魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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二章

29 ミハウの尋問

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 エディはカフェオレボウルをテーブルへ置くと、手紙を受け取るために手を出す。

 だが、手紙を持った手はヒュッと引っ込められてしまった。

「ちょっと、ミハウ?」

 不満げに、エディはミハウを見上げた。

 彼の顔色は、相変わらず良くない。

(手紙を渡しに来るぐらいなら、ベッドで寝ていれば良いのに)

 弟のミハウは、生まれつき体が弱い。

 冗談で両親は「お腹の中でエディタがミハウの分の免疫力を取っちゃったのかもしれないね」なんて言うけれど、実は本当なんじゃないかとエディは思っている。

 幼い頃は、軽い風邪を拗らせて死の淵を彷徨ったことさえあるのだ。

 体が強かったエディは、体の弱いミハウに両親を取られる形になったけれど、優しい祖母がいてくれたおかげで卑屈になることもなかった。

 それどころか、体が弱いせいで過保護な親が部屋から出してくれないと泣くミハウのために、時折『とりかえっこ』してあげたこともある。

 とりかえっこ。

 それは、エディがミハウの格好をして、ミハウがエディの格好をする遊びだ。

 まだ女の子だった頃のエディと、男の子のわりに線が細いミハウは、まるで一卵性双生児のようによく似ていた。

(今も、似ているには似ている……かな?)

 ただ、やはり男女の差というものはある。

 ミハウの手は細いが、エディより大きい。声だって、いつの間にかエディより低くなっていた。

「ねぇ。最近、よくロスティの大使館から手紙とか使いの人が来たりしているけど、どうして?」

 ミハウの言葉に、エディはギクリとした。

 だって、言えない。いや、言ってはいけないような気がした。

「一回目はリディアの付き添いって聞いたけど、二回目は? それから、毎日のように届く、この手紙はなに?」

 まるで、浮気した旦那を問い詰める妻のように、ミハウは問い質してくる。

 だが、残念なことに彼の口から『離婚』の二文字が出ることはない。

 彼はエディの双子の弟であり、弟にしては過剰な愛情を向けてくる男だった。

 曰く、双子とはそういうもの、らしい。エディには分からない感覚だが。

 幼い頃は、「エディタと結婚する」なんて言っていたが、まさか今もそう思っているわけはないだろう。たぶん。

(そうだよね……?)

 残念なことに、今、食堂にいるのはエディとミハウだけ。第三者の意見は聞けそうにない。

「ただの手紙だよ。ミハウが気にするようなものじゃない」

「ただの手紙? なら、今ここで、開けて見せてよ」

「なんで?」

「エディタ。僕を誤魔化すなんて無理なんだから、早く白状して?」

 真っ青な顔で睨まれても、怖くはない。

 だが、このまま誤魔化し続ければ、ミハウはこの場で倒れるまで問い続けるに違いない。

(それは、面倒……)

 エディは観念するように、両手を上げた。

「分かった。話すよ。荒唐無稽な話だけれど、嘘じゃない。それだけは、信じて」

「エディタの嘘なんて、僕にはお見通しだよ」

 そう言って、ミハウは近くにあった椅子をエディのすぐそばへ引き摺ってくると、ドンと座った。
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