魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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四章

48 不機嫌な元騎士

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 アポ無しで大使館を訪れた二人に、呼び出されたジョージは気持ち悪いくらいにこやかだった。

 だが、応接間に着くなり、顔つきがガラリと変わる。

「おい、お前ら。俺の大事な時間をよくも邪魔してくれたな?」

 魔王降臨。

 エディには、そのように見えた。

(笑顔なのに、おっかない……)

 一人称が、私から俺に変わっている。

 おそらく、こちらが素なのだろう。

 いつもかけている眼鏡は外していて、心なしか少し若く見える。

 それなのに、いつもより四割増で怖い。

 ドスの効いた声に、エディは思わずロキースに縋り付いた。

 そんな彼女を守るように、ロキースが一歩前へ出る。

 その時だった。

 ──コンコンコンッ

 控えめなノックの音がして、そろりと扉が開かれる。

 少しだけ開いた隙間から、幼い少女がヒョコリと顔を出した。

 黒い髪に、黒い目。白い肌がよく映える。

 クリクリとした大きな目がジョージを捉えた時、嬉しそうに緩んだ。

「ジョージおじさま。ここにいたのね?」

 ジョージはそれまでの怖い雰囲気をシュッと隠すと、にこやかに笑んだ。

 変わり身の早さとその柔らかな笑みに、エディは「え……」と声を漏らす。

(この人、こんな顔も出来るんだ?)

 驚きである。

 リディア曰く、「小悪魔みたいで魅力的」とのことだったが、それよりもこっちの方が断然良い。

 眼鏡というアイテムがないせいもあるのだろうが、少女に向ける表情は甘い。愛しい、とその顔にはデカデカと書かれているようだ。

 これこそ、お伽噺にでてくる騎士といえよう。相手は、少々小さいお姫様ではあるけれど。

「あぁ、ニューシャ。ダメだよ。私は今、仕事中なんだ。悪いけれど、お母様のところで待っていて欲しい」

 ツカツカと扉の前まで歩いて行ったジョージは、少女の前で跪くと、懇願するようにそう願い出た。

 誰にも懐かない猫のような男が、幼い少女の前ではデレデレしている。

 その光景は、なんだか見てはいけないものを見ているようで、エディは混乱した。

「えぇぇ。いやよぅ。おかあさまは、おとうさまにとられてしまったもの」

 ジョージの小さなお姫様は、唇を尖らせて頰をぷくっと膨らませた。

 傍から見れば不細工なそれも、ジョージにとっては可愛く見えるらしい。クスクスと楽しげに笑っている。

「……またか」

「そう、またよ。いつものこと。しかたないわ、おとうさまは、おかあさまがだいすきだから」

「仕方ありませんね。ニューシャ、私の膝の上でおとなしくしていてくれますか?」

「ええ。わたしもレディだもの、それくらいできるわ」

 エッヘンと胸を張る小さなお姫様に、ジョージは「お手をどうぞ」と手を差し出した。

 少女はその手に、当然と言わんばかりの顔で手を乗せる。

 小さなお姫様をエスコートしながらソファへ腰掛けたジョージの膝に、少女が座る。

 明らかに機嫌が悪そうな鋭い視線で「座れ」と指示されたエディとロキースは、対面のソファへ慌てて腰を下ろした。

 不機嫌な理由はよく分からない。

 だが、これからお願い事をするのだ。これ以上機嫌を損ねるわけにはいかない。
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