫で続けられます。
「よしよし、翠子さんはいい子だな」
え? いい子ではありませんよ。現に今、旦那さまに隠し事をしているじゃないですか。
「宿題も頑張った。お清の手伝いもしてくれている」
「それは、当たり前のことで……」
でも、宿題は琥太郎さんに急かさせたから、終えることが出来ただけです。というか、正確には終わっていないかも……。
「こんないい子がうちにいて、俺は果報者だ」
久しぶりのお勉強は、本当に疲れますね。まだ午後だというのに。もう、ぐったりです。
「まぁ、いいんじゃないか。これで残している課題はないだろう?」
「はい、なんとか」
まだ夏季休暇は残っているのに。宿題を終えたことは、これまでの人生でありません。
人として大人として成長した気がするんです。
そう告げると、旦那さまはしばらく真顔でいらしたのに。
ぶーっと吹きだしたんです。
「どうして笑うんですか? 失礼ですよ」
「ごめん、ごめん。いや、俺に急かされなければ数学の宿題は放ったらかしだったろうし。琥太兄に誘われなければ、国語関連も放置していただろうなと思って」
まぁ、否定はしませんけど。
ずっしりと重い辞書や筆記帳を包んだ風呂敷を、旦那さまが持ってくださいます。
「そういえば今月号の『少女画報』と『少女の友』が届いているぞ」
「え?」
旦那さまの言葉に、一瞬にして眠気が吹き飛んでしまいました。
でも、今日は朝から二樂荘にお出かけしていましたよ。今もまだ別荘に入ってもいません。
どうして、そんなことがお分かりになるの?
「昨日、届いていたんだ」
「きのう? 教えてくださればよかったのに」
「翠子さんは、宿題よりも読書……雑誌は読書の範疇なのか? まぁいい、読書を優先させるだろ」
否定はできません。
わたくしは井戸水で手を洗い、いそいそと雑誌を受け取りました。
お部屋で読もうかしら。それとも居間のソファーにしようかしら。
迷いつつ、居間へと入っていきます。
ああ、素敵。もう宿題をすべて終えたんですもの、何も気にすることなく読書できるのよ。
……すべて?
「あっ!」
わたくしは大切なことを忘れていたことに気づきました。
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもありません」
旦那さまがしゃがみこんで、わたくしの顔を覗きこんできます。
そーっと、目を逸らしたのですが。それで見逃してくださるはずもありませんよね。
「翠子さん?」
「そうだわ。教材を片付けないと」
「翠子さん?」
「じゃあ、わたくしお二階へ参ります。失礼します」
そーっと居間から出ようとしたのに。まるで鐵道の遮断機が下りるように、旦那さまの腕が通せんぼをしたんです。
ええ、踏切番人かつ遮断機ですよ。
「三度目は訊かないよ?」
真顔で旦那さまに凝視されました。
うう、怖いです。
でも、今から雑誌を読むの。そう決めたんですもの、今日は一日お勉強を頑張ったんですもの。
「少し忘れたことを思い出しただけです」
「それは俺には言えないこと?」
こくりと、わたくしは頷きました。
でも、旦那さまの目の力が強くて。思わず瞼を閉じてしまったの。
普段は慣れているからあまり感じないんですけど。
旦那さまのお顔は、怖いんですもの。
眉はきゅっと上がって、目だってつり上がって。しかも口はへの字に結ばれているの。
「お、女の子の秘密なんです。きゃっ」
突然、わたくしは頭を撫でられました。
訳が分かりません。だって隠し事をしているから、叱られるのなら理解できるんですよ。なのに。
なでなで、という感じでわたくしは頭を撫で続けられます。
「よしよし、翠子さんはいい子だな」
え? いい子ではありませんよ。現に今、旦那さまに隠し事をしているじゃないですか。
「宿題も頑張った。お清の手伝いもしてくれている」
「それは、当たり前のことで……」
でも、宿題は琥太郎さんに急かさせたから、終えることが出来ただけです。というか、正確には終わっていないかも……。
「こんないい子がうちにいて、俺は果報者だ」
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