乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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二章 一年目あきの月

13 あきの月1日、雑貨屋の店主②

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 あきの月で育てる野菜の種を買いに行くために買い物カゴを持ったイーヴィンの肩に、シルキーはベストと同色のケープを羽織らせてくれた。
 ケープの裾に手の込んだ刺繍が刺されているのを見たイーヴィンは、シルキーが夜な夜な手仕事に励む姿を想像して、胸がいっぱいになった。彼女は気持ちのままにシルキーに抱き着く。放り出された買い物カゴが、石畳の上に落ちた。

「ありがとう、シルキー!とっても可愛い!」

 シルキーは飛びつくように抱きついてきたイーヴィンに、倒れそうになるのをすんでのところで踏みとどまった。
 男性にしては線の細いシルキーとしては、頑張った方だろう。その顔には明らかに「倒れなくてよかった」と安堵が見てとれる。

 イーヴィンのこういう無邪気な態度がより一層幼く見せているのだが、彼女にその自覚はない。
 シルキーとしてはもう少々女性らしい節度を持ってもらいたいところではあるが、彼女に「あーん」をすることが何よりも楽しい今、それはまだ先で良いかと流したのだった。

 そんなシルキーの気持ちも知らず、イーヴィンは抱き着いたらすっかり満足したのか、足元に落ちたカゴを拾うと手を振って村へと向かう。

 ゲームでは毎日のように通っていた村だが、転生してからは初めて行く場所だ。
 今日行くのは、種や肥料を始めとした様々なものを取り扱う雑貨屋である。

「雑貨屋にいるのは、リアンの嫁候補になるリサさんだったかな」

 村の入り口のすぐそばに建つ赤い屋根の建物には、『雑貨屋』の看板がかかっていた。
 イーヴィンが扉を押し開くと、カランコロンとカウベルのようなドアベルの音が店内に響く。

「いらっしゃいませ」

 落ち着いた大人の女性といった感じの声につられるようにカウンターへ目を向ければ、金の髪に青い目の、綺麗に化粧をした女性が微笑みながらイーヴィンを見ていた。

(リサさん、だ)

 記憶にあるより、ずっと綺麗な女性だ。
 緩やかにウエーブがかかる髪を結い上げ、はらりと流れた長めの前髪を耳にかける仕草は色っぽい。

「あら、あなたは……?」

「はじめまして。北の牧場を引き継ぎました、イーヴィンです。今日は、あきの月に植える種を買いに来ました」

「あぁ、アーサーの姪御さんね?はじめまして。私はリサ。ここの雑貨屋の店主です。これから贔屓にして頂けると嬉しいわ。ご注文は、あきの月に植えられる種だったわね。そうねぇ……ニンジン、サツマイモにホウレンソウ、連作したいならナスとピーマンもあるわ」

 後ろの棚にズラリと並んだ、種を詰めた瓶をいくつか取り出したリサは、イーヴィンの前に並べていく。

 驚くことに、種は五種類出てきた。一年目のあきの月に買える種は三種類だったはずである。
 一、二、三、四、五。
 何度数えても間違いなく三年目のあきの月くらいからの品揃えである。

(もしや、チートというやつでは……?)

 ふと、力をつけてくると消えていった女神を思い出す。もしかしたら、彼女が気を利かせてくれたのかもしれない。
 けれど、それなら魔法のオノやハンマーも使いやすくして欲しかった。
 一瞬そう思ったイーヴィンだが、「女神に頼りすぎるのも良くないな」と思い直す。

 予期せぬ転生先ではあったが、毎日が楽しい。
 手間がかかればかかるほど、牧場生活を満喫している気がしてくるのだ。

 とはいえ、恵まれている部分に関しては有り難く頂戴することにして、イーヴィンはとりあえず、五種類全ての種を買うことにした。

 カゴの中に入った皮袋から硬貨を出す。Mと書かれた銀貨は、プティメルバ島で使える硬貨である。M硬貨と呼ばれているそれは、十、百、千とあり、万からは金貨になる。
 因みに、発音は『えむ』。どことなく『えん』と聞こえてしまうのは、ほのかの記憶のせいだろう。

「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 にこやかな笑みを浮かべて手を振るリサにペコリとお辞儀をして、イーヴィンは雑貨屋を出た。

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