1 / 94
序章
01 軍事大国ロスティの元騎士様
しおりを挟む
「はじめまして、エディタ・ヴィリニュスさん。それとも……二度目まして、と言うべきかな? エディくん」
ディンビエ国の首都の外れにある、隣国ロスティの大使館。
通された部屋のソファには、長い足を持て余すように座る男がいた。
収穫時期の麦の穂のような金色の髪に、高貴な青玉をはめ込んだような目。ほどよく日焼けした、引き締まった体躯には、狼色の軍服がよくお似合いだ。
薄い唇が酷薄そうな笑みを浮かべていると小悪魔みたいで魅力的なのよね、と親友のリディアは言っていた。
(魅力的、なのか……? すっごく、すっごく、怖いんだけど)
その顔は笑んでいるのに、無言の圧力をかけられているみたいだ。
(さすが、軍事大国の男……笑っているだけでもおっかない……!)
エディは、小さな体をぶるりと震わせた。
目の前の男とは、ついこの前──一週間ほど前に会ったばかりである。
彼の名前は、ジョージ・アリストロ。
昔は『黄薔薇の騎士』と呼ばれたロスティの元騎士であり、現在は魔獣保護団体とかいう怪しげな団体の所員らしい。
三十歳になった現在も、未だ独身。その恵まれた容姿から縁談の話が引っ切りなしに舞い込んでいるようだが、「今は仕事に集中したい」と全てお断りしているようだ。
以前は幼馴染と婚約していたはずだったが、いつのまに破棄したのか……。
(全部、リディアの受け売りだけど)
確かに、ジョージは綺麗な男だと思う。
三十歳ということだが、見た目は二十代半ばくらいに見える。
だが、その落ち着きぶりというかエディに対する態度には、大人の貫禄が見て取れた。
「こんにちは、ジョージ様」
エディは、少年らしいはつらつとした笑みを浮かべて、ディンビエ流の挨拶をした。
ディンビエは、どんな時もまずは「こんにちは」である。これが出来ないと、挨拶はきちんとしろと説教されるくらいには大事なことだ。
会ったらまずは「こんにちは」。相手がどんなに不機嫌であろうと、だ。
(まぁ、ここはロスティの大使館だから、通用しないだろうけどね)
案の定、能天気そうなエディの挨拶に、ジョージの唇の端がヒクリと引き攣る。
部屋の隅で揉み手をしながら畏っていた、ディンビエの高官がピャッと肩を跳ねさせた。
「お、おお怒らせるんじゃない! ロスティに歯向かったらどうなるか分からないのだぞ? きちんと、誠意を尽くしてお答えするんだ」
ヒソヒソと高官が耳打ちしてくる。
男の生暖かい息が耳に当たり、エディは不愉快そうに眉を寄せた。
高官が離れたのを見計らって、エディは急いで耳を手で擦る。
(うげぇ……)
どうにも、この男は好きになれない。
ジョージは確かに隣国の者だが、そんなに偉い立場でもないと言う。
だというのに、高官は気持ち悪いくらい媚びへつらっている。こいつには自尊心や誇りはないのだろうかと、エディはまるで草原を飛び回る害虫を見るような目で彼を見ていた。
「も、申し訳ございません。なにぶん、田舎者でして……」
頭皮が見えかかった薄い頭髪をひけらかすように、高官はヘコヘコとジョージへ頭を下げる。
吹けば飛ぶような小国のお偉いさんは、隣国がよほど恐ろしいらしい。
(怒らせたいわけじゃないんだけどな……)
拗ねたように、エディは唇を尖らせる。
それを見たジョージは、妥協するように「仕方ありませんね」とため息を吐いた。
「さて。ご説明頂けますか? エディくん」
「説明もなにも……もうご存知なのでしょう?」
ディンビエ国の首都の外れにある、隣国ロスティの大使館。
通された部屋のソファには、長い足を持て余すように座る男がいた。
収穫時期の麦の穂のような金色の髪に、高貴な青玉をはめ込んだような目。ほどよく日焼けした、引き締まった体躯には、狼色の軍服がよくお似合いだ。
薄い唇が酷薄そうな笑みを浮かべていると小悪魔みたいで魅力的なのよね、と親友のリディアは言っていた。
(魅力的、なのか……? すっごく、すっごく、怖いんだけど)
その顔は笑んでいるのに、無言の圧力をかけられているみたいだ。
(さすが、軍事大国の男……笑っているだけでもおっかない……!)
エディは、小さな体をぶるりと震わせた。
目の前の男とは、ついこの前──一週間ほど前に会ったばかりである。
彼の名前は、ジョージ・アリストロ。
昔は『黄薔薇の騎士』と呼ばれたロスティの元騎士であり、現在は魔獣保護団体とかいう怪しげな団体の所員らしい。
三十歳になった現在も、未だ独身。その恵まれた容姿から縁談の話が引っ切りなしに舞い込んでいるようだが、「今は仕事に集中したい」と全てお断りしているようだ。
以前は幼馴染と婚約していたはずだったが、いつのまに破棄したのか……。
(全部、リディアの受け売りだけど)
確かに、ジョージは綺麗な男だと思う。
三十歳ということだが、見た目は二十代半ばくらいに見える。
だが、その落ち着きぶりというかエディに対する態度には、大人の貫禄が見て取れた。
「こんにちは、ジョージ様」
エディは、少年らしいはつらつとした笑みを浮かべて、ディンビエ流の挨拶をした。
ディンビエは、どんな時もまずは「こんにちは」である。これが出来ないと、挨拶はきちんとしろと説教されるくらいには大事なことだ。
会ったらまずは「こんにちは」。相手がどんなに不機嫌であろうと、だ。
(まぁ、ここはロスティの大使館だから、通用しないだろうけどね)
案の定、能天気そうなエディの挨拶に、ジョージの唇の端がヒクリと引き攣る。
部屋の隅で揉み手をしながら畏っていた、ディンビエの高官がピャッと肩を跳ねさせた。
「お、おお怒らせるんじゃない! ロスティに歯向かったらどうなるか分からないのだぞ? きちんと、誠意を尽くしてお答えするんだ」
ヒソヒソと高官が耳打ちしてくる。
男の生暖かい息が耳に当たり、エディは不愉快そうに眉を寄せた。
高官が離れたのを見計らって、エディは急いで耳を手で擦る。
(うげぇ……)
どうにも、この男は好きになれない。
ジョージは確かに隣国の者だが、そんなに偉い立場でもないと言う。
だというのに、高官は気持ち悪いくらい媚びへつらっている。こいつには自尊心や誇りはないのだろうかと、エディはまるで草原を飛び回る害虫を見るような目で彼を見ていた。
「も、申し訳ございません。なにぶん、田舎者でして……」
頭皮が見えかかった薄い頭髪をひけらかすように、高官はヘコヘコとジョージへ頭を下げる。
吹けば飛ぶような小国のお偉いさんは、隣国がよほど恐ろしいらしい。
(怒らせたいわけじゃないんだけどな……)
拗ねたように、エディは唇を尖らせる。
それを見たジョージは、妥協するように「仕方ありませんね」とため息を吐いた。
「さて。ご説明頂けますか? エディくん」
「説明もなにも……もうご存知なのでしょう?」
0
あなたにおすすめの小説
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる