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七章
90 ミハウの炎
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「ルタァァァァ! 一体なにをしている! 早く、早くあの子供のとこへ行け! 鍵はそこにある! 急げぇぇ!」
屋敷に響き渡る怒声に、ルタはビクリと体を震わせた。
父親の激昂した声など、生まれて初めて聞く。
驚いて呆然とする彼女に、マルゴーリスは「早くしろ!」と急きたてた。
「あ、あの、子供とは……」
「ミハウだ! エディタが鍵を矢に括り付けて、屋根裏部屋まで飛ばしたのだ。今、鍵はミハウが持っている。早く案内しろ。あれさえあれば、魔笛は私たちのものになるのだからな」
「わ、分かりましたわ!」
マルゴーリスの邸宅よりも小さな屋敷だが、ここもそれなりの広さがある。
初めて来た者は、案内なしで屋根裏部屋には行けるはずがない。
ルタの案内で屋根裏部屋まで辿り着いたマルゴーリスは、余裕のない声で早く開けろと喚いた。
父親の剣幕にオドオドしながら、ルタは持っていた鍵を差し込むが、扉は開かない。
「どうして……!」
ガチャガチャと鍵を回すと確かに解錠の音がするのに、扉はびくともしなかった。
「ちょっと! どうして開かないのよ。開けなさいよ、ねえ!」
力任せに扉を叩いたら、中からガタガタと何かが崩れる音がした。
もしかしたら、バリケードがあるのかもしれない。
「お父様……部屋の中に障害物があるようで、開きません」
「なんだと? ルタ、邪魔だ。どいていろ!」
苛立ちがピークになったマルゴーリスが、ヤケを起こしたように扉に飛びかかる。
突き飛ばされたルタが悲鳴を上げて床に倒れ込んだが、マルゴーリスは彼女に目をくれずに扉に挑み続けた。
何度目かにようやく扉が開き、ガラガラと何かが崩れ落ちる音がする。
「鍵を寄越せ!」
部屋に飛び込んだマルゴーリスは、開口一番そう言った。
そんな彼に、部屋の奥で椅子に腰掛け優雅に足を組んでいたミハウがニコニコと笑う。
「鍵?」
少女のような顔で、コテンと可愛らしく小首を傾げて。
「もしかして、これのことかな?」
握りしめていた手を、ゆっくりと開く。
そこにあったのは、焼け溶けた金属のかたまり。
原型が分からないくらい溶かされたそれは、もしかしなくともヴィリニュスの鍵だろうか。
マルゴーリスは、「有り得ない」と呟いた。
「有り得ない? でも、残念。僕には可能なんだよ。ああ、良かった、先祖返りで。この力があったから、エディタは好きな人と生きていけるのだもの」
──ボッ。
ミハウの指先から、炎が現れる。
ユラユラと揺れながら大きくなった炎が、大きな口を開けてニタァと笑んだ。
「ねぇ、おじさん、知っている? ヴィリニュスは、魔狼の血筋なんだ。たまに僕みたいな、先祖返りが生まれるのだけれど……魔笛はね、そんな先祖返りが人を襲わないために、もしもの時の抑止力として作られたものなんだよ。でもさ、おじさんは魔笛を何のために使おうとした?」
「私の調査によりますと、彼は魔獣を傀儡にして軍隊を作り、ロスティに戦争をふっかけるおつもりだったようです。魔の森にいる全ての魔獣を手中に収めれば、勝算は確かにあるでしょうが……」
「そんなことをされたら、困るよねぇ」
「ええ。お嬢様が悲しみますね」
「そうなんだよ! 僕はね、エディタには幸せな結婚をして貰いたいの。だって、僕の大事な双子の姉なんだから。だからね? おじさんのこと、全力で潰してあげるよ」
──ボッボッボッ!
ミハウの指先から炎がいくつも生まれて、ひとかたまりになる。
炎は狼の形になると、鋭い牙を剥き出しにしてマルゴーリスに飛び掛かった。
屋敷に響き渡る怒声に、ルタはビクリと体を震わせた。
父親の激昂した声など、生まれて初めて聞く。
驚いて呆然とする彼女に、マルゴーリスは「早くしろ!」と急きたてた。
「あ、あの、子供とは……」
「ミハウだ! エディタが鍵を矢に括り付けて、屋根裏部屋まで飛ばしたのだ。今、鍵はミハウが持っている。早く案内しろ。あれさえあれば、魔笛は私たちのものになるのだからな」
「わ、分かりましたわ!」
マルゴーリスの邸宅よりも小さな屋敷だが、ここもそれなりの広さがある。
初めて来た者は、案内なしで屋根裏部屋には行けるはずがない。
ルタの案内で屋根裏部屋まで辿り着いたマルゴーリスは、余裕のない声で早く開けろと喚いた。
父親の剣幕にオドオドしながら、ルタは持っていた鍵を差し込むが、扉は開かない。
「どうして……!」
ガチャガチャと鍵を回すと確かに解錠の音がするのに、扉はびくともしなかった。
「ちょっと! どうして開かないのよ。開けなさいよ、ねえ!」
力任せに扉を叩いたら、中からガタガタと何かが崩れる音がした。
もしかしたら、バリケードがあるのかもしれない。
「お父様……部屋の中に障害物があるようで、開きません」
「なんだと? ルタ、邪魔だ。どいていろ!」
苛立ちがピークになったマルゴーリスが、ヤケを起こしたように扉に飛びかかる。
突き飛ばされたルタが悲鳴を上げて床に倒れ込んだが、マルゴーリスは彼女に目をくれずに扉に挑み続けた。
何度目かにようやく扉が開き、ガラガラと何かが崩れ落ちる音がする。
「鍵を寄越せ!」
部屋に飛び込んだマルゴーリスは、開口一番そう言った。
そんな彼に、部屋の奥で椅子に腰掛け優雅に足を組んでいたミハウがニコニコと笑う。
「鍵?」
少女のような顔で、コテンと可愛らしく小首を傾げて。
「もしかして、これのことかな?」
握りしめていた手を、ゆっくりと開く。
そこにあったのは、焼け溶けた金属のかたまり。
原型が分からないくらい溶かされたそれは、もしかしなくともヴィリニュスの鍵だろうか。
マルゴーリスは、「有り得ない」と呟いた。
「有り得ない? でも、残念。僕には可能なんだよ。ああ、良かった、先祖返りで。この力があったから、エディタは好きな人と生きていけるのだもの」
──ボッ。
ミハウの指先から、炎が現れる。
ユラユラと揺れながら大きくなった炎が、大きな口を開けてニタァと笑んだ。
「ねぇ、おじさん、知っている? ヴィリニュスは、魔狼の血筋なんだ。たまに僕みたいな、先祖返りが生まれるのだけれど……魔笛はね、そんな先祖返りが人を襲わないために、もしもの時の抑止力として作られたものなんだよ。でもさ、おじさんは魔笛を何のために使おうとした?」
「私の調査によりますと、彼は魔獣を傀儡にして軍隊を作り、ロスティに戦争をふっかけるおつもりだったようです。魔の森にいる全ての魔獣を手中に収めれば、勝算は確かにあるでしょうが……」
「そんなことをされたら、困るよねぇ」
「ええ。お嬢様が悲しみますね」
「そうなんだよ! 僕はね、エディタには幸せな結婚をして貰いたいの。だって、僕の大事な双子の姉なんだから。だからね? おじさんのこと、全力で潰してあげるよ」
──ボッボッボッ!
ミハウの指先から炎がいくつも生まれて、ひとかたまりになる。
炎は狼の形になると、鋭い牙を剥き出しにしてマルゴーリスに飛び掛かった。
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