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七章
89 エディの矢
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ヴィリニュスの屋敷の最上階、屋根裏部屋と思しき場所にある丸い窓から、ミハウの顔がヒョコリと覗く。
その顔はどこか必死で、どうやら力一杯窓を叩いているようだ。
ロキースが耳を澄ませると、ミハウの声が微かに聞こえる。それから、こんな時でも冷静なエグレの声も。
『鍵、取り戻したんでしょ! 僕が壊すから、ここまで持ってきて!』
『魔笛はルタ様がお持ちのようです。屋敷を通ってここへ来るのは少々危ういかと。お嬢様なら、得意の弓技でここまで飛ばせるのでは?』
ロキースはなるほど、と頷いた。
確かに、エディほどの腕前であれば、彼らがいるところまで鍵を飛ばせるだろう。
だが、とロキースは思う。
フーフーと猫のように威嚇しながら声を荒らげる彼女が、果たして彼らに気付いているのか。それが問題である。
「エディ」
エディに気付いてもらいたくて、ロキースは名前を呼ぶ。
彼女は父親から目を離さないまま、「なに?」と短く答えた。
「俺が、好きか?」
「うん……って、はいぃ?」
まさかこんな場面でロキースがそんなことを聞いてくるとは思ってもみなかったエディは、素直に頷いてからギョッとした顔で彼を見上げた。
「うん。俺も」
ロキースは、それはもう清々しい笑みをエディに向けると、彼女を見つめたまま、彼女にだけ聞こえる声で囁いた。
体を屈めて顔を近づけた二人は、傍目から見ればキスをしているようにも見えたかもしれない。
丸窓から「はぁぁぁ?」とミハウの怒りの声が聞こえたが、ロキースは無視を決め込んだ。
「屋敷の最上階にある丸窓。あそこでミハウが鍵を壊すから寄越せと言っている。エグレが、きみならここまで飛ばせるはずだと言っているが……出来そうか?」
「丸窓?」
エディがチラリと上階を見上げると、ミハウと目が合った。
ギリギリと歯軋りしているような不穏な視線は、遠く離れたここまでしっかりと届く。
待っていましたというように、丸窓が開かれる。
あそこへ、矢を放てというのだろう。
エディの技術でも、届くか届かないかといった距離。
「屋敷に入って届けた方が確実なんじゃ……」
「屋敷の中には、魔笛を持ったルタがいるそうだ」
「うわ、面倒な……」
出来ることなら二度と会いたくない相手が、持っていて欲しくない物を持って待ち構えているなんて。最悪としか言いようがない。
コソコソと話し合う二人に、チャンスだと思ったエディの父が威勢良く突っ込んでくるのが見えた。
ロキースはエディから離れると、突っ込んできた父をどっせいと持ち上げた。
「あぁぁぁぁ! は、離せぇぇ!」
なんとも情けない父の声を聞きながら、エディは背負っていた弓矢を取り出した。
矢筒から矢を取り出し、予備に持っていた弦で鍵を縛り付ける。
「おい、お前! 一体何をしている!」
離れたところで傍観していたマルゴーリスが、ここでようやくエディがしようとしていることに気がついた。
だが、もう遅い。
あっという間に弓に矢をつがえたエディは、真っ直ぐ丸窓を見据えている。
いち、に、さん、よん……狙いを定めて、矢を放つ。
エディの放った矢は、まっすぐ天に向かって飛んでいく。
いけるところまで上がっていって、それから緩やかに弧を描いて落ちて──丸窓の中へ吸い込まれるように入っていった。
その顔はどこか必死で、どうやら力一杯窓を叩いているようだ。
ロキースが耳を澄ませると、ミハウの声が微かに聞こえる。それから、こんな時でも冷静なエグレの声も。
『鍵、取り戻したんでしょ! 僕が壊すから、ここまで持ってきて!』
『魔笛はルタ様がお持ちのようです。屋敷を通ってここへ来るのは少々危ういかと。お嬢様なら、得意の弓技でここまで飛ばせるのでは?』
ロキースはなるほど、と頷いた。
確かに、エディほどの腕前であれば、彼らがいるところまで鍵を飛ばせるだろう。
だが、とロキースは思う。
フーフーと猫のように威嚇しながら声を荒らげる彼女が、果たして彼らに気付いているのか。それが問題である。
「エディ」
エディに気付いてもらいたくて、ロキースは名前を呼ぶ。
彼女は父親から目を離さないまま、「なに?」と短く答えた。
「俺が、好きか?」
「うん……って、はいぃ?」
まさかこんな場面でロキースがそんなことを聞いてくるとは思ってもみなかったエディは、素直に頷いてからギョッとした顔で彼を見上げた。
「うん。俺も」
ロキースは、それはもう清々しい笑みをエディに向けると、彼女を見つめたまま、彼女にだけ聞こえる声で囁いた。
体を屈めて顔を近づけた二人は、傍目から見ればキスをしているようにも見えたかもしれない。
丸窓から「はぁぁぁ?」とミハウの怒りの声が聞こえたが、ロキースは無視を決め込んだ。
「屋敷の最上階にある丸窓。あそこでミハウが鍵を壊すから寄越せと言っている。エグレが、きみならここまで飛ばせるはずだと言っているが……出来そうか?」
「丸窓?」
エディがチラリと上階を見上げると、ミハウと目が合った。
ギリギリと歯軋りしているような不穏な視線は、遠く離れたここまでしっかりと届く。
待っていましたというように、丸窓が開かれる。
あそこへ、矢を放てというのだろう。
エディの技術でも、届くか届かないかといった距離。
「屋敷に入って届けた方が確実なんじゃ……」
「屋敷の中には、魔笛を持ったルタがいるそうだ」
「うわ、面倒な……」
出来ることなら二度と会いたくない相手が、持っていて欲しくない物を持って待ち構えているなんて。最悪としか言いようがない。
コソコソと話し合う二人に、チャンスだと思ったエディの父が威勢良く突っ込んでくるのが見えた。
ロキースはエディから離れると、突っ込んできた父をどっせいと持ち上げた。
「あぁぁぁぁ! は、離せぇぇ!」
なんとも情けない父の声を聞きながら、エディは背負っていた弓矢を取り出した。
矢筒から矢を取り出し、予備に持っていた弦で鍵を縛り付ける。
「おい、お前! 一体何をしている!」
離れたところで傍観していたマルゴーリスが、ここでようやくエディがしようとしていることに気がついた。
だが、もう遅い。
あっという間に弓に矢をつがえたエディは、真っ直ぐ丸窓を見据えている。
いち、に、さん、よん……狙いを定めて、矢を放つ。
エディの放った矢は、まっすぐ天に向かって飛んでいく。
いけるところまで上がっていって、それから緩やかに弧を描いて落ちて──丸窓の中へ吸い込まれるように入っていった。
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