乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春

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七章 二年目ふゆの月

76 ふゆの月13日、行き倒れ③

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「うひゃあ」

 イーヴィンはワタワタと後退った。
 身じろぎしてほんの少しズレた布の隙間から、真っ黒な目が覗く。涼しげな一重の目は、この国では少々珍しい。

(日本なら、よくあるタイプだけど)

 前世でよく見たタイプの目だとしても、この世界では人間とは限らない。
 この世界は、女神も妖精も、あらゆるファンタジーな生き物が存在しているのだ。

「ねぇ、あなた、大丈夫?」

 言いながら、イーヴィンは枝の先でツンツンと突ついた。

「大丈夫じゃないから、棒で突くのはやめてくれ」

 掠れた弱々しい声に、イーヴィンは枝を手放した。
 それからゆっくりと更に近づいて、そばにしゃがみ込む。

「どこか怪我をしているの?」

「いや」

「じゃあ、どうしてここに寝転がっているの?」

 イーヴィンの質問に答えたのは、生き物の腹の虫だった。キュルルと悲しげな声を上げるお腹に、彼女はきょとんとして、それから「ぶっ」と吹き出して笑い始める。

「あんた……失礼だろう」

「ご、ごめんなさい。まさか、農業国であるオルディワで、お腹を空かせて倒れる人がいるなんて思ってもみなかったから……」

「仕方がないだろう。その……金がないんだ」

「ダメよ、きちんと食べなくちゃ。ねぇ、私、これから村の食堂へ行くところなの。あなたも一緒にどう?」

「だが……」

「少しなら、奢ってあげるわ」

「助かる」

 のそりと立ち上がる生き物は、イーヴィンよりもずっと背が高い。
 頭までスッポリと被っていたのは、真っ黒なローブだったようだ。
 風に煽られてフードが落ちると、雪と泥まみれの顔があらわになった。

 真っ黒な髪は、泥を落とせばサラサラしていそうだ。男らしく、潔く一文字に切り揃えられているーーといえばカッコイイが、おかっぱ頭や姫カットのような髪型をしている。
 切れ長の目と相まって、日本人形のような雰囲気があった。

(やけに懐かしく思うのは、髪型のせいかしら?まるで日本人みたいなんだもの)

 男性でおかっぱ頭はかなり珍しい。
 だが、イーヴィンは、前世でそんな髪型をしている男性と面識があったせいか、あまり気にならなかった。

 フラフラとしている体を支えると、ローブの上からでも、彼がかなりの細身なのが分かる。

「……あなた」

「なんだ?」

「何処かで会ったこと、ないわよね?」

「なんだ、それは。使い古したようなナンパの台詞みたいだな」

 眉根を寄せると、研いだ刃のような鋭さがある。
 神経質そうな、それでいて真面目そうな男だとイーヴィンは思った。

「そうよね。なんか、あなたを見ていると懐かしい感じがしちゃって」

「マ……キオ」

「え?」

「私は、マキオだ」

「私はイーヴィンよ」

 雪が積もる道を、イーヴィンはマキオを支えながらゆっくり歩く。
 食堂に着いた時、リアンとの約束の時間を大幅に過ぎていたが、彼はイーヴィンが連れてきた謎の人物に興味津々で、文句を言うことはなかった。
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