魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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二章

30 言い得て妙なはなし

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(体は弱いくせに、態度は強気なんだよなぁ)

 エディが手を出すと、ミハウはおとなしく手紙を渡してくれた。

 封を開けると、中からカードが一通出てくる。二つ折りされたそれをゆっくり開くと、解読が難解な文字たちが並んでいた。

 相変わらずの酷い字だ。

 だが、『家が完成した』という文が読み取れて、エディの顔にうっすらと笑みが浮かぶ。

「ちょっと、エディ。なんだよ、この手紙。字、汚すぎ! よく読めるね⁈」

 手紙を覗き込んできたミハウが、「はぁぁ?」と非難の声を上げた。

 正直、エディとしてはミハウがロキースの字を非難出来る立場だとは思えず、スンとした顔で彼を見つめる。

「ミハウの字とあまり変わらないよ」

「同じじゃないよ! 僕の字は、もうちょっと読める字だね」

「僕からしたら、同じにしか見えないよ。まぁ、そのおかげで多少は読めるわけだけど……」

 壊滅的に字が下手くそな身内とは、ミハウのことである。

 彼はわりと頭は良いのだが、文字にすることが効率的ではないと思っているせいで、字が非常に汚い。

 幼い頃は彼からラブレターを頻繁に貰っていたので、エディだけはなんとか解読出来る、というわけなのだ。

「それで? この汚い字を書いたのは、一体どこの馬の骨なのさ。サラサラの髪からいい匂いがする、なんて書いてありますけど。どう考えてもこれ、男だよね⁉︎」

「男だよ。名前は、ロキース。ロスティの大使館経由で紹介された人」

「は? ロスティの大使館は、お見合いまで斡旋しているわけ?」

「そういうわけじゃ……いや、そういうわけか」

 言い得て妙である。

 たしかにその通りだと、エディは思わず納得してしまった。今更ながらに。

 それからエディは、ロキースの正体と、そうなった経緯について話した。

 だけど、説明すればするほど不安になる。だって本当に、こんな話は信じ難い。

 すっかり話し終えた時、淹れたてだったカフェオレはすっかり冷え切っていた。

 乾きを覚えて口にすると、ミルクの甘さがやけに舌に残る。

(まずい……)

 これは、温め直した方がいいだろう。

 そう思って立ち上がろうとしたエディの袖を、ミハウの手が止めた。

「分かった」

 ゆらり、とミハウが伏せていた顔を上げる。

 その顔は珍しく、青くなかった。

「なにが?」

「要は、僕のエディタに恋をしやがった魔獣が、獣人になって口説いてきてるってことなんだよね? それってさ、僕に義兄が出来るかもしれない危機だよ⁈ 一大事さ!」

「一大事かなぁ?」

「一大事に決まっている! いい? 相手はとんでもなく美形で、よりにもよってエディタの好みど真ん中。そんな顔でお願いされたら、さすがのエディタだって警戒心解いちゃうでしょ! 人間って、結構チョロい生き物なんだから」

 エディは「まさか」と笑った。

 どうもミハウはエディのことになると過保護になる。特に、異性関係は必要以上だ。

 好みの顔云々だって、きっと最近読んだ本に影響されてのことだろう。彼は、読書家なのだ。

(きっと、容姿端麗な殺人鬼の話とか、そういう怖いやつを読んでいたのだろうな)

 可愛い顔をしているが、彼が好むのはグロい表現が多いミステリーものである。

 童話の、それもお姫様が幸せになるタイプのものを好むエディとは、全く好みが合わない。

「僕はね、エディタにお願いされたらなんでもしちゃうよ? 結婚したいから法律変えてって言われたら、政治家にだってなる」

「え……」

 ミハウの言葉に、エディは心底引いた顔をした。その顔には「ないわー」と書いてある。

「そんな顔しないでよ! 例え話だからね。僕のエディタはそんなこと、欠片も望まないことを知っている。だから、僕が出来ることはただ一つ!」

 ミハウは椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、力説した。

 その頰は興奮に赤く色づき、病弱さは微塵も感じさせない。

 顔色が良いのは良いことだ。

(だけど、嫌な予感しかしない)

 手を振り切って、カフェオレを温めにいけば良かった。

 そう思うエディの前で、ミハウは拳を握りしめて言った。

「ロキースとやらが、エディタにふさわしい男なのか、僕が見てあげる」

 一体、なんの権利がこいつにあるのだろう。

 エディの心の声は、双子特有の以心伝心テレパシーで届くことはなかった。

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