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序章

05 お伽噺のような馬車

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 結局、エディはリディアの命令おねがいを断りきれなかった。

 断ったつもりでいつものように屋根で日向ぼっこをしていたら、外に馬車が到着していたのだ。

 晴れ渡った空の下、金模様が施された馬車は輝いているように見える。

 まるで、舞踏会へ行くお姫様のための馬車のようだ。

 御者は人間に見えるけれど、実は魔女が変身させた動物かもしれない、なんて思うくらいには、その馬車は豪奢だった。

 明らかに、ディンビエのものではない。

 よく見れば、馬車にはロスティの紋が刻まれていた。

(ロスティからの馬車……ということは)

 嫌な予感がして、エディの背中を冷や汗が流れていく。

 口の端をヒクヒクさせながら、エディがじっとしていると、馬車の窓が唐突に開いた。

 残念ながら、その馬車に乗っていたのは可憐なお姫様ではなかった。

「さぁ、エディ。行くわよぉぉ」

 馬車の窓から、リディアがブンブンと腕を振っていた。

 ニコニコと無邪気に、彼女は笑っている。

 心なしか、いつもより可愛らしいワンピースを着ているようだ。

(醜男だって決めつけていたわりに、着飾っているじゃないか……)

 いつもは飾り気のないワンピースを着ているのだが、今日は首都に行くということもあってか、伝統衣装を着ている。白地に色とりどりの刺繍があしらわれたそれは、遠目からでも目立ちそうだ。

 朝から念入りに手入れしたのか、長い髪はしっとりツヤツヤしている。

 まるで別人──とまではいかないが、いいところのお嬢様くらいに見えなくもない。

「ほら、早く! 急いで降りてきてちょうだい」

 断られるなんて、リディアは微塵も思っていないようだ。

 お気楽な頭で考えた、エディ恋人作戦が上手くいくと本気で思っているのだろうか。

 しかし、幼馴染として捨て置けないくらいには、エディはリディアが好きだった。

 せめて彼女と一緒に怒られるくらいで済めばいい。

 そう願いながら、エディは渋々屋根から降りて、馬車に乗り込んだのだった。




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