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五章

66 見知らぬ部屋

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「……んあ?」

 目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。

 最初に目に入ったのは、天井だ。木をくり抜いたようなおかしな天井である。

 モゾモゾと体を横にすると、次に目に入ったのはカーテンだった。緑色をしたカーテンには、見覚えがある。

「もしかして……ロキースの家?」

 まだ上がったことがない、二階の寝室。

 階段と部屋と遮るカーテンが、確かこんな色をしていなかったか。

 そこまで思い至って、エディは自分がどこで眠ってしまったのか思い出した。

(は、恥ずかしいぃぃ)

 まずい。まずすぎだろう。

(ロキースに抱っこされながら寝ちゃうなんて……)

 エディの頰が、赤く色づく。

 顔や首、耳が尋常じゃなく熱くなるのを感じて、彼女は抑え込むように髪で顔を隠した。

(寝顔、見られちゃったよね……ひどい顔していなかったかな? ヨダレとか、垂らしていない? 大丈夫だった⁉︎)

 叫び出したいくらい、恥ずかしい。

 寝顔を見られただけなのに、どうしようもなく恥ずかしい。

 ベッドの上で唸っていると、足音が近づいてくる。

 ギ、ギ、と軋むのは階段だろう。

(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)

 エディは咄嗟にケットを被って一時的にでも寝たフリをしようとしたが、遅かった。

 階段を昇りきったロキースと目が合う。

 エディを見るなりふわりと浮かんだ花のような笑みに、彼女の手からハラリとケットが落ちた。

「おはよう、エディ。ああ、良かった。目の下の隈、少し消えたみたいだな」

(あぁ、もう……好き)

 告げる勇気はまだないが、思わずにはいられない。

 これはもう、決定的だ。

 恋に限りなく近い感情、なんてものじゃない。

 胸の奥に灯るこの気持ちは、間違いなく恋情と呼ぶものだろう。

 気のせいか、ロキースの周りにキラキラと花が咲いているように見える。

 彼と自分の周囲の空間が、世界から切り離されたようにも感じる。

 二人だけの世界。なんて甘美な響きだろうと、エディはうっとりした。

「おはよう、ロキース」

 そう言うエディの声は、今までになく甘く彼の名を呼ぶ。

 その声音の変化に、ロキースが気づかないわけがない。

 朴念仁ではあるが、それだけの彼ではないのだ。

 決定的なのは、彼女の目だった。今までだったらしっかりと合っていた視線が、スイ、スイと逸らされる。まるで、目が合うだけでも恥ずかしいというように。

 もう一度、乞うてみようか。

 俺に恋をしてくれと言ったら、エディはなんと答えてくれるのだろう。

 期待せずにはいられない。

 見るからに脈ありな様子のエディに、ロキースはソワソワと尻尾を揺らす。
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