【第ニ部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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四章

25、くっついています

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 結局、わたくしは旦那さまの腕の中で再び眠ることになりました。
 でもね、目が冴えてしまって眠れないの。

「あの……お化けなんて出ませんよね」
「ん? 出ないんじゃないかな」

 わたくしを腕に閉じ込めながら、旦那さまは呑気そうに仰います。
 そんな無責任な。
 だって山にもお化けや妖怪が出るって仰ったじゃないですか。

 でも、平気ですよね。
 これまでこの別荘に長く滞在していましたけど。怖い思いはしていませんもの。

 その時、ぴしっという音が聞こえました。

 ひっ。なに?

 わたくしは旦那さまにしがみつきます。もしかして何か出るのでしょうか。

「こ、怖いです」
「いや、ただの家鳴りだろ」
「ヤナリっていうお化けですか?」

 この別荘はお化け屋敷だったなんて。わたくし、知らなかったの。
 しっかりと旦那さまに抱きついているのに。どうしてそんなに楽しそうなんですか?

「仕方ないなぁ。翠子さんは怖いだろうから、一緒に寝てあげるよ」
「はい、お願いします」

 いつもベッドが並んでいる状態ですけど。こうしてぴったりとくっついていれば、お化けが出ても怖くないですよね。

 わたくしと旦那さまの狭い隙間に、エリスが頭を突っ込んできます。
 まぁ。まったく隙間がなければ、さらに安全です。

「こら、エリス。少しは気を利かせろ。俺はかなり譲歩してやったぞ」
 
 そんな難しい言葉が理解できるのかどうか分かりませんが。エリスは、結局わたくしの上に乗っかりました。
 わたくしは横を向いているので、ちょうど肩から腕にかけてです。

 よくそんな不安定な位置で眠れるものだと思うのですが。どうやら尻尾で体の均衡をとっているようです。器用ですね。

 ゴロゴロとエリスが喉を鳴らす音。旦那さまにしっかりと包まれる感触。
 これでもうお化けも怖くありません。

◇◇◇

 俺の腕の中にいるのと、体の上にエリスを乗せていることもあって、どうやら翠子さんは安心したようだ。
 すぐに瞼を閉じて、眠ってしまった。

「まったく、相手が俺だからいいものの。すぐに男を信用するのは、危ないんだぞ」

 柔らかくさらりとした前髪に、キスを落とす。
 俺はあなたを守ってあげられているだろうか。

 まぁ、お化けが出ると脅すのは守っているとは言い難いよな。
 それは例外として。

 こうして何かあれば、翠子さんは一番に俺を頼ってくれるのがとても誇らしい。
 俺もあなたも実の親には、家族としての縁がなかった。
 実の母に死にそうになるまで虐待され、琥太兄の家に引き取られて大事に育ててもらった俺。

 叔父の借金の所為で、両親に遊郭に売り飛ばされそうになった翠子さん。
 子どもだった俺を慈しんでくれた琥太兄の両親のように、俺は翠子さんの心の支えになれているだろうか。
 あなたにとって一番安心できる場所になれているだろうか。
……なっているよな?

 腕の中の翠子さんの体温が、少し高くなった気がした。
 規則正しい呼吸の音。
 寝間着に包まれた胸が、微かに上下している。

 あなたを抱きしめていると、本当に心が落ち着くんだ。
 あなたもそうだといいな。
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