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二章

12、自業自得だ

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 アフタルの目に映ったのは、壁に突き刺さった棒だった。
 その横には、恐怖に目を見開いたロヴナの顔があった。

「残念。目測を誤った」

 シャールーズは力任せに、棒状の残骸を抜く。壁には深い穴が開いていた。

「な、なな、なにを」
「お前はアフタルを叩いた。普通、叩いたら叩き返されるもんじゃねぇのか?」

 割れて尖った木の先端を突きつけられたロヴナは、言葉もない。力なく壁にもたれて、座りこんでしまっている。

「だが俺やアフタルは、お前みたいに相手を痛めつけて遊ぶ趣味の悪さは持っていない。お前が言うべきことを言えば、解放してやるぜ」
「……ま……せん」
「聞こえない」
「ひぃっ」

 シャールーズがしゃがみ込んで、ロヴナの顔を覗きこんだ。それだけでロヴナは、ひきつった悲鳴を上げる。

「も……もう、アフタル王女に……手は出しません」
「信用できねぇな」

 ようやく絞りだした言葉だったのに、シャールーズの返事は予期せぬものだったのだろう。

「口約束なんか、あてにならねぇ」

 それまで冷ややかな怒りをたたえていた顔に、陰りがよぎる。
 深い喪失を感じさせるような、暗さだ。

「あんた商人の息子だよな。証文とかあった方が……ああ、ここには筆記具がねぇな。血文字でも構わねぇぜ」
「……血文字?」
「指先を切るってのも、つまらねぇ。どこがいい? 選ばせてやる」

 シャールーズを見上げるロヴナの視線は泳いでいる。

「どこって……いったい」

 シャールーズは木の先端で、まずロヴナの首に触れた。ひぃ、としわがれた声をロヴナが上げる。次に触れたのは手首だ。

「ぼ、ぼくに死ねと?」
「深く切らなきゃ、死には至らねぇだろ」

「待って、シャールーズ」

 さすがにアフタルは飛び出した。
 ロヴナは恐怖に打ち震えている。もう充分だ。これ以上、すべきではない。

「いいのか?」

 アフタルはうなずいた。

「俺は納得できねぇけどな。だが我が主の望みなら、従う以外にない」
「ありがとうございます」
「一人で無茶すんなよな」
「……頑張ったんです。これでも」

 アフタルはシャールーズの腕の中に閉じ込められた。

「俺を呼ぶのが遅い。まず真っ先に俺を呼べ。いいな」
「はい」

 小部屋から外に出ると、陽射しの眩しさに目がくらんだ。
 その途端、アフタルはへなへなと柱廊にうずくまってしまった。

「おい、どうした?」
「いえ、急に力が抜けて」

 困っているのに、シャールーズは苦笑いを浮かべた。

「な、なんで笑うんですか?」
「いや、頑張ってたもんな。アフタルは」

 からかう口調に、アフタルは口を引き結んだ。

(どうせミトラ姉さまみたいな破壊力もないですし、わたくしが凄んでみせたってたいした威力もないですし……)

「でも、俺は一番に頼ってほしいんだよ」
「シャールーズ」
「愛しい俺の主」

 アフタルの前にひざまずくと、シャールーズは手の甲にくちづけてくれた。
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