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一章
20 彼女の勲章
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女の子とは思えない、傷だらけの手だ。特に親指の付け根は何度も肉刺を作っては破いてを繰り返したらしく、皮膚が硬くなっている。
ロキースは知っている。
ある時期から、彼女が血の滲むような努力をしてきたことを。
だって、ずっとずっと見てきた。
この手は、彼女の勲章なのだ。
ロキースは、壊れそうに小さな手からそっと手を離した。
それから、ゆっくりゆっくり、殊更慎重に手を持ち上げて、エディの頭の上へ到達する。
よく、頑張ったな。
そんな想いを込めて、ロキースはエディの頭を優しく撫でた。
サラサラの髪は、絡まることなくロキースの指の間をすり抜けていく。
「そうか……俺は……蜂の巣を探すのが、得意だ」
エディは突然頭を撫でられて、わけが分からなかった。
それでも、その手に悪意なんて微塵も感じられなくて、どうしてかジョージが生暖かい眼差しでウンウンと納得するように頷いているものだから、よくわからないなりにおとなしくしていた。
エディが「蜂蜜が好きなの?」と尋ねると、ロキースは彼女の目と鼻の先でフワリと微笑んだ。
それはまるで、秋に色とりどりの落ち葉が降り積もって暖かな絵を描くような、鮮やかで優しい笑みだった。
(うっわ……!)
エディは、たまらず唇を引き結んだ。
そうしないと、急に跳ねた心臓が口から転がり出てしまうかもしれないと思ったからだ。
あまり表情に変化がなかったせいで、その微笑みの破壊力は凄まじい。
美形ってとんでもないと、エディは思った。
「エディ? どうかしたのか?」
「な、なんでもないっ」
唇を引き結んで凝視してくるエディの顔を、ロキースは覗き込んだ。
再び接近してきた端正な顔に、エディは「わあぁぁ!」と悲鳴を上げ、後ろに逃げる。
追いかけようと立ち上がりかけたロキースを制止するように、彼女は手を前に突き出してストップをかけた。
「ちょ、ち、近くない?」
「そうか?」
「お付き合いする前の男女には、適正な距離っていうものがあるだろうっ⁈」
「そうなのか? エディと会えたから、つい嬉しくてそばに寄ってしまった。すまない」
まん丸の熊耳が、ペショリと伏せられている。
なんだか、エディの方がロキースをいじめているようだ。実際には、彼女の方がいろいろと切羽詰まった状況になっているのだが。
いっぱいいっぱいで今にもパンクしてしまいそうなエディを見兼ねて、ジョージは「今日はこれくらいにしておきましょうか」と声をかけた。
そう、今日は。
これはあくまで、最初の一歩でしかない。
魔獣と魔獣に恋された人は、出会い、逢瀬を重ね、絆を深めて想いを重ねる。
それが、魔獣保護団体の任務であり、ジョージの任務なのだ。
ジョージは懐からスケジュール帳を取り出した。
ズレてもいない眼鏡をクイッと押し上げて、唇で弧を描く。
「では、次の休みはいつでしょうか?出来るだけ、早いお日にちですと助かります」
「ひっ」
軍事大国ロスティ仕込みの、有無を言わさぬ笑顔で、ジョージは言った。
逃すわけねぇだろ、とその顔に書いてあるようである。
あいにく休みはなくて、なんて言い逃れ出来る勇気は、エディにはなかった。
だって彼女は十五歳。まだまだ子供である。
「よ、夜は家業がありますので……出来れば、昼過ぎですとありがたく……!」
「毎日会いに行っても良いと。それはそれは、ありがとうございます」
爽やかな笑みでそう返されて、エディは情けない声を漏らした。
(おっかない……逆らえる気がぜんっぜん、しない!)
まるで押し売りされているような気分である。
エディは半泣きになりながら、ジョージに今後の予定を押さえられた。
ロキースは知っている。
ある時期から、彼女が血の滲むような努力をしてきたことを。
だって、ずっとずっと見てきた。
この手は、彼女の勲章なのだ。
ロキースは、壊れそうに小さな手からそっと手を離した。
それから、ゆっくりゆっくり、殊更慎重に手を持ち上げて、エディの頭の上へ到達する。
よく、頑張ったな。
そんな想いを込めて、ロキースはエディの頭を優しく撫でた。
サラサラの髪は、絡まることなくロキースの指の間をすり抜けていく。
「そうか……俺は……蜂の巣を探すのが、得意だ」
エディは突然頭を撫でられて、わけが分からなかった。
それでも、その手に悪意なんて微塵も感じられなくて、どうしてかジョージが生暖かい眼差しでウンウンと納得するように頷いているものだから、よくわからないなりにおとなしくしていた。
エディが「蜂蜜が好きなの?」と尋ねると、ロキースは彼女の目と鼻の先でフワリと微笑んだ。
それはまるで、秋に色とりどりの落ち葉が降り積もって暖かな絵を描くような、鮮やかで優しい笑みだった。
(うっわ……!)
エディは、たまらず唇を引き結んだ。
そうしないと、急に跳ねた心臓が口から転がり出てしまうかもしれないと思ったからだ。
あまり表情に変化がなかったせいで、その微笑みの破壊力は凄まじい。
美形ってとんでもないと、エディは思った。
「エディ? どうかしたのか?」
「な、なんでもないっ」
唇を引き結んで凝視してくるエディの顔を、ロキースは覗き込んだ。
再び接近してきた端正な顔に、エディは「わあぁぁ!」と悲鳴を上げ、後ろに逃げる。
追いかけようと立ち上がりかけたロキースを制止するように、彼女は手を前に突き出してストップをかけた。
「ちょ、ち、近くない?」
「そうか?」
「お付き合いする前の男女には、適正な距離っていうものがあるだろうっ⁈」
「そうなのか? エディと会えたから、つい嬉しくてそばに寄ってしまった。すまない」
まん丸の熊耳が、ペショリと伏せられている。
なんだか、エディの方がロキースをいじめているようだ。実際には、彼女の方がいろいろと切羽詰まった状況になっているのだが。
いっぱいいっぱいで今にもパンクしてしまいそうなエディを見兼ねて、ジョージは「今日はこれくらいにしておきましょうか」と声をかけた。
そう、今日は。
これはあくまで、最初の一歩でしかない。
魔獣と魔獣に恋された人は、出会い、逢瀬を重ね、絆を深めて想いを重ねる。
それが、魔獣保護団体の任務であり、ジョージの任務なのだ。
ジョージは懐からスケジュール帳を取り出した。
ズレてもいない眼鏡をクイッと押し上げて、唇で弧を描く。
「では、次の休みはいつでしょうか?出来るだけ、早いお日にちですと助かります」
「ひっ」
軍事大国ロスティ仕込みの、有無を言わさぬ笑顔で、ジョージは言った。
逃すわけねぇだろ、とその顔に書いてあるようである。
あいにく休みはなくて、なんて言い逃れ出来る勇気は、エディにはなかった。
だって彼女は十五歳。まだまだ子供である。
「よ、夜は家業がありますので……出来れば、昼過ぎですとありがたく……!」
「毎日会いに行っても良いと。それはそれは、ありがとうございます」
爽やかな笑みでそう返されて、エディは情けない声を漏らした。
(おっかない……逆らえる気がぜんっぜん、しない!)
まるで押し売りされているような気分である。
エディは半泣きになりながら、ジョージに今後の予定を押さえられた。
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