魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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七章

88 マルゴーリスのはなし

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「おやおや。随分と洗脳されているようですな。これは、根気よく治療せねばなりませんねぇ」

 もったいぶるようにゆっくりと歩いてきた男を見て、エディの両親は安堵の表情を浮かべた。

 エディを抱きしめるロキースの腕が、より一層拘束を強める。渡さないと言ってくれているようで、エディは応えるようにロキースの腕にしがみついた。

「マルゴーリスさん」

 三揃えの上質なスーツを身につけた、いかにもエリート然した男。

 気が強そうなその顔は、ルタとよく似ている。

 彼の名前は、クレメント・マルゴーリス。マルゴーリス家の当主であり、ルタの父である。

「ああ、ヴィリニュスさん。お嬢さんは予想よりも遥かに重症のようです。一刻も早く、笛を完成させて治療しなければ、手遅れになりますぞ」

「なんてこと……!」

 マルゴーリスの言葉に、エディの母がクラリとよろめく。

 そんな彼女をひしっと抱きかかえながら、エディの父は憎々しげにロキースを見た。

「よくも、娘に……!」

 歯を剥き出しにして怒りをあらわにする父親に、エディは腹が立った。エディの言うことに耳も貸さず、勝手に失神している母親にも。

「ふざけるのもいい加減にして! 僕は洗脳なんてされていない。ロキースは誠実に、僕と向き合ってくれたよ。父さんも母さんも、僕のことを放っておいたくせに、今更なんなのさ!」

「ほら。あれが魔獣の力ですよ。恐ろしいですな。早く鍵を奪うのです。そうすれば、彼女はきっと、元の優しいお嬢さんに戻ります」

 政治家であるせいか、マルゴーリスの言葉は妙に説得力がある。

 嘘ばかりだというのに、エディの父は本気で信じているようだった。

「エディタ! 鍵を渡しなさい!」

「嫌だ!」

 奪いに来た父親の腹を、エディは問答無用で蹴り付けた。

 信じてくれない親など、こんな扱いで十分である。

「ぐふぅっ……!」

 娘からの渾身の蹴りを受け、軟弱な彼女の父は見事に吹っ飛んだ。

 ガルルと手負いの獣のように威嚇してくるエディに、尻込みしている。

「え、エディタ! 良い子だから、渡すんだ!」

 それでもなんとか父親らしい威厳を保とうとしているのか、蹴られたところを摩りながらエディを怒鳴りつける。

 その目には痛さのあまり涙が浮かび、威厳なんてものは感じられない。

「うるさい、クソジジイ! ルタに騙されて、僕の話を聞きもしない。洗脳? そんなわけあるか。むしろ、そっちが彼女に洗脳されているのだろう!」

「なんてことを言っているのだ! そんなわけ……ないだろう!」

 そんなわけないと否定する彼の言葉には、明らかに間があった。

 なんとなく嫌な感じがして、エディは汚いものでも見るように父親を見る。

(まさか……ルタは父さんにまで色目を使っていないだろうな?)

 確信はない。

 だが、こんな時に限って「ルタはいくつになっても女を感じさせてくれるいい女だ」という男たちの言葉が頭を過ぎる。

 勘、だろうか。

 もしもルタが父を唆しているのだとしたら。なんだかんだ父を愛している母は、そういうものなのねと納得するだろう。良くも悪くも、母は素直すぎる。

 ロキースはといえば、エディの父親ということもあってか、反撃するべきか悩んでいる様子だった。

 困ったように眉を寄せて、どちらかといえばエディの方の動きを制御する動きをしている。

 その時だった。

 ロキースの目に、ある人物の姿が映る。
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