魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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六章

78 一杯の紅茶

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「ヴィリニュスの鍵は、夕方になると決まった場所でしばらく止まる。もしかしたら、魔獣の寝床がそこにあって、休んでいるのかもしれない」

 だから、探索するのは明日にしよう。

 ロキースはそう言って、薄暗くなり始めた外を見た。

 いつもだったら、エディは帰る時間である。

 それは彼女も分かっているはずなのに、チラチラと窓を見ては、物言いたげな、でも躊躇うような視線をロキースに向けてくる。

 不安なのだろうか。

 ロキースにとって魔の森は実家のようなものだけれど、エディからしてみたら敵地のようなものだ。

 明日のことを心配しているのかもしれない。

 ロキースはエディを家へ帰すか少し迷って、お茶を入れることにした。

 お茶を一杯だけ。

 それくらいの時間なら、過保護な彼女の弟ミハウも、許してくれるはずだ。たぶん。

 立ち上がり、キッチンへ向かうロキースに、エディはやはり何か言いたげな視線を向けてくる。

 そういうわけでもないな、とロキースは思った。

 何か言いたいというより、ロキースから何かを言ってくれるのを待っているような気配がする。

 明日について、説明し忘れたことがあるのか。

 それとも、泣きながら訴えてきたエディの言葉を、何か間違えているとか。

 いろいろ考えるが、思い当たるものがない。

 エディの全てを見逃さないつもりで接しているが、彼女の心までは見通せない。

 彼女の心は彼女だけにしか分からないから、話して貰わない限り、ロキースに知る術は無いのだ。

 少しでもエディがリラックス出来るように、常備している蜂蜜の中で、一番おいしいと思っているとっておきの瓶を用意する。

 お湯を沸かして紅茶を淹れて、とろぉりと蜂蜜を垂らせば、ロキースお気に入りのハニーティーの完成だ。

「どうぞ」

 トレーに載せたティーカップを、慣れた手つきでエディへ手渡す。

 初めて獣人の姿で彼女と会った時、手が震えて大変だったことを思い出した。

 彼女が近くにいる。

 それだけで、心が躍った。

 なのに、お茶を出しただけで柔らかな笑みを浮かべてくれて、それだけでも嬉しいのに、更に「ありがとう」なんて言ってくれるから、ついつい舞い上がって、話の途中だというのに執拗に茶を飲むよう勧めてしまったのだ。
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