乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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四章 一年目はるの月

43 はるの月14日、感謝祭⑦

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「そ、そろそろランチよね?私、ダイニングで待ってるよ!」

 キョトンとプリンを見つめるシルキーを置いて、イーヴィンはさっさとダイニングへ逃げた。やけにドキドキするのは、自分の中に潜んでいた女らしい一面を垣間見たせいに違いない。

(もっと撫でて欲しいなんて。私もまだまだ子供なんだわ)

 子供じゃないから、シルキーに甘えている。
 シルキーを異性として意識しているからこそだとは、初恋も未経験なイーヴィンにはまだ分からなかった。

 木製のカッティングボードに乗せてシルキーが持ってきた本日のランチは、お食事パンならぬお食事ケーキ。
 ケークサレという名前なのだと教えてくれたのは、先月のことだ。相変わらず子供のような下手な字で、彼は教えてくれた。

 目の前でスライスされたケークサレは、まるで花畑のようだ。断面に色とりどりの野菜が散りばめられていて、とても華やかである。
 上に乗ったチーズの匂いは、イーヴィンに早く食べてと言っているようだった。

「おいしそう……!」

 満面の笑みを浮かべてケークサレを見つめるイーヴィンに、シルキーは嬉しそうに微笑んだ。

 切り分けたケークサレにサラダとスープを添えて、シルキーはイーヴィンの前に配膳する。「召し上がれ」と言う代わりに、一口大にカットしたケークサレを彼女の口元に運ぶ。

 素直に唇を開いてくれるイーヴィンに、シルキーは何かが満たされるような気持ちになった。ゾクゾクするようなそれは、征服欲にも似たものだったが、感じたことのない正体不明の感情の名前を、シルキーは知らなかった。

「おいひい……!」

 もぐもぐと口を動かす仕草が、実に可愛らしい。
 柔らかそうなイーヴィンの頰を見つめ、親鳥が雛に餌を与えるように、シルキーはせっせと彼女の口に料理を運んだ。

「……ふぅ。おいしかった。ごちそうさまでした。んぅぅ……今日はいっぱい走ったからなんだか眠くなっちゃうなぁ……」

 くわぁと欠伸を漏らすイーヴィンの袖をクイっと引っ張り、シルキーはリビングのソファを指差して小首を傾げる。「お昼寝する?」と言いたいのだろう。

(ぐぬぅ……男のくせに可愛いなんて、ずるい。私が男だったら、間違いなく襲うわ)

 無意識に持ち上げた手を妖しげにワキワキさせて、イーヴィンはなんとも言えない顔をした。ここで勢いのまま抱き着かなくなったのを見るに、少しは成長したらしい。

 だが、彼女のなけなしの女らしさは、シルキーの前では霞以下である。
 彼はお淑やかの権化なんじゃないかと、彼女は時折本気で思っていた。

 シルキーは、人間の言葉を話せない。
 書いたり読んだり聞いたりすることは出来ても、話すことだけは出来ないらしい。どんなに言葉を紡ごうとしても、吐息が漏れるばかりで音としてイーヴィンの耳に届くことはなかった。

 だから彼は、イーヴィンに分かるようにいつも丁寧に伝えようとしてくれる。表情で、仕草で、慣れない文字で、伝える努力を欠かさない。
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