110 / 110
終章 三年目あきの月、改め9月
108 9月23日、次の花嫁②
しおりを挟む
額を押さえながら、足元に落ちたブーケを拾う。
顔を上げたその先。教会の入り口で、モアが手を叩いて喜んでいる。
「ふふふっ!次の花嫁はあなたね、イーヴィン!」
果たして意図的に投げられたブーケにご利益はあるのだろうかとイーヴィンは思った。
そんな彼女の隣では、礼服に身を包んだシルキーが、締まりのない顔で甘ったるい微笑みを浮かべながら『了解しました』とばかりにモアへ手を振っている。
シルキーは牧場の敷地内から出ない妖精だが、家ではなくイーヴィンに付いたことで敷地外にも出られるようになっていた。
おかげで外でデートが出来るようになったので、イーヴィンは嬉しい。
つい先日なんて、からかってきた定期船の船長に自慢してしまったくらいだ。
『ねぇ、イーヴィン。ウエディングドレスはどんなのが良いですか?あなたは脚が綺麗だから、思いきって短めのドレスも素敵かもしれない』
「そうねぇ。私としては、シルキーもウエディングドレスを着せたいくらいなんだけど」
思い出すのは、初めての星まつりの日。
姉妹のような格好をしたのは、とても素敵な思い出である。
(シルキーは男性にしては華奢だから、スレンダーラインのドレスも良いかもしれないわ。肩をちょっと隠すようにチュールとか使って……)
花嫁姿のシルキーを想像して楽しそうにしているイーヴィンに、彼は面白くない。
恋人として濃密な毎日を送っているのに、彼女はまだ女扱いをしてくるのである。
これは分からせないといけないなと彼が思うのは、当然のことだった。
『……イーヴィン』
シルキーの声が、低くなる。
怒っているのかと隣を見れば、見せつけるように邪悪な笑みを浮かべる彼がそこにいた。
美人がそんな顔をすると、凡人がするよりも大迫力である。
「な、なにかな、シルキーくん」
『僕は、男です。今夜は嫌と言うほど分からせてあげますので、楽しみにしていて下さいね』
宣戦布告するように軽く唇を啄ばんでくるシルキーに、イーヴィンは慌てて謝るがもう遅い。
今夜こそコウノトリがきますかね、なんて宣うシルキーに顔を真っ赤にしながら、イーヴィンは顔を隠すように彼の背中をポカポカと叩いた。
ベッタベタのバカップルな二人に、周囲が生暖かい視線を向けたのは言うまでもない。
「まぁまぁ、見まして?次の花嫁はあの子でしてよ!」
「ほう。それはそれは」
「めでたいわねぇ」
天上の神々が、下界を見下ろしてコロコロと笑う。
「そうねぇ。では、ちょっと早いけれど、神々から祝福を」
女神からは、末永き幸せを。
姉神からは、末永き愛を。
兄神からは、末永き人生を。
三柱の神から祝福を受けて、ほんの一瞬だけイーヴィンが淡く光り輝く。
「でも、来世はいらないなんて、本当に良いのでしょうか?彼女には、聖女の素質がありますのに」
「出来る限り寿命を伸ばせ、出来ないなら一年を十二ヶ月にしろって願いは予想外だったわ。まぁ、叶えたけど」
「なんだ。私は意図せず寿命を延ばしてしまったのか。そのうち彼女に伝えに行ってやろう」
「兄様は彼女の前に現れないで下さい。彼女が穢れます」
もっと罵ってくれと縋る兄神を、ナメクジをみるような目で見る女神。
そんな二人を放置しながら、姉神は次なる出会いのためにせっせと爪を磨く。
今日も、神々は自分勝手で。
今日も、天上は相変わらずである。
顔を上げたその先。教会の入り口で、モアが手を叩いて喜んでいる。
「ふふふっ!次の花嫁はあなたね、イーヴィン!」
果たして意図的に投げられたブーケにご利益はあるのだろうかとイーヴィンは思った。
そんな彼女の隣では、礼服に身を包んだシルキーが、締まりのない顔で甘ったるい微笑みを浮かべながら『了解しました』とばかりにモアへ手を振っている。
シルキーは牧場の敷地内から出ない妖精だが、家ではなくイーヴィンに付いたことで敷地外にも出られるようになっていた。
おかげで外でデートが出来るようになったので、イーヴィンは嬉しい。
つい先日なんて、からかってきた定期船の船長に自慢してしまったくらいだ。
『ねぇ、イーヴィン。ウエディングドレスはどんなのが良いですか?あなたは脚が綺麗だから、思いきって短めのドレスも素敵かもしれない』
「そうねぇ。私としては、シルキーもウエディングドレスを着せたいくらいなんだけど」
思い出すのは、初めての星まつりの日。
姉妹のような格好をしたのは、とても素敵な思い出である。
(シルキーは男性にしては華奢だから、スレンダーラインのドレスも良いかもしれないわ。肩をちょっと隠すようにチュールとか使って……)
花嫁姿のシルキーを想像して楽しそうにしているイーヴィンに、彼は面白くない。
恋人として濃密な毎日を送っているのに、彼女はまだ女扱いをしてくるのである。
これは分からせないといけないなと彼が思うのは、当然のことだった。
『……イーヴィン』
シルキーの声が、低くなる。
怒っているのかと隣を見れば、見せつけるように邪悪な笑みを浮かべる彼がそこにいた。
美人がそんな顔をすると、凡人がするよりも大迫力である。
「な、なにかな、シルキーくん」
『僕は、男です。今夜は嫌と言うほど分からせてあげますので、楽しみにしていて下さいね』
宣戦布告するように軽く唇を啄ばんでくるシルキーに、イーヴィンは慌てて謝るがもう遅い。
今夜こそコウノトリがきますかね、なんて宣うシルキーに顔を真っ赤にしながら、イーヴィンは顔を隠すように彼の背中をポカポカと叩いた。
ベッタベタのバカップルな二人に、周囲が生暖かい視線を向けたのは言うまでもない。
「まぁまぁ、見まして?次の花嫁はあの子でしてよ!」
「ほう。それはそれは」
「めでたいわねぇ」
天上の神々が、下界を見下ろしてコロコロと笑う。
「そうねぇ。では、ちょっと早いけれど、神々から祝福を」
女神からは、末永き幸せを。
姉神からは、末永き愛を。
兄神からは、末永き人生を。
三柱の神から祝福を受けて、ほんの一瞬だけイーヴィンが淡く光り輝く。
「でも、来世はいらないなんて、本当に良いのでしょうか?彼女には、聖女の素質がありますのに」
「出来る限り寿命を伸ばせ、出来ないなら一年を十二ヶ月にしろって願いは予想外だったわ。まぁ、叶えたけど」
「なんだ。私は意図せず寿命を延ばしてしまったのか。そのうち彼女に伝えに行ってやろう」
「兄様は彼女の前に現れないで下さい。彼女が穢れます」
もっと罵ってくれと縋る兄神を、ナメクジをみるような目で見る女神。
そんな二人を放置しながら、姉神は次なる出会いのためにせっせと爪を磨く。
今日も、神々は自分勝手で。
今日も、天上は相変わらずである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
977
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こちらの作品も読んでくださってありがとうございます!嬉しいです。
私も、こんなのんびりした世界でシルキーに構われながらほっこり生活したいです(笑)
ご指摘の樹木の成長についてですが、正しくは『一年』ですね。盛大に間違えたままにしていて、焦りました。教えていただき、ありがとうございます。
成長については、当然ながら異世界の人たちは疑問に思っていないということが前提になるのですが。恐ろしいことに、 大人とされる十六歳になるまで、前世の時間に換算すると五、六年程度になります。
だからこそ、ほかの転生ものにあるような、幼少期で前世の記憶を思い出すという流れをせずに、十六歳で思い出すという流れにしました。乙女ゲームの世界じゃないから、下準備が必要なかったというのもありますが……。
ゲーム中で主人公が老いることは通常ないのですが、やはり転生したからにはそうはいきません。妖精であるシルキーとは、当然ながら寿命が違います。
イーヴィンとシルキーがどうなるのか、来世はどうするのか、少しずつ書いているので、また読んで頂けたら幸いです。
なぜ、王子?何故に獣医、大工と来て王子?身分大丈夫なのか・・・
王子は王位継承権がほぼ無いため、争いから逃げて島まで来たという流れでしたが、詳しく書いていないので分かりにくいですよね。
すみません。
王子がいるのは、ハーモニーハーベストというゲームの仕様です。
基本は子供も遊べるようなゲームの世界なので、女の子が憧れるような王子様とも問題なく結婚出来てしまいます(笑)
すごい私の好きなDSゲームににています笑笑
好きです
似ていますか(笑)
まるきり同じにならないように、でも雰囲気だけは伝わるようにと書いています。
好きだと言って頂けて、嬉しいです。
ゲームだと勝手にお風呂とか用意されていたりしたので、そういうのをカバーしてくれるキャラクターがいたら面白いなぁと思い、シルキーが生まれました。