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五章
58 汚れた手
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エディは、疲れていた。
だから、判断力が鈍っていたのだ。
いつものエディなら、ミハウには言わない。面倒なことにしかならないから。
しかし、ミハウがそこまで言うのならと、彼女は口を開いた。
「罪悪感で、苦しいんだ……僕は今まで、トルトルニアの人々を守るために、魔獣を仕留めてきた。だけど、言われたんだ。ロスティでは、魔獣を大切にしている。人に恋をして、獣人になるかもしれない存在だからって……それを聞いて、思ったんだ。今まで仕留めてきた魔獣にも、もしかしたら誰かに恋をして獣人になる可能性があったんじゃないか。そんな魔獣を仕留めた僕の手は、汚れているように思えた。だから、こんな手は、ロキースに触れてもらえる資格なんてないんじゃないかって」
熱で掠れた声で、エディは痛々しげにそう語った。
熱で緩んだ涙腺から、ハラハラと涙が零れる。
ミハウは頬を伝う滴を指先で拭いながら、口の中で「クソ熊、殺す」と呟いた。
『ロキースに触れてもらえる資格』なんて。
腹が立つったらない。
確かに、ミハウはロキースのことを認めたが、まさかこの短期間でここまでエディの心を傾けるとは思いもしなかった。
それに、エディを泣かせた。
許すまじ、クソ熊。あとで甘ったるい色をした目ん玉に唐辛子を塗りたくってやる、とミハウは決意する。
「そう……一体、誰がエディにそんなことを言ったの?」
「ロスティの、魔獣保護団体のジョージ様」
ミハウは慰めるようにエディの頰を撫でながら、口の中で「ジョージ、殺す」と呟いた。
今、彼の頭の中では、今まで読み漁ってきた本から得た、あらゆる拷問方法が検討されている。グロテスクな展開は、彼の好物なのだ。
エディに見せられないようなあれやこれやを妄想しつつ、ミハウは少女のように可憐な顔で笑いかけた。
寝かしつけるようにケットをエディの胸元まで引き上げて、ポンポンと叩く。
「でもさ、エディタ。僕たちが魔獣を狩らなかったら、村がなくなってしまうんだよ? 覚えているだろ、村はずれの家が燃えたのは魔兎が火を噴いたせい。あの家はたまたま空き家だったけれど、そうじゃなかったら、誰か死んでいたかもしれない」
五年前。祖母のエマを探している間に村へ侵入した魔兎は、村はずれの家を一軒焼失させた。
それによって、エマの捜索は打ち切られ、ヴィリニュス家は責任を取るように見張りを始めたのだ。
「それにさ、おばあちゃんだって言っていたでしょう? トルトルニアの人々を守るのは、ヴィリニュス家の義務だって」
「そうだよ。だから、言っても仕方のないことなんだ」
エディは悔しそうに唇を噛んだ。
だから、判断力が鈍っていたのだ。
いつものエディなら、ミハウには言わない。面倒なことにしかならないから。
しかし、ミハウがそこまで言うのならと、彼女は口を開いた。
「罪悪感で、苦しいんだ……僕は今まで、トルトルニアの人々を守るために、魔獣を仕留めてきた。だけど、言われたんだ。ロスティでは、魔獣を大切にしている。人に恋をして、獣人になるかもしれない存在だからって……それを聞いて、思ったんだ。今まで仕留めてきた魔獣にも、もしかしたら誰かに恋をして獣人になる可能性があったんじゃないか。そんな魔獣を仕留めた僕の手は、汚れているように思えた。だから、こんな手は、ロキースに触れてもらえる資格なんてないんじゃないかって」
熱で掠れた声で、エディは痛々しげにそう語った。
熱で緩んだ涙腺から、ハラハラと涙が零れる。
ミハウは頬を伝う滴を指先で拭いながら、口の中で「クソ熊、殺す」と呟いた。
『ロキースに触れてもらえる資格』なんて。
腹が立つったらない。
確かに、ミハウはロキースのことを認めたが、まさかこの短期間でここまでエディの心を傾けるとは思いもしなかった。
それに、エディを泣かせた。
許すまじ、クソ熊。あとで甘ったるい色をした目ん玉に唐辛子を塗りたくってやる、とミハウは決意する。
「そう……一体、誰がエディにそんなことを言ったの?」
「ロスティの、魔獣保護団体のジョージ様」
ミハウは慰めるようにエディの頰を撫でながら、口の中で「ジョージ、殺す」と呟いた。
今、彼の頭の中では、今まで読み漁ってきた本から得た、あらゆる拷問方法が検討されている。グロテスクな展開は、彼の好物なのだ。
エディに見せられないようなあれやこれやを妄想しつつ、ミハウは少女のように可憐な顔で笑いかけた。
寝かしつけるようにケットをエディの胸元まで引き上げて、ポンポンと叩く。
「でもさ、エディタ。僕たちが魔獣を狩らなかったら、村がなくなってしまうんだよ? 覚えているだろ、村はずれの家が燃えたのは魔兎が火を噴いたせい。あの家はたまたま空き家だったけれど、そうじゃなかったら、誰か死んでいたかもしれない」
五年前。祖母のエマを探している間に村へ侵入した魔兎は、村はずれの家を一軒焼失させた。
それによって、エマの捜索は打ち切られ、ヴィリニュス家は責任を取るように見張りを始めたのだ。
「それにさ、おばあちゃんだって言っていたでしょう? トルトルニアの人々を守るのは、ヴィリニュス家の義務だって」
「そうだよ。だから、言っても仕方のないことなんだ」
エディは悔しそうに唇を噛んだ。
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