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一章

16 見つめ合う二人

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 見つめ合う若者二人に、ジョージはこっそり拳を握った。

 よし、そうだ。そこで、紳士的に自己紹介をしろ。

 そんな声が、聞こえてきそうな雰囲気である。

 だがジョージの願いも虚しく、ロキースは朴念仁であったようだ。

「……」

 ジョージは見守った。

「……」

 持ちうるすべての忍耐力を使って、待った。

「……」

 ティーカップを持って、お茶を一口飲んで、それからティーカップをテーブルに置く。この動作を、三回は繰り返したと思う。

「あの……?」

 エディの戸惑いはもっともだ。

 跪かれたまま見つめられ、一言も喋らないとはどういう了見なのか。

 どっちでもいい。
 とにかく、喋ってくれ。

 そんなジョージの願いが通じたのか、エディが戸惑いながらも口を開いた。

「えっと。あなたが、僕に恋をしてくれたの? 僕、こんな見た目だけれど、性別は女なんだ。もしも、男だと思っていたなら、ごめんね」

 ごめんね、とエディは申し訳なさそうに眉を下げた。

 心なしか、小首を傾げているようでもある。

 あまりの可愛らしさに、ロキースは悶絶した。

 見つめ返すだけで、心臓が止まりそうだ。

 まさか、会って早々にこんな可愛らしいエディを目の当たりに出来るとは思わず、過ぎた幸福にロキースは天にも上りそうな気分である。

 彼は、大きな手で自分の胸をグワシと鷲掴んだ。

 今なら、魔の森を流れる川で鮭を一万匹捕獲出来るかもしれない。

 それほどまでに、エディの存在はロキースにとって大きかった。

(やっぱり、勘違いだったんだ……!)

 顔を伏せてプルプルと震える彼に、エディがそう思うのは致し方がないことだ。

 今更どうしようもないのに、彼女はどうしようとオロオロしている。

 ジョージには、首筋を赤らめて悶えるロキースと、顔を青くして右往左往するエディがよく見えた。

 ここは、魔獣保護団体の所員として、しっかりと仕事をしなくてはいけないだろう。

 獣人の恋の応援は、彼の任務しごとである。

「ロキース。エディタさんがお困りですよ。自己紹介でもしたらどうです? それから、彼女の質問に答えてあげなさい」

 ジョージの声に、ロキースの肩がピクっと反応する。

 慌てて顔をあげると、エディは不安そうに服を握りしめて顔を真っ青にしていた。

 そんな状態に自分がさせてしまったのかと、今度はロキースが顔を青ざめる。

「すまない。エディタのことを、男だと思ったことはない。君は昔、髪が長かっただろう? 俺は、随分前から、君のことを見てきた……だから、間違いでは、ない」

 エディは、ロキースの言葉に目をまん丸にして驚いた。

 だって、エディの髪が長かったのは十歳の時までなのだ。

 十歳のある日、ある事件をきっかけに、彼女は変わったのだから。

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