魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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一章

23 良く見せたい、それは恋のはじまり?

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 エディは不意に、先日の、ロキースとの一件を思い出した。

 自分では金メダルのように誇らしかった傷だらけの手が、まるでメッキが剥がれるようにみすぼらしく思えたあの時。エディは、ロキースの目から隠すように、拳を握った。

(あれは、もしかして、そういうことだったのか……?)

 好きな男の前では、いつだって可愛くありたいもの。

 それはつまり、ロキースの前では可愛くありたいと、エディが思ったということなのだろうか……。

「……って、オイオイオイ、ちょっと待て。たった一回会ったくらいで、グラグラしているんじゃない」

 僕にはトルトルニアを守るという使命が、とエディはすぐさま考えていたことを消し去った。

 そう。ロキースには悪いが、エディには恋にうつつを抜かしている暇なんてないのである。

 おばあちゃんが見つかるまでは、女を捨ててトルトルニアを守る。

 それは、彼女が決めた道なのだから。

「エディ?」

 考え事に夢中になって、すっかりルタの存在を忘れていたらしい。

 ルタの声に、エディはパチパチと瞬きした。

「えっと、なんでもない。ただの、独り言」

「あら。義姉様ねえさまには言えないことなの?」

 赤い唇が、ニィっと笑う。

 獲物を見つけた猫のように、意地悪そうな笑みだ。

 エディは得体の知れない怖さを感じて、ブルリと背中を震わせた。

 ルタは悪い人ではなさそうだが、たまに怖く感じる時がある。

 エディはそれを、彼女が高貴な家柄ゆえに醸し出される雰囲気のせいだろうと結論づけていた。

「ねえさんだからって、わけじゃない。だって、リディアにも話していないし」

「親友のリディアにも話せないこと……? もしかして、この前来ていた男の人のことかしら?」

 ルタはいつ、彼を見たのだろうか。

 思い当たるとしたら、大使館からの帰り道を送ってもらった時だけだ。

 それ以降、エディはロキースとまだ会っていない。

「随分と綺麗な顔をした方だったわよねぇ」

「え……?」

 エディはまさか彼女がロキースのことを知っているとは思わなかったので、弾かれたように魔の森から彼女へ視線を向けた。

 赤い唇を、舌がチロリと舐める。まるで、獲物を前にした肉食獣みたいな仕草だ。

 人妻とは思えない妖艶な仕草に、エディは眉間に皺を寄せる。

(気のせい、だよね? まさかねえさんが、ロキースを好きになるなんてこと、あるわけないんだから)

 そう思いながらも、まさかという疑念が浮かぶ。

 だって、ロキースはとても素敵な男性なのだ。

 ふわふわの髪も、垂れ気味の目も、包容力のありそうな大きな体も、どこもかしこもエディなんかには勿体ない。

 それに対して、目の前のルタは、スタイルも顔も家柄だって素晴らしい。

 ルタがロキースの隣に立つ光景を思い浮かべて、エディは苦い気持ちになった。

(お似合い、だけど……いくら僕が駄目だからといって、僕以外の、それも人妻を獣人に差し出すなんて……ないない。だって、ねえさんは兄さんにべた惚れなんだから。そもそも、ロキースは僕に恋をして、獣人になったんだから、僕が責任を負って然るべきなんだ)

 エディは、思い直すように頭を軽く振る。馬鹿な考えだと振り落とすように。

 それから「これは仕方のないことなんだ」と呟いた。
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