【第ニ部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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五章

14、そんなつもりやなかった ※琥太郎視点

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 ほんの少し車を走らせたら、すぐに欧之丞の別荘が見えてきた。
 私はハンドルを左に切って、細い道を入っていく。
 左右から伸びる木々の枝や、丈の長い草。

 木下闇こしたやみに咲く白い花は、ぼんやりと浮かび上がって見える。車が走ったせいで、その小さい花は一斉に揺れた。
 それは「いらっしゃい」とも「なんで来るんや」ともとれるように思えた。
 ま、私の気分次第やな。
 欧之丞が「来るなよ」といっても、兄ちゃんが来たいと思たら、来てええねん。

「先生に連絡はしているんですか?」
「まっさかー」
「……迷惑顔をされますよ?」

 文子さんは指摘するけど。もーぉ、分かってへんなぁ。
 欧之丞は嫌そうな顔しても、私のことを嫌がってへんねん。

 ちょうど欧之丞らも帰宅するところやったんか、運転手付きの黒いパッカードが二台、止まっとった。ちょうど南国ボーイ銀司くんと欧之丞が荷物を運んどう。

「あ、文子さん」

 エリスを抱っこした翠子さんが、私の車に気づいて手を上げる。
 翠子さん。琥太郎兄ちゃんもおるんやで、文子さんのおまけでええから思い出して?

 文子さんは急いで車から降りて(私がドアを開けるのも待たんと)翠子さんの元へ駆け寄った。
 二人でエリスを囲んで、にこにこと微笑みあっている。

 ああ、ええ光景やなぁ。
 車のボンネットに寄りかかりながら、和やかな二人を眺めとった。文子さんと翠子さんが微笑みあうと、目には見えへん薄紅の花びらの淡い影がぱぁっと舞うようや。
 それは互いに思いあう優しさを透かしてた。

 高地やからもう秋になりかけてるんやけど。まるで二人の間には春が舞い戻ってきたように思えた。
 
「なんだ、早いな。もう出るのか」

 欧之丞はシャツの袖をめくりあげて、運転手に荷物を渡していた。
 案の定、眉根を寄せて、車から降りた私を見据える。
 ほんまに素直やないなぁ。
 どーして文子さんや翠子さんみたいに、できへんのかなぁ。昔は、あんなに可愛くて兄ちゃんに甘えてきてたのに。

 私は両腕を広げて、欧之丞の前に立った。

 一瞬、その場にいた全員が沈黙した。
 お清さんや銀司くんまでやなく、二人の運転手までもや。

 さわさわと木々の枝を揺らす音、小鳥のさえずり、なんか知らんけどコツコツという音(たぶんキツツキやと思うけど)が、聞こえてくる。

「……なんでしょうか?」

 頬をこわばらせて、微妙な口調で欧之丞が問いかけてくる。

「兄ちゃんの方が先に帰るから。寂しいやろ? ハグしたろ」
「はぐ?」
「ぎゅーってしたろ、っていうことや」

 あ、欧之丞の眉間の皺が深くなった。

「それは何かの罰なのか? それとも拷問か?」
「ちゃうって。ほんまに愛情表現やん」
「嫌がらせとしか思えない」

 だが、意外と察しのよい欧之丞は「ははーん」と口の端を上げた。あ、これ、意地悪を思いついた顔や。
 私は両腕を広げた状態のまま、ちょっと緊張した。

 欧之丞は腰に手を当てて、顎を上げている。
 うわー、性格悪そうな顔っ。

「ハグとやらをさせてやる。どうぞ」
「うっ」
「ほら、歩み寄って来れば? ここで待っててやるから」

 なんて意地悪い子ぉなんや。
 私の予定では、互いに歩み寄って肩を軽く抱く程度だったんです。
 あ、私まで緊張して脳内の口調がおかしなってもた。

「あの、そんな無理せんでもええで」
「無理? 琥太兄の願いなら叶えてあげたいだろ」

 なんて嬉しい言葉なんや。
 けどな、欧之丞。ジブン、顔が凶悪やで。なんか目が据わってるやん。
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