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五章
65 揺れる理性
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まろい頰を林檎みたいに赤く染めて、エディはチラチラとロキースを見上げてくる。
今までにないくらい可愛らしい顔を日々更新し続ける彼女に、ロキースは内心、身悶えていた。彼女を抱っこしていなかったら、その辺の木の幹に額をゴスゴス叩きつけたいくらいには、煩悩が暴れている。
『エディ、今夜は帰したくない』
そんな言葉が、喉まで出かかっていた。
だが、ロキースの健気な我慢も知らず、エディは「へへ」と恥ずかしさを誤魔化すように笑う。
ロキースの煩悩を抑える理性が、悲鳴をあげた。
かわいい。かわいすぎる。こんなにかわいくて、どうしよう。どうやったら、嫁に出来る?
これ以上エディを見つめていたらどうにかなってしまいそうで、ロキースは天を仰いだ。
絡み合った枝の合間から、冬の弱々しく柔らかな陽ざしが差し込む。
陽ざしに誘われるように腕の中を見下ろしたら、天使がいた。陽ざしを浴びたミルクティーブラウンの髪が、冷たい風に吹かれてフワフワと揺れる。
もう限界だ。神様なんて信じていないけれど、いたらどうか助けて。この子を襲いそうなんです。
ロキースはどこかにいるであろう神様に願った。信じていないけれど助けて、と。
当然、そんな不信心な男を助ける神などいやしない。
気をそらすために、ロキースは頭を切り替えることにした。
今はエディに魔獣のことを教える時間だと言い聞かせ、無理に真面目な表情を取り繕う。
「理性のある魔獣が、全て恋をするわけではない。獣人になることが大人の証ではあるが、運命の相手を見つけられず、魔獣のまま息絶えることがほとんどだ」
世界中を旅しても運命の相手を見つけられず、魔の森へ帰ってくるものは多い。
中には恋をしないという選択をして、望んで魔獣のままでいるものもいる。
「運命の相手を見つけることって、そんなに大変なことなの?」
「見つけられるかというより、己の覚悟の問題だろう。消滅しても構わない、そう思えるくらいの気概がないと獣人にはなれない」
恋が実れば人間に、実らなければ消滅する。
残酷なお伽噺のようだが、ロキースにとってはこれが現実だ。
エディがロキースの想いに応えられなければ、彼は消える。
「獣人になるって、痛いの?」
「正直言って、痛い。どの程度かと言い表せないくらいには、痛かった」
思い出したのか、ロキースの体がブルリと震える。
可哀想に、頭上の丸い耳はプルプルと震えて伏せられていた。
「じゃあさ、獣人から人になるのも痛いの? 耳とか尻尾がポロって取れちゃったりするの?」
ロキースの耳や尾がポロリと取れるのを想像して、エディは怖くなった。
昔、ミハウから借りた本に耳を切り落とす拷問が書かれていたのを思い出したからだ。
「取れたりはしない。作り変えられるだけだ。元獣人たちが言うには、魔素が体を覆うらしい。どういう原理かは分からないそうだ。痛みは……獣人になった時ほどはないと言っていた」
「そうなんだ。やっぱりちょっとは痛いんだね」
「だが、そんな痛みなど些細なものだ。得難いものが手に入るためならば、それくらいどうということはない」
そう言って愛しげに笑いかけてくるものだから、エディの胸がキュウッと締め付けられる。
せっかく熱が引いていた頰に、また熱が戻ってきた。
「ロキース」
「なんだ?」
「痛かったね、頑張ったね」
エディの小さな手が、ロキースの頬を優しく撫でる。
ロキースの足取りが、また早くなった。
ゆらゆら、ゆらゆら。
ゆらゆら、ゆらゆら。
揺れる温かな腕の中は気持ちがよく、寝不足がたたっていたエディは、いつの間にか眠ってしまったのだった。
今までにないくらい可愛らしい顔を日々更新し続ける彼女に、ロキースは内心、身悶えていた。彼女を抱っこしていなかったら、その辺の木の幹に額をゴスゴス叩きつけたいくらいには、煩悩が暴れている。
『エディ、今夜は帰したくない』
そんな言葉が、喉まで出かかっていた。
だが、ロキースの健気な我慢も知らず、エディは「へへ」と恥ずかしさを誤魔化すように笑う。
ロキースの煩悩を抑える理性が、悲鳴をあげた。
かわいい。かわいすぎる。こんなにかわいくて、どうしよう。どうやったら、嫁に出来る?
これ以上エディを見つめていたらどうにかなってしまいそうで、ロキースは天を仰いだ。
絡み合った枝の合間から、冬の弱々しく柔らかな陽ざしが差し込む。
陽ざしに誘われるように腕の中を見下ろしたら、天使がいた。陽ざしを浴びたミルクティーブラウンの髪が、冷たい風に吹かれてフワフワと揺れる。
もう限界だ。神様なんて信じていないけれど、いたらどうか助けて。この子を襲いそうなんです。
ロキースはどこかにいるであろう神様に願った。信じていないけれど助けて、と。
当然、そんな不信心な男を助ける神などいやしない。
気をそらすために、ロキースは頭を切り替えることにした。
今はエディに魔獣のことを教える時間だと言い聞かせ、無理に真面目な表情を取り繕う。
「理性のある魔獣が、全て恋をするわけではない。獣人になることが大人の証ではあるが、運命の相手を見つけられず、魔獣のまま息絶えることがほとんどだ」
世界中を旅しても運命の相手を見つけられず、魔の森へ帰ってくるものは多い。
中には恋をしないという選択をして、望んで魔獣のままでいるものもいる。
「運命の相手を見つけることって、そんなに大変なことなの?」
「見つけられるかというより、己の覚悟の問題だろう。消滅しても構わない、そう思えるくらいの気概がないと獣人にはなれない」
恋が実れば人間に、実らなければ消滅する。
残酷なお伽噺のようだが、ロキースにとってはこれが現実だ。
エディがロキースの想いに応えられなければ、彼は消える。
「獣人になるって、痛いの?」
「正直言って、痛い。どの程度かと言い表せないくらいには、痛かった」
思い出したのか、ロキースの体がブルリと震える。
可哀想に、頭上の丸い耳はプルプルと震えて伏せられていた。
「じゃあさ、獣人から人になるのも痛いの? 耳とか尻尾がポロって取れちゃったりするの?」
ロキースの耳や尾がポロリと取れるのを想像して、エディは怖くなった。
昔、ミハウから借りた本に耳を切り落とす拷問が書かれていたのを思い出したからだ。
「取れたりはしない。作り変えられるだけだ。元獣人たちが言うには、魔素が体を覆うらしい。どういう原理かは分からないそうだ。痛みは……獣人になった時ほどはないと言っていた」
「そうなんだ。やっぱりちょっとは痛いんだね」
「だが、そんな痛みなど些細なものだ。得難いものが手に入るためならば、それくらいどうということはない」
そう言って愛しげに笑いかけてくるものだから、エディの胸がキュウッと締め付けられる。
せっかく熱が引いていた頰に、また熱が戻ってきた。
「ロキース」
「なんだ?」
「痛かったね、頑張ったね」
エディの小さな手が、ロキースの頬を優しく撫でる。
ロキースの足取りが、また早くなった。
ゆらゆら、ゆらゆら。
ゆらゆら、ゆらゆら。
揺れる温かな腕の中は気持ちがよく、寝不足がたたっていたエディは、いつの間にか眠ってしまったのだった。
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